第155話 ガイウス・ユリウス・カエサル
(ガイウス・ユリウス・カエサルが敵か)
ナギは心中で驚きの声を発した。
まさか、ローマ帝国史上、屈指の英雄が魔神の手下に落ちぶれるとは……。
『ナギ様』
『ナギ』
セドナとエヴァンゼリンが、ほぼ同人に念話(テレパティア)をナギに飛ばした。
『ナギ、知っている範囲で良いから、ガイウス・ユリウス・カエサルについて教えてくれ』
エヴァンゼリンが、ナギに問う。
『分かった。ガイウス・ユリウス・カエサルとは……』
ナギが全員に説明を念話(テレパティア)で始めた。
ガイウス・ユリウス・カエサルは、紀元前100年頃に生まれたローマ帝国の政治家であり、軍人である。
類い希な軍才を持ち、ガリアを含めた数多の国に侵略して、ローマ帝国の覇権拡大に貢献した。
傲岸不遜な人間として有名だが、自身の軍団の兵士たちには常勝将軍として崇拝されていた。
文筆家としての才能もあり、ガリア戦記という書物を残している。
カエサルは、野望と支配欲に溢れた男であり、祖国の共和政体が機能不全だと観ると、自身が独裁者となってローマ帝国を支配しようと目論む。
後にカエサルは、終身独裁官として祖国ローマ帝国を支配する事に成功。
独裁者となって、ローマ帝国を運営する。
だが、紀元前44年3月15日。
ポンペイウス劇場で開かれた元老院会議に出席した時、マルクス・ブルトゥスやカッシウスによって暗殺されて死去した。
『政治家、外交家、軍人、文筆家として多岐に渡って優れた能力を有した偉人だ』
とナギは念話(テレパティア)で語った。
『その偉人が魔神の下僕か』
『……墜ちた英雄』
クラウディアと大魔導師アンリエッタが念話(テレパティア)で呟く。
「英雄だからこそ墜ちたのじゃろうよ。権力を志向する英雄は皆、『偉大な俗物』じゃ。己の野心と野望の為なら地獄に落ちても構わぬ者。それが英雄というものよ」
大精霊レイヴィアが、冷静な声音で言う。
カエサルは、観客席から出ると静かに階段を降りだした。
160センチしかない小柄なカエサルの肉体から膨大な魔力が蒸気のように溢れかえっている。
ローマ帝国人の平均身長は、155センチだったと言われている。
三世紀のローマ帝国人の遺骨や衣服、靴などから測定した研究成果だ。
160センチのカエサルは当時のローマ帝国人としては背の高い部類である。
「警戒してくれ。背は低いが侮るな。あいつは、ガリアという国に侵略した時、100万人の現地人を虐殺し、100万人を奴隷にした男だ。残忍さと狡猾さ、全てを兼ね備えた男だ」
ナギが注意をうながす。
「言われなくても強くて危険な男だというのはすぐに分かる」
槍聖クラウディアが、聖槍をかまえた。
カエサルの魔力は圧倒的だった。
クラウディアの観測した所、自分の2倍はある。
(だが、カエサルの魔力はナギには及ばん。おそらく戦闘能力はナギの半分程度)
全員で攻勢すれば勝てる。
そう、クラウディアは判断した。
ナギを始め、セドナ、レイヴィア、エヴァンゼリン、アンリエッタ、クラウディア。全員が、カエサルを注視した。
だが、次の刹那、カエサルの姿が忽然と消えた。
「!」
全員が、僅かに動揺した。
カエサルの速度はあまりに速かった。
唯一、ナギだけが反応できた。
カエサルは、セドナを狙っていた。
幅広な両刃の大剣を両手で握ったカエサルは、セドナを背後から強襲した。
そして、カエサルはセドナの頭部めがけて、大剣を振り下ろした。
激しい金属音が鳴り響いた。
ナギが神剣〈斬華〉で、カエサルの大剣を受け止めた音だ。
「やりおるな小僧」
鍔迫り合いをしながらカエサルがナギを見上げる。
「お褒めに預かり光栄だ。カエサル」
ナギが返礼する。
カエサルは厳めしい顔のままナギを睨み。鍔迫り合いは不利と判断するとすぐさま瞬間移動のような速度で距離をとった。
(速い)
ナギはカエサルを目で追いながら思う。
(速度だけなら、俺の8割ほどか。だが、俺より速いわけではない)
ナギは素速く観測した。
ナギが黒瞳をむけた先にカエサルはいた。
カエサルは観客席の上にいた。
セドナたちは、ナギに遅れてカエサルを注視する。
「カエサルよ。偉大なるローマ帝国の英雄だった貴方に問いたい」
ナギが問う。
カエサルをあえて英雄と讃えたのは、そうした方がカエサルが返答してくれる可能性が高いと判断したからだ。
カエサルは病的に自己顕示欲が強いと言われている。その自己顕示欲に訴えたのだ。
「何を聞きたいというのだ?」
カエサルは観客席からナギを睥睨しつつ言う。
「なぜ、貴方は魔神の手先になった?」
ナギが問う。
「私が再び支配者として君臨する為だ」
カエサルが、厳かに答えた。
「魔神は私に言った。『お前が私の僕(しもべ)となり、ナギ一行を討ち果たした暁には、地球の全てをお前にくれてやる』とな」
「では、地球を支配するのが目的か?」
ナギは、小さく嘆息した。
「そうだ。私は世界で最も優秀な人間だ。私が支配してこそ人類は真の幸福を得るのだ」
カエサルは覇気も露わに豪語した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます