第10話


 魔王軍幹部『ヘルグレア』を倒してから早数時間、俺は再び魔王軍幹部と対峙していた。

 そいつの名前は『神獣ベヒーモス』。魔王軍幹部の中でも脅威度がかなり高いとされている。

 あと、既に身体がボロボロで動けません。無理ゲーじゃね?


 あの後俺は足でつかまれたままインフェルノちゃんに連行されたのだが、神獣ベヒーモスはすぐに見つけることが出来た。なんというか、大きな熊みたいなやつだった。

 神獣ベヒーモス目掛けて下降していくインフェルノちゃんに、無事に降ろしてくれるのかなーと思っていたら、あろうことか上空10m程のところで放られたのだ。

 そこから木の枝をバキバキと折りながら落ちていき、地面に強打されて意識が飛びかけた。それでもなんとか堪えて目を開けると、目の前に神獣ベヒーモスがいたというのが現状である。もちろん俺は立ち上がれてすらいない。改めていうけど、無理ゲーじゃね?


「Grrrrr」


 神獣ベヒーモスが唸りながら俺を見つめてくる。


「……おっす!今日は何してんだ?」


 俺は、相手の警戒心を解くために気さくな友人風でいくことにした。

 俺のことをじっと見つめた神獣ベヒーモスは、俺の挨拶に返事をするように右腕を振り上げた。


「ははっ、ゲンコツ合わせか?生憎と俺はそんなキャラじゃないんでなああああああ!!」


 俺の言葉を待つ間もなく、神獣ベヒーモスがその手を振り下ろす。

 流石に命の危険を感じ、力を振り絞って回避した。しかし、地面をえぐる程の威力の前に俺の決死の回避も虚しく吹き飛ばされてしまった。


「ぐはっ!」


 しばらく吹き飛び、おおきな木に直撃する。元々体が強いという訳では無い俺は、なんとか意識は保てたもののとてもじゃないが体は動かなかった。

 地面にうずくまる俺に迫ってくる神獣ベヒーモス。ありったけの余力を集めても、一発魔術を撃てるくらいしか残っていない。絶体絶命のピンチだが、逆に考えれば一発は魔術を撃てるのだ。

 悪あがきだとなんだろうと、諦める訳にはいかない。俺は出来る限り精神を落ち着かせてその時を待った。

 何の魔術を撃つべきかと悩んでいると、ふと視界の中で何かが光った。


(なんだ……?上の方で今何か……)


 光った方を見つめると、そこにはドラゴンモードのインフェルノちゃんが口に炎を纏って滞空していた。


(あれは……魔力を集めているのか?)


 その時、俺はなんとなくインフェルノちゃんが求めている行動をわかった気がした。魔術師の勘というやつだろうか。

 迫り来る神獣ベヒーモスとインフェルノちゃんを眺めながらタイミングを見定める。

 まるで時が遅くなったかのように感じる。

 神獣ベヒーモスが、咆哮をあげた。

 その刹那、インフェルノちゃんの纏う炎が消え、周囲の魔力がインフェルノちゃんに吸い込まれるように集まった。


(今だ……っ!)


 叫ぶ余力も残っていない俺は、無詠唱でそれを発動させた。

 魔術の名前は、『魔術結界』。魔術師が序盤に覚える魔術として最もポピュラーであり、魔術結界が使えるようになったら魔術師を名乗っていいという暗黙のルールまである。

 俺は出来る限り出力を最大にして、神獣ベヒーモスを取り囲むように魔術結界を張り巡らせる。


 そして神獣ベヒーモスが俺に追撃しようとした瞬間、インフェルノちゃんの火炎ブレスが神獣ベヒーモス焼き尽く……え?

 てっきり火炎ブレスが来ると思っていた俺は、周囲に被害が及ばないように魔術結界を張ったのだが、インフェルノちゃんが吐いたのは火炎ブレスではなくレーザーのようなものだった。

 レーザーに貫かれる神獣ベヒーモス。声を上げる間もなく消し炭にされ、神獣ベヒーモスは跡形もなく消え去った。


(え?あの口に纏ってた炎は何?演出?てか結界張った意味なかったわ……)


 結局俺はただの囮だったのか……と戦力に数えられていなかったことを落胆すると同時に、インフェルノちゃんの計り知れない強さに羨望のようなものを感じながら、俺は意識を手放すのだった。

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