第34話
俺達マジックナイツは、水の都・イルガーナを訪れていた。
封鎖された噴水広場を見て、レミアムが落胆する。
「はぁ。わかってはいたけど、ここまで来て噴水も見れないなんてね」
「それの解決に来たんだ。終わったらいくらでも見れるさ」
リーダーの言う通り、俺達は水の都の地下水源汚染問題の解決に来ていた。
調査はすでに済んでいて、原因もわかっている。
それは、地下水源に現れた『エルドスパイダー』という魔物だ。
エルドスパイダーはS級の魔物で、とにかくでかくて素早く、一瞬で子供を大量に生み出すことが特徴だ。
エルドスパイダー単体でなら、敵の攻撃を受け止めて反撃を飛ばすような前衛職が有利だが、それでは子供達の対処ができない。かといって範囲攻撃が可能な魔術師を連れていくと、その素早さからすぐに陣形を突破されて魔術師を狙われてしまう。
つまり、エルドスパイダーに対しての最適解は、魔術師が子供達を倒して、魔術師がエルドスパイダーをけん制・攻撃するという複数人の魔術師パーティーなのだ。
この話を聞いた時、適材適所とはいうが、俺達のような尖った編成が最適になることもあるもんなんだなぁと感心した覚えがある。
しかし考えてみると妙な話で、突然エルドスパイダーが現れたことも、なぜ水を汚染しているのかも謎だった。エルドスパイダーの生態からすれば、水を汚染させるようなことはしないはずなのだ。
それでも、前者に関しては心当たりがないわけではなかった。
それは、『サモン』だ。
しかし、『サモン』の契約は対象の魔物に合意をとるか、圧倒的な力の差をもってなければ成立しない。エルドスパイダーに意思があるとは考えられず、S級の魔物に圧倒的な力を示すことも人間には到底できないので、妙な話であることに変わりはないのだが。
しかし、『サモン』が禁術であるがゆえに、確証がない段階でそれを言い出すわけにはいかなかった。
ギルドの作戦会議室に連れて来られると、さっそくギルド長の話が始まった。
「マジックナイツの皆様、手を貸して頂き感謝を申し上げます。さっそく作戦についてなのですが、解決は一刻も早くとのことなので決行は明日。エルドスパイダーの活動が鈍くなる正午ごろに遭遇するように、出発は朝方でよろしいでしょうか?」
「ええ、問題ありません」
「ありがとうございます。現場でのことはそちらにお任せしますが、エルドスパイダーの動向について一つお伝えしておきたいことがあります」
「動向?」
「はい。まだ確証があるわけではないのですが、エルドスパイダーは水の精霊を狙っているという可能性があるのです」
「精霊というと、地下水源にいるといわれているウンディーネですか?」
「はい。足取りはゆっくりなのですが、水の精霊がいる部屋に向かって進んでいっているのです」
この当時はまだウンディーネの存在は黙秘されており、いるという噂がある程度の話だった。
「ふむ……しかしよくわからない話ですね」
リーダーの疑問ももっともだった。
先程も言った通り、エルドスパイダーに意思があるとはとてもじゃないが思えない。それに、エルドスパイダーが精霊に何の用があるというのか。
「あるいは偶然かもしれませんし、一応お耳に入れておこうと思ったのです。それから、精霊の間の位置なのですが───」
念のためにということで、精霊の間。つまりウンディーネが召喚されている場所を教えられる。
「エルドスパイダーが移動している可能性もありますので、予測地点にいなかったらこちらの方に移動してみてください」
「わかりました。それでは失礼します」
リーダーの挨拶を皮切りに、俺達は部屋を出ていく。
ギルドを出たところで、ガーディスが話しかけてきた。
「俺、精霊なんて見たことないんすよねー。師匠はどうっすか?」
「俺か?俺もないな。そもそも精霊なんて人前に姿を現すもんでもないだろ」
「師匠でもないんすか!俺、会ってみたいっす!」
