第一章 2 夢
第25話
(マジックナイツ 元リーダー ベルの視点に変わります)
僕は三人と別れた後、水の都・イルガーナを経由しつつギルド本部のある街───ギルディアを目指すことにした。
ギルディアはカザレアから見て北西に位置する。ギルド本部があると言ってもその周囲は比較的平和で、新人冒険者の集まる場所として有名だ。ギルドの対応も素早く魔物も低級魔物が多いため、これ以上新人冒険者に適した街はないだろう。現に、ギルディアは新人冒険者の街なんて呼ばれてもいる。
まずは近くの街まで歩いて、そこから馬車で水の都まで行くことにした。無理をすれば歩いていけない距離ではないが、今はとてもじゃないがそんな気持ちにはなれなかった。
顔がバレないようにフードを被り、怪しまれながらもS級のギルドカードを示す。するとすんなり馬車に乗ることが出来た。おそらく、秘密裏に行動していると思われたのだろう。
「水の都……懐かしいな。リリアさんは元気にやってるかな」
馬車に乗った僕は、これから行く水の都。そしてそこにいるリリアという女性のことを思い出していた。
ギルディアは新人冒険者が集まる街というのは僕にとっても例外ではなく、新人冒険者の頃はこの街に随分とお世話になったものだ。
エリンと出会ったのも、この街だった。エリンとは最初から仲が良かった訳ではなく、むしろお互いにあまり触れたくない相手だった。
何故かというと、僕は幼馴染に誘われて、エリンは姉に誘われての冒険者デビューだったのだが、たまたまその僕の幼馴染とエリンの姉が同じ冒険者育成学校の同級生だったのだ。
そしてギルディアで遭遇した僕らは流れでパーティーを組むことになったのだが、僕もエリンも同じ魔術師だったため役割が被っていた。最初の頃は気にならなかったが、どんどん階級が上がり難易度が上がるにつれて、それはお互いに『遠慮』という形で壁を生むこととなった。
そんなある日、その事件は起こるべくして起こった。当然のことだ。バランスの悪いパーティーというのは、常に実力相応の相手でも危険が伴う。
僕達は、調子に乗っていたのだ。二人が冒険者育成学校の出で、僕もエリンも魔術師として決して弱くはなかった。だから、序盤のクエストで躓くことなんてなかったのだ。新人冒険者によくある全能感に溺れるということを、見事にやらかしたのだった。
その日も、僕達にとっては簡単なクエストのはずだった。ろくな依頼がなく、新人からはもう一歩も二歩も先の僕達だったが、新人冒険者といえばこれ!とも言われるゴブリンの討伐を受けていた。
「おい、そっちはどうだ?」
僕の幼馴染───ジルが退屈そうにこちらへやって来た。
「もう全部倒したよ」
「ちぇっ、そりゃゴブリンなんて一瞬だよなー。ゴブリン如きじゃ満足出来ねーよ」
ジルがそう言いながら剣を振り回す。
「うわっ!危ないよ、ジル。僕に当たったらどうするのさ」
「へへっ!俺がそんなミスする訳ねーだろ!」
ジルは機嫌良さそうに剣を振り回す。僕はどう辞めさせたものかと悩んだが、それはエリンの姉───リリアさんによって解決された。
「はぁ。馬鹿なことやってんじゃないわよジル。それよりエリンは?」
「なっ!馬鹿じゃねぇよ!……まあエリンならそろそろ追いつくんじゃねぇか?」
そう言ってジルは剣を振り回すのを辞め、自分が走ってきた方を向いた。
僕のパーティーはジルとリリアさんが前衛。僕とエリンが後衛で、片手剣で盾役のジル、槍で攻撃役のリリアさん。そして後衛の攻撃役である魔術師の僕とエリンといった構成だ。
そして今回は数を多く狩るために、ジルとエリン、僕とリリアさんに分かれてゴブリン狩りをしていた。
「はぁ……はぁ……ジルさん、先に行っちゃわないでくださいよ……」
ジルと合流してから少し経ち、ようやく追いついたエリンが息を切らしながらそう言う。
「そうよ。あたしのエリンに何かあったらどう責任取るつもりなの?」
リリアさんが少し過剰に便乗し、僕も非難の目を送っておく。するとジルは流石に折れたようで、素直に謝罪をした。
「わりーわりー。ま、何にもなかったし良いじゃねぇか」
訂正。ジルからは悪びれる様子すら感じられなかった。
「はあ……そういう慢心が災いを呼ぶのよ?」
リリアさんの注意もジルには響かなかったようで、ジルはある提案をしてきた。
「なあ、お前ら満足したか?」
「満足?」
リリアさんが聞き返す。
「今回のクエストだよ。ゴブリン狩って満足出来たか?ってことだ」
「うーん……まあ満足ではないけど……」
リリアさんが微妙そうに答えると、ジルはその答えを待っていたとばかりにテンションを上げた。
「だろ!?だからついでにもうちょっと奥に潜ってみねぇか?ゴブリンの森なんてそうそう来ねーしさ」
僕はまたリリアさんが注意するだろうと思っていたら、意外なことにリリアさんは注意するどころか賛成してしまった。
「あ、あたしちょっと興味あるかも!ゴブリンの森の奥って、綺麗な宝石とかあるらしいよ!」
「ええっ!?ダメだよ!ゴブリンの森の奥は結構危ない魔物とか出てくるから近づくなって言われたじゃん!」
慌てて二人を止めるが、僕では二人を止めることは出来なかった。僕はエリンの方に視線を向けるが、いざエリンと目が合うとなんだか気まずい感じになって目を逸らしてしまった。何をやっているんだ、僕は……
「よし!じゃあ行ってみようぜ!」
ジルがそういうと、「おー!」とすっかりテンションを上げたリリアさんがあとに続く。
「はぁ……こうなっちゃったら付いていくしかないか……」
僕はそう呟くと、仕方なく二人のあとを追ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます