第26話
エリンはすでに疲れているようで、僕のさらに後ろをついてきていた。前のはしゃいでいる二人とエリンがはぐれないように、僕がちゃんと注意しなければ……
「おーい!おせーぞベル!」
「エリン!ちゃんと付いてきてるー?」
前を行く二人が急かしてくる。
「大声出すと魔物に気づかれるよ!ちゃんと付いてきてるから少し落ち着いて!」
後ろのエリンを確認してからそう返したが、二人は僕の注意を聞いたのか聞いてないのか何やら大はしゃぎな様子でどんどん先に進んでいくのだった。
しばらく奥に進んでいくと、先を行く二人が何やら物陰に隠れながら立ち止まった。
「おい!早く来い!」
ジルが急かしてくるので何事かと近づくと、どうやら魔物を観察しているようだった。
ぱっと見はゴブリンの群れだったが、よく見るとゴブリンの中に特に強そうなのが何体か混ざっている。
「多分、あのちらほらいるのがボブゴブリンとゴブリンメイジで、一番でけーのがゴブリンロードだぜ」
「ゴブリン軍団ってとこね」
二人が興奮した様子でゴブリン軍団を眺める。
しかし、ボブゴブリンやゴブリンメイジは僕らにとってそこまで危険ではないが、ゴブリンロードはなんとか勝てるといったレベルだ。
「二人とも、流石にゴブリンロードはやばいよ。今すぐ撤退しよう」
僕がそう言うと、ジルは僕を蔑む目で見てきた。
「おい、ベル。本気で言ってんのか?ここで撤退なんて、冒険者失格だぞ?」
ジルの言葉に、僕は自分でも珍しいと思うくらいに激怒した。
「ジルは無駄死にするのが冒険者だと言いたいのか?違う。自分の力をわきまえて危険な相手には素直に撤退するべきだ。僕達はまだE級冒険者。ゴブリンロードもEランクの魔物。でもこれは単体の話だ。あれだけの軍団となると多分Dかそれ以上の……」
「うるせぇ!!」
僕の言葉を遮るようにジルが叫ぶ。
「そんな堅実に生きたいならお役所仕事でもしてろ!俺達は夢を求めて冒険者になったんじゃねぇのか!少なくとも俺はそうだ!」
「僕だって夢があるさ!でも、こんな所で無理をするのは間違ってる!」
僕達がヒートアップする中、リリアさんは先程追いついたエリンに状況を説明していた。
つまり、誰一人としてゴブリンの軍団に目を向けていなかったのだ。
そんな状況で大声を出していれば、当然ゴブリン達に気づかれてしまう。
最初に襲われたのは、ジルだった。ゴブリンメイジの放ったファイアーボールが、ジルの左足に命中したのだ。
「ぐあっ…!」
ジルが呻き声をあげながらゴブリン達の方に目を向けたことで、僕達はようやく襲われたことに気づく。
「ジル!大丈夫!?」
リリアさんがすぐにジルの元に駆けつけ、ジルに追撃しようと襲い掛かってきたゴブリンを槍で薙ぎ払う。
「クソっ!足をやられちまった!だが、痛ぇけど戦えねぇって程じゃねぇ!」
ジルは足を引きずりながらも、立ち上がって剣を構えた。
形的にはゴブリンの軍団に奇襲されたものの、所詮はゴブリンなのか包囲などはされていなかった。
なので、ジルとリリアがゴブリン達を食い止めて、僕とエリンが後ろからゴブリン達を狩っていくという形が整うと、形勢は僕達に傾いた。
「やっぱゴブリンなんて敵じゃねぇな!」
ジルが叫ぶと、ゴブリン達もこちらの力を認めたのか、ゴブリンの波状攻撃とゴブリンメイジの魔術攻撃だけではなくボブゴブリンまで前に出てきた。
「二人共!ボブゴブリンが出てきた!三匹だ!まずは一匹集中的に仕留める!その間に増えたゴブリン達は僕とエリンで処理するから、二人は残りボブゴブリンを任せる!」
「「了解!」」
「エリン、ボブゴブリンの弱点は頭だ。そこは二人が狙うと思うから、僕達は足を狙って行動を邪魔しよう」
「は、はい!」
エリンにも指示をして、万全の体制でボブゴブリンを迎える。
すると作戦通り、最初のボブゴブリンはすぐに倒すことが出来た。
しかし、その間に増えたゴブリンが思ったよりも多かった。僕とエリンだけでは処理が間に合わない量にまで増えていたのだ。
「数が多すぎる……エリン!そっちは大丈夫か!?」
「だ、ダメです!ゴブリンがもう近くまで……きゃあ!」
僕はなんとか処理出来ていたが、エリンの方に数が偏っていたようで、もう数匹のゴブリンがエリンの所まで辿り着いていた。
エリンはゴブリンからの攻撃はなんとか躱しているものの、それに必死で魔術を撃てないようだった。
「まずはエリンから助けないと……『アイススピア』!」
エリンを襲っているゴブリン目掛けて、魔術を放つ。小さい氷柱のような氷の礫がゴブリンに突き刺さり、その小さな身体を吹き飛ばした。
流石にゴブリンに引けを取る僕達では無い。すぐにゴブリンを処理してなんとか形勢を立て直したが、僕達が少しもたついたツケを受けたのはジルだった。
「クソっ!鬱陶しい!」
僕とエリンが狩り漏らしたゴブリンが、ジルを襲っていたのだ。
ジルがゴブリンを蹴散らしながら、飛んできたファイアーボールを躱そうとした瞬間。思い出したかのように足の痛みがジルを襲った。
「いっ……」
足が動かなかったジルは慌てて盾でファイアーボールを防いだが、受け止めきれずに小さく吹き飛ばされた。
「ジル!大丈夫か!?」
僕は慌ててジルに駆け寄ったが、ジルは平気だと言わんばかりに立ち上がった。
「ゴブリン如きにやられてたまるかよ!」
ジルが力を振り絞り先程よりも剣速をあげると、ボブゴブリンはそれを対処しきれずに切り刻まれた。
リリアさんも無事にボブゴブリンを撃破したようで、ゴブリンも僕達に脅威を感じたのか攻撃の手がやんだ。
睨み合う僕達とゴブリンの軍団。相手は出会った時からは数が激減しており、ゴブリンメイジが三匹とゴブリン達が十匹程にゴブリンロードだ。
「そっちが来ねぇならこっちから行くぜ……?」
ジルがそう笑みを浮かべながら剣を構え直すと、ゴブリンロードが何かを叫び、それを聞いたゴブリン達は四方八方に散って逃げていった。
「……ふぅ。なんとかなったか」
ジルがそう一息つくと、それを合図に僕達は緊張から解放されてその場にへたりこんでしまった。
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