「運が良けりゃ……いや、悪けりゃ会えるんじゃないか?まあその時は俺が精霊を助けてやるがな」
「さすが師匠!」
そんな俺達のやり取りを聞いていたレミアムが、ため息をつく。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと宿に行くわよ」
「「はーい」」
いつも通りのやり取りをして、俺達は笑いに包まれた。
翌日、俺達は予定通り地下水路にやってきていた。
「しっかし辛気臭い場所ね」
「じめじめしてて嫌な気分になっちゃいますね……」
女性陣のレミアムとエリンはすでに気が滅入っているようで、その足取りも軽やかではなかった。
対する男性陣はというと───
「おい見ろよガーディス!ここキノコ生えてんぞ!」
「ダルツさん!それキノコンボっすよ!魔物っす!」
「はぁ?……ぐおわっ!」
キノコンボは突然胞子を爆発させ、ダルツはキノコの胞子まみれになった。
「馬鹿だなダルツ。ガキじゃねえんだから」
そうダルツを笑いものにしていた俺にも、ガーディスの叫びが届く。
「師匠!足元!」
「はぁ?……ぐおわっ!」
どうやら俺の足元にもキノコンボがいたようだった。
「二人とも、もうちょっと緊張感を持ってくれないと……」
「俺のは事故だろうが!」
───と、駆け出し冒険者みたいなことをしていた。
そんな茶番をしながらどんどん奥に進んでいく。
しかし、予定ではこの辺りいるはずだという場所まで来ても、エルドスパイダーの気配すら感じなかった。
「リーダー」
レミアムが声をかける。
「うーん……考えられるとしたら昨日のギルド長の話だ」
「精霊を狙ってるかもしれないってやつか」
「そんなことありえるんすか?」
「わからない。けど、こんなところにエルドスパイダーが現れたこと自体不可解なんだ。何があってもおかしくない」
「そうですね……精霊の間に行ってみましょう」
「ああ」
それから俺達は、精霊の間に向かってひたすら歩いた。
「……いるな」
精霊の間目前というところまで来た時、ようやくエルドスパイダーのものと思わしき嫌な気配を感知できた。
そして、俺はそれと同時にこの事件の真相を確信した。
「本当に精霊を狙ってたってのか?」
「……そうなるんじゃないかな」
「だとしたら、相手はエルドスパイダーだけじゃないって考えた方がいいわね」
「……『サモン』だな」
「『サモン』?」
『サモン』のことを知っていたのは俺とレミアムだけだったようで、残りの四人に説明をする。
誰かがこの地下水路に侵入し、『サモン』でエルドスパイダーを召喚したという可能性。
そして、精霊の間に召喚されているウンディーネにさらに強力な召喚の契約をすれば、ウンディーネを攫うことが可能だということも。
「なるほど。水を汚染させていたのもウンディーネを弱らせるためだったってことか……」
「でも、エルドスパイダーと契約なんてできるんすか?」
「少なくとも俺には無理だな。おそらく魔王軍の関係者……下手したら幹部ってこともある」
「エルドスパイダーを囮に使うくらいなのよ?下手しなくても幹部クラス間違いなしよ」
レミアムの言葉に緊張が走る。
しかし、ここまで来て撤退というわけにもいかない。
現にウンディーネが攫われているのだとしたら、なんとしてでも阻止せねばならない。作戦を考え直す暇もないだろう。
「……気を引き締めよう。とにかくまずは作戦通り僕とダルツとレミアムでエルドスパイダーのけん制。セロとガーディスが子供の処理。エリンにエルドスパイダーへの攻撃を任せる。エルドスパイダーを召喚した相手がいた場合は、追って指示を出す」
「「「「「了解」」」」」
「いくぞ!」
リーダーの合図と共に、それぞれのポジションへと駆け出す。
エルドスパイダーもすぐにこちらの動きに気づき、戦いの火ぶたが切られた。
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