第7話


「ほれ、さっさと進むぞ」


 いい加減茶番を続けても仕方がなくなってきたので、インフェルノちゃんの言葉に素直に従うことに。そして素直ついでに、俺は今後のことを真面目に考え始めた。


 冒険者を続けるにしても、顔が有名になってしまっているのでやりづらいだろう。ソロなら問題は無いが、ソロでやっていた時期とパーティーでやっていた時期の満足度を比べればパーティー一択なのだ。少なくとも俺はそうだった。


 しかし、顔がなあ……と考えていた俺は、ふとギルドによくいた常に鎧を装備していた謎の男のことを思い出した。


(そうだ。俺も鎧で顔を隠せば……鎧……?)


 ふと鎧という単語に引っかかる。数秒固まった後、閃光のようにアレのことを思い出した。


「あーーーーーーーっ!!!!!」

「なんじゃ急に!」


 それは、ヘルグレアから剥ぎ取ったあの鎧のことだった。


「完全に忘れてたわ……」

「何がじゃ?」

「あれ?インフェルノちゃん脳内覗くのやめたの?」

「おぬしの脳内がお花畑すぎるからの」


 そんな危ない人みたいに……と反論しようと思ったが、まあ覗かれないなら覗かれないでいいかとスルーすることにした。それより今は、あの鎧をどうするかで頭がいっぱいだったのだ。

 特にインフェルノちゃんに隠す理由もなかったので、簡単に経緯を説明してヘルグレアの鎧を見せると、インフェルノちゃんは神妙な顔つきでその鎧を眺めた。


「インフェルノちゃんどうかした?」

「いやのう……その鎧、どこかで見たような気がするのじゃが……」

「ほう?」


 俺はこんな漆黒の鎧俺は初めて見るなあと思いながら改めて鎧を眺めると、ふと鎧に既視感を感じた。


(あれ?この形、どこかで……)


 既視感の正体はなんなのか。鎧をじっくりと眺めていると胸のあたりにワシのような彫りがあるのを発見した。


「ん?これ、リオ聖騎士団のやつか?」


 リオ聖騎士団とはフォーレンの国軍の別称で、リオ・レグルスという偉大な騎士がかつて弱かったフォーレン国軍を鍛え上げたことから、巷ではリオ聖騎士団なんて呼ばれていた。

 そして、インフェルノちゃんもリオ聖騎士団というワードにピンと来たようだった。


「おお、言われてみればそうじゃそうじゃ。しかし、こんな黒かったかのう?」

「たしか銀と青とかじゃなかったか?黒いのは……ヘルグレアの趣味か?」


 検討もつかないので適当な予想をしたが、なぜかインフェルノちゃんは正解だと言わんばかりに納得した。


「そうかそうか。そうなっておったか……しかし、これじゃあわしの目的は達せられたのう……よし。気が変わった。わしもおぬしについて行くとしよう」

「は?」

「光栄に思うがよいぞ」



 テレレレー


 インフェルノドラゴン が なかまに くわわった! ▽



「ってなるか!急すぎるわ!」

「?」


 俺のセルフツッコミに、インフェルノちゃんはきょとんと首を傾げる。


「いや、何でもない……というか、本当に急だな」

「実はのう……」


 インフェルノちゃんが語ったことは、インフェルノちゃんはフォーレンと繋がりがあり、フォーレンで大量殺人を起こして収容していた元国軍の殺人犯が数年前に脱走したという報告を受け、龍の谷を越えないように監視していたということだった。

 なので、インフェルノちゃんは最近近くに現れた謎の強力な魔物が魔王軍幹部のヘルグレアだったこと。ヘルグレアが国軍の鎧をつけていたことから、その脱走した殺人犯がヘルグレアだと予測したのだ。


「ヘルグレアが確認されたのも数年前だし半分は納得できるが、人間が魔物に……なんてことあるのか?それに、それだと普通に龍の谷を越えてないか?」


 素直に疑問に感じたことを言うと、インフェルノドラゴンもそこがわからんといった感じだった。


「人間が魔物にというのはわからんが、人間が魔王軍に加担した過去はあるのう。それよりわしは、実は怨霊のようなアンデッド魔物だったんじゃないかと考えておる」


 その言葉を聞いて、今度は俺の方がピンときていた。俺はマジックナイツがSランクパーティーだったとはいえ、全員魔術師という尖った編成で魔王軍幹部に勝てたことに少なからぬ違和感を覚えていたのだ。

 先程インフェルノちゃんが言ったようにアンデッド系の魔物だったと考えれば、相性的な問題である程度は納得出来る。

 しかし、問題は後半だ。


「この谷を越えたような形跡はなかったんじゃがのう…魔力を感知できなかったのなら納得じゃが、そんな軟弱な魔物だったわけではあるまい?」

「ああ、少なくとも俺なんかよりは多いんじゃないか?それに、魔王から得た魔力ならなんというか、質が違うからわかりやすいだろ」

「そうなんじゃよ。……まあよい。この谷に留まるのも飽きた上にそれっぽいのも倒せたし、もうよいじゃろう」

「倒したのは俺達だけどな」


 随分適当なドラゴン様だなと思いながらも、一人よりは二人の方が楽しいので特にインフェルノちゃん拒むことはしなかった。


(というか、拒んだから丸焦げにされそうだしな……)


 というのが本音である。

 とにかくインフェルノちゃんを新たに仲間に加えて、フォーレンへ目指すことになったのだった。


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