第12話
暇を持て余してベッドの匂いを嗅いだりしていると、しばらくして奥の方からインフェルノちゃんが帰ってきた。
「む?もう大丈夫なのかの?」
「ああ、おかげさまでな」
俺がそう返事をすると、インフェルノちゃんは首を傾げた。
「おかげさま?わしは何もしておらぬが……」
「え?」
インフェルノちゃんの言葉に、思わず聞き返してしまう。
「わしは回復系はからっきしじゃからな」
「まじか……」
「まじじゃ」
異常な回復だったのでてっきりインフェルノちゃんのドラゴンパワーかと思っていたが、どうやら違うらしい。だとすると、一体誰が?
「ふむ……おぬしも心当たりがなさそうじゃな。わしもあれからは寝てたからのう。わしの魔力センサーが反応しなかったことを考えると魔力的なものじゃないことは確かじゃが……」
インフェルノちゃんもさっぱりのようで何があったのかを推測し始めていた。しかし、俺もインフェルノちゃんも結局何もわからなかった。
「まあ、奇跡でも起こったと考えればよかろう。それより、治ったのなら早速出発じゃ」
インフェルノちゃんは早々に諦めてこの異常な回復を受け入れたが、俺はそうはいかなかった。
やはり何があったのか気になる。インフェルノちゃんは長く生きていればそんなこともあると言っていたが、そんな風には割り切れなかった。
何かしらの干渉を受けたのは間違いがないだろう。それが何なのか……すぐに思い当たるものではないが、いずれは解明したいものだ。というか、知らないってことに対してなんか底知れない恐怖がある。インフェルノちゃんの空間魔術に関しても、ぜひ今度聞いておきたいところだ。
今度はきちんと背中に乗せてもらい、龍の谷を飛び越えていく。
「ふう、ここからが大変じゃのう……」
龍の谷を越えたところで一旦降りると、インフェルノちゃんが少女の姿になってからそんなことを言った。
「え?フォーレンまで飛んでいけばすぐじゃないのか?」
完全に楽をする気でいた俺に、インフェルノちゃんが衝撃の事実を告白した。
「む?わしが龍化を保てるのは龍の谷でだけじゃぞ?」
「は?」
インフェルノちゃんって元がドラゴンなんじゃないの?とかなんで龍の谷でだけ?とか色々疑問が浮かんでくる。
俺が困惑していると、インフェルノちゃんはやれやれといった顔でドラゴンの説明をし始めた。
「おぬし、ドラゴンについて全く知らんな?わしも面倒じゃし、適当にじゃが説明してやろうかの。まずドラゴンなんてもんはおらん。わしは元フェアリーじゃが、元が何かはドラゴンそれぞれじゃな。ドラゴンというのはまあ世襲制のようなものじゃ。死にそうになったら、他の誰かに龍力を分け与えて、分け与えられたものが次のドラゴンとなるのじゃ。龍力がまあドラゴンたる力じゃが、これは特定の場所でしか発揮出来ん。わしの場合この龍の谷じゃな。あ、おぬし次のドラゴンやるかの?」
「いや、それは遠慮するけど……つまり龍の谷以外だとただのフェアリーってことか?」
「そういう訳でもないがの。さっきのは簡単な説明じゃからちょいと語弊があるのう……まあ魔力量やら魔術やらはここにいる時と変わらん。ただ、龍力を使えないと出力補正が受けられないのじゃ。出力だけは元のフェアリーレベルということじゃな」
つまり、変身魔術は使えるので変身は出来るが、ドラゴンの状態を保つには魔力の出力が足りずになれないらしい。
基本的に変身可能なのは人型か小型の種族。無意識的に変身状態を保っていられるのは慣れているこの少女の姿と元のフェアリーの姿だそうだ。俺に合わせるという意味も兼ねて、少女の姿で行動してもらうことにした。
「ドラゴン以外に飛べるような種族にはなれないのか?」
「おぬしを乗せて飛べるようなのは無理じゃの。ただ飛ぶだけならフェアリーになればよいが」
「あー、フェアリーじゃ俺は乗れないよなあ」
まあ、要するに楽は出来ないということか。そりゃそうだよな。あの力が使えるなら俺なんていらないもんな。
インフェルノちゃんが何故俺と旅をするのかを理解したと同時に、どのくらい戦力になるのかという疑問がわいてきた。フェアリーというと、たしか軽い幻惑魔法とかしか使えないんじゃなかったか?
それを聞くと、インフェルノちゃんは心外だといった感じで否定した。
「たしかに普通のフェアリーはそうじゃが、わしはドラゴンに選ばれるくらいの実力は備えておるぞ?魔力量やら出力やらもそれなりにはあるし、魔術のレパートリーなら制限を受けぬから文句なしじゃぞ?」
ドラゴンに選ばれるくらいというのは確かに説得力がある。変身魔術の程度がわかれば話は早いが、変身魔術なんて聞いたこともないのでおそらく龍力の一つだろう。
詳しい戦力はそのうち見る機会があるとして、単純な戦力以外の話なら俺より有能なはずだ。魔力感知とか俺は使えないし、それ以外にもインフェルノちゃんは色々と出来る……はずだ。多分。長生きしてそうだし。
「とにかく行くか」
「わしはここから出るの初めてなんじゃ!楽しみじゃのう」
異様にテンションの高いインフェルノちゃんの相手をしながら、俺達は龍の谷を抜けた。
さっさと飛んで行ったのは早く外の世界が見たくなったからかよこの幼女。見た目だけじゃなくて中身も幼女じゃねーか。
そういえば、インフェルノちゃんはフォーレンに何の用があるのだろうか。届けものとか言っていたが、龍の谷から出たことないというのに誰に届けものがあるというのだろうか。
(まあ、着けばわかるか)
はしゃぐインフェルノちゃんに水を差すのもはばかられたので、一旦このことは忘れることにした
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