第21話


「つまり、魔物はこの宿を選ぶってことか?」

「そうじゃな」


 インフェルノちゃんが話した内容は、この浴場の水質の問題だった。

 普通、大きな浴場ともなると若干の魔力を混ぜ、それが疲労回復に効くらしい。しかしそれは人に限ったことで、魔物の場合はむしろ魔力が反発しあうのだとか。


「なんでインフェルノちゃんがそんなこと知ってんだ?」

「む?わしも知っていたわけではないぞ。ただ魔力の本質を知ってるだけじゃ。パンフレットに魔力を混ぜてると書いてないとこを選んだだけじゃの」

「へえ」


 魔術師の第一線でやってる俺でも知らない知識だった。さすがはドラゴン。

 しかしなんだ。つまるところ……


「ここのはただのお湯ってわけか」

「そうじゃな」


 じゃあ俺はいったい何に癒されてたんだ?雰囲気か?恥ずかしいなおい。


「しかし真面目な話、お前はなんなんだ?」

「……?ずっと真面目な話でしたよね?」

「はいそこ。話を逸らさないで答えなさい」


 俺の心の声など知る由もないメデューサ。この世には知らなくていいこともあるもんだ。


「えっと、ごめんなさい?私は、その……」


 黙り込むメデューサ。

 てかインフェルノちゃんが心読めばいいんじゃ?

 ちらりとインフェルノちゃんを確認すると、メデューサの内心を赤裸々に語りだした。


「ふむ。こやつは人間を捕らえるためにやってきた魔王軍の手先じゃな。しかしおぬしのことを気に入ってしまって正体をバラしたくないようじゃ。じゃが嘘をつくのも嫌だから何も言えなくなってしまったようじゃな」


 インフェルノ先生お疲れさまでした。どうやらオーバーキルのようですのでもう大丈夫ですよー。


「ふむふむ。もうやめてじゃと?生意気な。こやつはおぬしの脚に興味津々じゃな。頭の蛇を巻き付けてイチャイチャしたいと思っておるようじゃぞ。あと───」

「インフェルノちゃーん!?ストップストップ!」


 さすがにこっちが見ていられなくなる。

 メデューサは石のように固まって動かなくなってしまっていた。





 浴場でこれ以上続けるわけにもいかなかったので、ひとまずメデューサを連れて部屋に戻ってきていた。


「それで、こっちとしては魔王軍の手先となると無視するわけにはいかないんだが……」

「そうですよね……」


 しゅんとしてしまうメデューサ。あの痴女モードとは別人格かな?


「焼き尽くしてしまえばよかろう」

「そこ、物騒なこと言わない」


 インフェルノちゃんの場合本気で言っているから余計にたちが悪い。


「じゃが魔王軍の手先じゃぞ?」

「おお、そうだった。丸焼きでいいか」

「ええっ!?」


 試しに賛成してみると、びっくり仰天といった反応をした。素直でかわいいな。


「おねーさん、わるいまものなのー?」

「うっ!」


 ウンディーネちゃんの純粋な瞳に、メデューサが大ダメージを受けていた。


「まあ、ひとまず保留でいいんじゃないか?何かの情報になるかもしれんし、連れていく価値はあると思うが」

「ほー。自分に惚れた女はキープしておくということじゃな。確かに使えるだけ使って捨てるというのは理にかなっておる」


 違えよ。


「……!私何でもしますから!どうか捨てないでください!」


 メデューサが泣きついてくる。


「鬱陶しいわ!真に受けてんじゃねえ!」


 さっそく捨てたくなってきた。


「おねーさん、いいまもの!」


 どうやらウンディーネちゃんはメデューサが仲間になったと思っているようだった。俺はあの時ウンディーネちゃんに癒されていたのかもしれない。

 ───え?あの時はいなかったって?うるせえよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る