第32話


「……!いた!ベル様!」


 レストランでの食事の後、リリアさんを家まで送り届けてから、今日の宿を探していた。

 水の都は栄えていて、観光名所でもあることから宿はかなり多い。

 声をかけられたのは、そんな宿探しに迷っている時だった。


「あなたは?」

「すみません。私はギルドの者で、ギルド長からの伝令を持ってまいりました!」

「ギルド長から?」


 ギルド長には、これからどこに行くかということは伝えていなかった。現に、僕は宿を決めあぐねて街中をぶらついていただけだ。

 そんな僕に伝令を寄こしてくるなど、いったいどんな緊急事態だというのだろうか。


「水の都に……セロが魔物を引き連れてやってきたんです!ベル様には至急東門まで来るようにと!」

「なんだって!?」


 セロが……魔物を!?

 そもそもセロはフォーレンに向かっていったのではなかったのか?

 いや、ギルド長はヤヒムで確認されたと言っていたはずだ。セロがフォーレンを目指していたのは間違いない。


「……わかった。すぐに向かおう」


 今は考えても仕方がない。

 とにかくセロに合うべきだと考え直した僕は、急いで東門へと駆け出した。

 ───最悪の事態になっていないことを祈りながら。








「いやだから、魔王軍とは関係ないって言ってるだろ!」

「だったらなぜ精霊様を攫った!」

「攫っ……たわけではないといいますかなんといいますか」


 水の都に着いた俺達は、なぜか検査室に拘束された。

 なぜかというのは、拘束されたこと自体に疑問を抱いているわけではない。ウンディーネの件で問い詰められるのは分かるのだが、それよりも不可解なことがあった。

 俺達が拘束されたのは、ウンディーネの件がバレたからではなく、俺が指名手配されていたからだったのだ。


「まさか、本当に犯罪者になってるとはのう……」

「のんきなやつだな……」


 しかし、元Sランクだった恩恵か、いきなり牢獄にぶち込まれるとかそういったことはなかった。

 四人全員が同じ部屋に連れ込まれ、監視をつけられて尋問されているだけだ。

 ……全然だけではなかったわ。


「精霊様、ご安心ください。必ずや元の場所へ返しますから……」

「や!」

「精霊様!なぜなのですか!」

「やー!」


 あっちはあっちで何してんだか。

 ウンディーネちゃんの方を眺めていると、尋問官に怒鳴られた。


「無視をするな!精霊様の誘拐だけではなく、魔物まで引き連れているではないか!どういうつもりだ!」

「わしをそこらの魔物といっしょにするでないわ!」

「だったらなぜ身分証を持っていない!」

「む。それは……」


 まあインフェルノちゃんも広義的には魔物だしな。

 それに対し、メデューサはちゃっかりしていた。どこで作ったのかは知りたくもないが、しっかりとメイという名義の身分証を持っていたのだ。

 メデューサは頭の蛇を髪の毛に擬態させることもできるので、そうしてしまえば一見人と区別がつかない。ヤヒムの街に普通にいたことも合わせると、この手の魔王軍の手先はそこそこいるのかもしれない。知りたくもなかった。

 つーかウンディーネちゃんは別として、なんで唯一普通に魔王軍関係者のメデューサだけが怪しまれてないんだよ。おかしいだろ。


「……ふっ」


 こいつ鼻で笑いやがった。絶対後で売り飛ばす。決めた。

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