第30話


 慌てて追いかけようと思った矢先、今度は後ろから声をかけられた。


「あ!ベル!本当に来ていたのね!」

「リリアさん……」

「同僚が気を利かせちゃって。せっかくだしご飯でもどう?」

「……わかりました」


 この状況でリリアさんを放ってしまうわけにもいかず、僕は心の中でセロに謝罪をした。誤解は明日にでも解けばいいだろう。


「最近できたおすすめのレストランがあるの。そこにしましょう」

「いいですね。奢りますよ」

「いいの?」

「ええ。これでも稼いでますから」

「そりゃあSランクパーティーのリーダー様だもんね」

「元、ですけどね」


 僕がそう告げても、リリアさんは特に驚いた様子もなかった。


「……そう。まあ、あとはレストランに着いてからにしましょうか」

「そうですね」


 歩きながら暗い話をするのもいかがなものかということで、リリアさんの近況などを聞きながらレストランへと向かっていった。




「それで?せっかくのSランクなのに解散しちゃうの?」


 レストランで料理を食べ終えると、リリアさんはそう切り出した。


「はい。もう聞いているとは思いますが、ガーディスと、それからエリンが……」

「うん」

「……エリンが、死にました」


 この時、僕は初めてエリンの死をはっきりと自分の口から言葉にした。

 僕はどんな顔をしていたのだろうか?

 自分ではわからなかったが、リリアさんは穏やかな表情で僕のことを見つめていた。


「リリアさんには、しっかり話しておきたいです。エリンが、どうして死んだのかを」


 言い訳を作ってくれたセロには申し訳ないが、僕はリリアさんにだけは全てを話すつもりでいた。


「だいたいは聞いているわよ?」

「いえ。あれは、嘘なんです」

「え……」


 さすがに嘘だとは想定していなかったのか、リリアさんは初めて素の表情を見せた。


「僕達が戦ったのはヘルグレアでした」

「ヘルグレア!?……あっ」


 リリアさんの叫び声に反応するように、他の客がこちらを伺う。

 叫んだ内容が魔王軍幹部の名前だったことも大きな要因だろう。


「ごめんなさい……それで?」


 リリアさんが小声で促すので、僕も少し声を抑えながら話を続けた。


「元はオークキングの討伐という依頼だったんです。でも、そこにいたのはヘルグレアでした」

「虚偽依頼じゃない……どこから受けたものなの?」

「それは言えません。余計な波風を立てたくないんです。それに、狙ってやるには危険すぎます。向こうも騙すつもりじゃなかったんでしょう」

「そうは言っても……」

「それに、本題はそこじゃないんです」

「……」


 声が震える。

 そんな僕を見守るように、リリアさんは黙り込んだ。


「エリンは、僕を庇って……死んだんです」

「それって……」


 リリアさんも同じ光景を思い浮かべているのだろうか。

 僕達が初めて失った大切なもの。

 あの時の、ジルの背中を。

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