第一章 1 セロの旅路
第5話
金やアイテムはクエスト毎に分配していたので、解散の支障はほとんどなかった。強いて言えば、今回のクエストの分くらいだ。それはリーダーが解散手続きをする際に分けるということで決まり、すぐにみんなが思い思いの方へと歩いていった。
俺はというと、久しぶりに地元にでも帰ろうかなということで、カザレアを東に抜けた先にあるフォーレンという島国を目指し龍の谷へと向かうことにした。
しかし、何かやり忘れたことがあるような気がしてならない。何かというのは全く思い出せないのだが、何か大事なことを忘れているような……
「……まあいいか。そのうち思い出すだろ」
雑に問題を後回しにした俺は、龍の谷の主『インフェルノドラゴン』とだけは遭遇しないように祈りながら、龍の谷へと足を踏み入れた。
「龍の谷って何がいたっけな……たしかフェアリー系とワイバーンがよくいるのと、ラウンドウルフとかナイトキャットとか……あとは……」
「あとはインフェルノドラゴンじゃな」
「そうそう、インフェルノドラゴ……ん?」
突然聞こえてきた聞き慣れない声にそちらを振り向くと、そこにはレミアムよりもっと小さい少女が立っていた。
「わしの魔力センサーに大物がかかったと思えば……なんじゃ人間か。こんなとこに何をしに来たのじゃ?」
俺は考え事をしていたとは言え周囲への警戒は怠っていなかった。それなのに全く気配を感じさせることなく現れたこの幼女に、少なからぬ警戒心を感じていた。
(こいつは何者だ?口ぶりからしてこの谷に住んでるのか?しかし、どうしてこんな幼女が……)
声には出さずその幼女のことを推察していると、まるでこちらの考えていることを見通しているように少女が言った。
「おお、まだ名乗っておらなかったな。わしはこの辺を住処にしているインフェルノドラゴンじゃ。人間の姿をしているのは、何かと便利だからじゃな」
はは。何言ってんだこいつ。
そう思いながら哀れみの目を向けると、その幼女は呆れた顔をした。
「信じるか信じないかは自由じゃが、わしの機嫌を損ねると一瞬で消し炭じゃぞ?」
その幼女は、そう言うと同時に禍々しい気配を醸し出した。
さすがに俺も、Sランクパーティーのメンバーだ。元だが。
とにかくそんな俺の危機センサーが、この幼女はやばいとビンビンに告げていた。
もし機嫌を損ねたら、本当に消し炭にされてしまうかもしれない。
なんて冗談よりも、俺には一つ気になって仕方ないことがあった。
(もしかしなくても、脳内を覗かれてないか?)
「そうじゃな」
(じゃあ俺は喋らなくてもいいな)
「そこは喋らんかい!わしが変なやつに見えるではないか!」
などと揶揄うのもいい加減にして、真面目に切り替えることにした。
「俺の名前はセロだ。インフェルノちゃん」
「急に真面目になるでない!むしろ怖いのじゃ!」
「わかったよ、インフェルノちゃん」
「ちゃん付けはやめんか!」
「だってその見た目だしなあ」
「それよりわしの質問に答えんか!」
「質問?」
「何でこんなところに来たのかと最初に問うたじゃろうが!」
そういえばそんなこと言われたなと思い出す。特に嘘をつく理由もないので、素直に「フォーレンに用がある」と答えると、インフェルノちゃんは丁度いいと言わんばかりに依頼をしてきた。
「ほうほう。フォーレンか。実はわしの知り合いがフォーレンにいるのじゃがな?そやつにちと届けものをしてほしいのじゃ。わしはここを離れるわけにはいかんのでな」
「嫌だ」
考えるよりも先に、口が動いていた。
こんな怪しげな幼女の頼み事などまっぴらごめんだ。
「まあまあそう言うでない。もちろんタダでとは言わんぞ?おぬし一人ではこの谷を抜けることは不可能じゃろう。そこで、わしが谷を抜けたところまで運んでやるのはどうじゃ?」
「嫌だ」
よくわからないが、頑張れば俺一人でも抜けられるんじゃないだろうか?
「ぬう…じゃあ何か一つそちらの頼みを聞いてやろうではないか」
「嫌だ」
「ぬあああ!なんじゃおぬしは!断るなら運んでやらんぞ!おぬし一人では絶対この谷は抜けれんのじゃぞ!?」
全く、駄々をこねる幼女の相手は面倒なものだ。
「それについては一つ考えがある」
「考えじゃと?」
インフェルノちゃんは一つ勘違いしていることがある。俺には秘策があるのだ。それもとっておきの、絶対死なずに済む策が。それは……
「フォーレンは諦めて帰る」
「……」
ふはは!俺の完璧な策に言葉も出まい!ほら見ろ!インフェルノちゃんも出し抜かれたような顔を……してないな……なんかすごく怖い顔をしてるな?
「わしの依頼を拒否するのなら殺す」
「ん?」
「わしの依頼を拒否するのなら殺す」
「お、おう?インフェルノちゃん?まずは落ち着こうか」
全く冗談を言っているようには感じないんだが……
「わしの依頼を拒否するのなら殺す」
なんかありえない魔力量と殺意を感じるんだが……
というかふざけてインフェルノちゃんなんて呼んでいるのだが、本当にインフェルノドラゴンなのか?いやいや……
「わしの依頼を拒否するのなら殺す」
「わかった!わかった!運ぶから!フォーレンまで!な!?」
何か本当にヤバそうな予感がして慌ててそう言うと、先程まで感じていた魔力量と殺意は嘘のように消え去り、目の前にはいつの間にかにこにこ顔のインフェルノちゃんがいた。
「なんじゃなんじゃ!優しいやつじゃのう!では、谷を案内してやろう。付いてくるがよい」
そう言ってインフェルノちゃんは歩き出した。あれ?乗せていってくれるんじゃ……?
「おぬしには地獄を見てもらうぞ」
「は……はは……」
インフェルノちゃんが内心怒り心頭といったオーラを放っているので、俺には苦笑いをすることしか出来なかった。
揶揄いの代償は、どうやらとても高くついたらしい。
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