第33話
そんな茶番劇をしていると、約一週間ぶりの顔がやってきた。
「セロ!」
「おお、リーダー」
リーダーの顔を見て、俺は一番に安心をした。
今のリーダーの顔からは別れ際にしていた消えそうな表情は消え去り、以前かそれ以上にいい顔をしていたからだ。
「セロ、魔物を引き連れてっていうのは……」
リーダーはインフェルノちゃん、ウンディーネちゃん、メデューサをぐるりと見てから、困った様子を示した。まあ全員ぱっと見人間だしな。
「まあなんだ。とりあえずリーダーと二人きりにしてくれないか?」
「貴様、どの分際で……」
「いや、構いません」
「……わかりました。ではこちらへ」
先程尋問をしていた人に、小さな個室に連れてこられる。
「……久しぶりだな」
「ああ、まさかこんな形で再開するとは」
「まったくだ」
お互い疲れたように笑いあうと、いきなりリーダーが謝罪をしてきた。
「すまない。セロが指名手配されてたのは俺のせいなんだ」
それからリーダーは、ギルド長に禁術のことを話したのと、誤解を解けなかったことを話してくれた。
「なるほどな。まあウンディーネちゃんを召喚しちまったのは事実だし何とも言えないんだがな」
「どうして召喚したんだい?」
「あー、まあその辺をもろもろ話すと───」
こちらもお返しとばかりに状況を話す。インフェルノちゃんと出会ったこと。言い訳にも使ったベヒーモスの件。ウンディーネちゃんの件。メデューサの件は、ヤヒムで出会った人だとごまかしておいた。なんとなく話す気になれなかったのだが、自分でもそれが不思議だった。俺は何か大事なことを忘れているような───
「なるほど。話を聞いた時にはまさかセロが魔王軍に降ったんじゃないかって焦ったよ」
「そんなわけねーだろ」
もっと信用してくれ。
「しかし、インフェルノドラゴンか……それは確かに公には言えないね」
「だが、いつまでも隠し通せる気はしないんだよな……」
「うーん、冒険者登録をするのが一番早いけど、もうこんな状況になっちゃったからね……」
二人であーでもないこーでもないと考えてみたが、結局いい案は出なかった。
そうこうしているうちに日も暮れてしまい、俺達は結局この検査室で一晩を過ごすことになった。
「別にリーダーまで付き合ってくれなくていいんだぞ?」
「いや、僕もここには今日着いたばかりで宿も見つかってないんだ」
「そりゃご苦労だな」
移動距離的にリーダーの方が先に着いているものとばかり思っていたが、あまり差はなかったらしい。俺はインフェルノちゃんで大部分をショートカットしたので、それでちょうど同じくらいになったのだろう。
「それに、色々としたい話もあるから」
リーダーは一つ咳払いをしてから、改めて話を始めた。
「セロは、奇跡の杖のことを知ってるかい?」
「はぁ?」
いきなりなんだそりゃ。聞いたこともねえぞ。
「この世界のどこかにあるっていわれている杖で、習得していない魔術でも使えるようになるらしいんだ」
「そりゃ、魔術師泣かせだな」
「まったくだね」
はははと笑うリーダー。しかし、本当にそんな杖があるのだろうか。
「僕はね、その杖を探す旅に出ることにしたよ」
「……そうか」
この一週間でリーダーになにがあったのだろうか。
それを聞くなんて野暮なことはできなかったが、その変化はとても尊いものに思えた。
俺には到底そんな杖があるとは思えないが、リーダーがそれを探し求めたいというなら止める理由もないだろう。
「セロはこれからどうするんだい?」
「俺か……」
マジックナイツが解散してから約一週間。
俺は未だに今後のことを考えないでいた。フォーレンに帰るなんて言って問題を先延ばしにしていただけなのかもしれない。
インフェルノちゃんは魔王軍を倒して回ると言っているが、本当に俺はそれで良いのだろうか?なぜ無意識的にそれを受け入れて行動していたのだろうか?
おそらく、俺が本気で他のことをしたいと言えばインフェルノちゃんは受け入れてくれるだろう。俺達はそこで別れて、別の道を行くだけだ。
……インフェルノちゃんが俺を強引に誘ってきたのは、そんな俺の心を読んだからなのかもしれない。ドラゴン流の暇つぶしというところだろうか。
「……ま、これから考えるさ」
「そうか。……セロもまだ、自分を許せてないんだね」
「は……?」
自分を許せてない?何の話だ?
「死から目を逸らすな。それが冒険者である資格だ」
「……」
「まあ、受け売りの言葉なんだけどね。僕もそう思ってるよ」
この時の俺には、リーダーが何を言っているのかさっぱりわからなかった。
俺を諭すようなリーダーの声音に、ただただ困惑していたのだった.
翌日、門番に起こされた俺はいつの間にか街に入る許可を得ていた。
話を聞くと、どうやらリーダーがギルド長を説得してくれたようで、俺の指名手配も取り消されたというわけだった。
しかし、それはそれ。これはこれ。というわけか、インフェルノちゃんの方は相変わらず街に入ることを許可されていなかった。
「まったく、本当に不敬なやつらじゃな」
昨日検査室で寝泊まりになったことに不満を爆発させていたインフェルノちゃんも、一周回ってこの通りといった感じで、文句を言いつつも落ち着いていた。
「ねーねー、ここでおわかれなのー?」
ウンディーネちゃんが俺の裾を引っ張る。
一日経ってウンディーネちゃんも冷静になってくれたのか、今日は話し合いに応じてくれそうだった。
「んー。ウンディーネちゃんは、この街のこと好きか?」
「きらい!」
ダメでした。
ウンディーネちゃんの必要性を訴えようかと思ったが、この街のことが嫌いならどうしようもない。だって嫌いなんだもん。
「この街は水がいっぱいあるだろ?そういうとこは?」
「それはすきー」
よし。解決の糸口が見えた。
「この街の水はな、ウンディーネちゃんがいないと汚れてくんだよ。だから、この街にはウンディーネちゃんが必要ってわけ」
諭すように言うと、ウンディーネちゃんは涙目で訴えかけてきた。
「おにーさんは、わたしといるの、いや?」
「可愛いなあおい」
返事になってなかった。
「えへへー」
喜ぶウンディーネちゃん。やっぱりかわいい。
「まあ、なんだ。ウンディーネちゃんが本当に嫌だっていうなら……」
嫌だっていうなら?
俺は、何を言いかけたんだ?
「やだやだやだ!もどるのはやだー!」
「……」
なんだろう?
俺は今の状況に、謎の既視感を覚えていた。
ウンディーネちゃんに涙目で擦り付かれる。そんな事案的光景に、なぜ既視感があるのだろうか?
「……本当に思い出せぬのか?」
突然インフェルノちゃんに声をかけられる。
なんだ?
何があったんだ?
俺は何を忘れているんだ?
思い出せ。何か手掛かりはあるはずだ。
水の都に来てから、なぜか俺は妙な感覚になることがあった。
一回目は、メデューサのことをごまかした時。
二回目は、ウンディーネちゃんに何かを言いかけた時。
そして、さっき感じた謎の既視感。
なぜだ?水の都が関係しているのか?
水の都といえばウンディーネちゃんだが…………あ。
そもそも、俺はなんでウンディーネちゃんに懐かれているんだ?
その疑問に辿り着いた瞬間、失われていた記憶が一気に脳裏を駆けた。
そうだ。俺は、あの時ウンディーネちゃんに───
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