第13話
「おお!あれが海というやつか!噂より小さいのう」
「いや、それ湖だから」
竜の谷を抜けてからというもの、インフェルノちゃんはずっとこのようにはしゃぎっぱなしだった。
インフェルノちゃんがそんな調子なので、俺はふと子供が出来たらこんな感じなのかな……とか思ってしまった。俺はまだそんな歳じゃ……いや、もう二十八だ。そんな歳ではあった。
そんなしょうもないノリツッコミを脳内でしていると、インフェルノちゃんがこちらへと駆け寄ってきた。
「そういえば、海はどうやって渡るのじゃ?たしかフォーレンは島国じゃったはずじゃが」
「ん?何も考えてない」
「なんじゃと!?無計画なやつじゃのう」
「お前に言われたかないわ」
「わしは外のことを知らぬのだから仕方ないのじゃ」
やっぱり子供出来てもこんな感じではないな。可愛げが無いわ、インフェルノちゃん。見た目は可愛いけど。
なんてしょうもないノリを脳内で続けていると、ふとあることに思い当たった。
「そういえば、もうインフェルノちゃんじゃなくね?」
「む?どういうことじゃ?」
「ここじゃインフェルノドラゴンになれないんだろ?それはもうただのフェアリーじゃん」
「わしはれっきとしたドラゴンじゃ!力が使えんだけじゃ!」
「えぇ、力使えないならアウトでしょー」
「セーフじゃ!」
「アウト!」
その後も無駄な言い争いをしばらく続けた結果、インフェルノちゃん以外の呼び方は許可してくれなかった。というか、いつの間にかちゃん付けは許可されていた。これが刷り込みというやつか。
「のう、そろそろ休憩せんか?まともに歩くのも久しぶりで疲れてきたわ」
「絶対テンション上げすぎたせいだろそれ」
「むう……反論出来ぬが、それは仕方のない事じゃな」
「まあいいか。休憩ついでに目的地も確認しときたいしな」
そう言うと、インフェルノちゃんがアホを見る目でこちらを見てくる。
「おぬし……今までなんの宛もなく歩いておったのか?」
「そうなるな」
「歩き損ではないかー!」
インフェルノちゃんがそう叫びながら地面に倒れ込む。
「そんな大袈裟な……大体の方角はあってんだろ」
そう言いながら俺も座り込む。
俺が休憩に入ったことを確認すると、インフェルノちゃんは魔術空間から何かを取り出し始めた。
「そうじゃ。肉を焼けるもんはないかの?」
「ああ、そういえばさっきはブレスで焼いたんだっけ……ほらよ」
インフェルノちゃんが取り出したのはベヒモスの肉のようで、俺は簡単な調理が出来る魔道具を渡した。
魔道具とは魔術式が込められた道具のことで、溜め込まれた魔力が尽きるまでは役割を果たしてくれる便利な道具だ。
「ふんふんふーん♪」
肉を焼きながら何か上機嫌な様子のインフェルノちゃんを尻目に、ついでに取り出した地図で現在地を確認しておく。俺達が今いる場所は、龍の谷を抜けてからしばらく草原を歩いてきたところだ。目印は……ない。
「龍の谷がここだろ?だから……うん、わからん」
そう呟くと、インフェルノちゃんが地図を覗き込んできた。
「なんじゃ?場所がわからんのか?」
「ああ、龍の谷をこっち側に抜けたはずで、この辺りは草原だからこの辺なことには間違いないが……」
そう言って龍の谷を右上の方に抜けたところを指差す。フォーレンが東───つまり地図上では右側にあり、そのうち草原なのは龍の谷の右上の方だからだ。
「ふむ……ではこのまま右に進めばよいのではないか?」
「ああ、それでいい。ただし今俺達がどっち向いてるかわかればな」
「それはわからんのう」
無能が二人。
「まあなんとかなるじゃろ」
インフェルノちゃんがお決まりの投げやりセリフを吐くと、ベヒモスの肉の方に釘付けになった。俺もこれ以上考えても仕方が無いので、ベヒモスの肉に釘付けになる。
……うん。無能が二人だ。
無事にベヒモスの肉が焼きあがると、二人でそれを頬張った。
「うめぇ!」
「うまいのう!」
それから二人でうまいうまいと言いながら肉を食らった。現実逃避じゃないからね。
「……とりあえずまっすぐ歩いて、草原の境界を沿って歩けばなんとなくわかるだろ」
「そうじゃな」
いつまでも現実逃避をしているわけにもいかないので、ひとまず雑ではあるが今後の方針を決めた。いや違う、現実逃避じゃなかった。えー、ご飯を食べ終わったので、今後の方針を決めました。
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