第148話 討滅

「愚かだな。こんな事すら分からない程、思考力が衰退したのか……」


 ナギの神力が膨張した。純白の光を放つ、女神ケレスと軍神オーディンの神力が混合し、妖しいほどに美しい光がナギの細身の身体から迸る。


 同時にナギは、神剣〈斬華〉を始皇帝目掛けて走らせた。


 津軽神刀流の正統派の斬撃。鋭く、重く、そして正確に敵の急所を狙う斬撃が、始皇帝めがけて襲いかかる。


 始皇帝は黒い魔剣で、ナギの神剣〈斬華〉を受け止めた。


 だが、ナギの神剣は凄まじい衝撃力を発して、始皇帝を後退させる。


「ぐうっ!」


 始皇帝が呻いた。始皇帝の全身にナギの剣撃の威力が走り抜けて、全身を痺れさせる。


「どうやら、頼みの魔神の魔力とやらも減少し始めたようだな」


 ナギが冷静に指摘する。


 始皇帝は、胸中で焦りながら自分の魔力を観察した。


 確かにナギの指摘の通り、始皇帝が保有していた魔神の魔力が衰微し始めていた。


「な、なぜ、魔神の魔力が減少しているのだ!」


 始皇帝が、叫んだ。


「簡単な理屈だ。先程と同じさ。《聖餐》で六将軍と数十万の兵士の魔力・能力・経験・技を吸収したからだ」


 ナギが、生徒の誤りを正す教師のような表情で告げる。同時にナギは袈裟斬りの斬撃を始皇帝に放つ。


 始皇帝は、ナギの剣撃と神力の威力に押されてまたも後退した。


「魔力操作には精緻なコントロール能力が必要だ。それなのに、お前は《聖餐》で六将軍と数十万の兵士の魔力、能力を吸収してしまったのだ。もう、お前がコントロールできる許容範囲を超えているんだ」


 ナギは神剣〈斬華〉を横薙ぎに振った。

 空間ごと切り裂くような斬撃が走り抜け、神力をともなって強大な閃光が弾ける。


 始皇帝は魔剣で、ナギの神剣を弾いた。だが、魔剣と神剣が激突した瞬間、魔剣に亀裂が走った。


「ば、馬鹿な! 魔剣が! 魔神の血が付与された魔剣が、なぜ破損する!」


 始皇帝は、恐慌を来した。魔神の血が付与された魔剣にヒビが入るなど、始皇帝の想定外だった。


「剣は、所持する者の現し身だ。心技体が劣れば剣は刃こぼれし、いずれ折れる。こんな事は剣を持つ者の常識だろう」


 ナギは一歩踏み出して、斬撃を繰り出した。


 始皇帝が必死でナギの斬撃を受け止める。


 だが、ナギが一歩踏み込む度に、始皇帝は一歩後退していく。


「終わりにするぞ。始皇帝。中国史上最大の英雄の一人であるお前が、墜ちた姿をこれ以上見たくない」


 ナギの黒瞳に強い光が宿る。ナギは連撃を繰り出した。


 神剣〈斬華〉を操り、1秒間に数十の斬撃を始皇帝めがけて撃ち放つ。 

 ナギの神力の威力が、相乗された斬撃が始皇帝に容赦なく降り注ぐ。


「ぬうううッ!」


 始皇帝は苦悶し、ドンドン後退した。


 数秒後、ナギの神力が、始皇帝の黒い魔力を覆い尽くした。

 ナギが神剣〈斬華〉を両手で握りしめて、袈裟斬りを放った。

 神速の斬撃が宙空に閃く。

 そして、始皇帝の肉体を肩からヘソまで切り裂いた。


「ば、馬鹿な……」


 始皇帝は自分の肉体に深く食い込む神剣〈斬華〉と正面にいるナギを交互に見つめた。


 始皇帝の肉体から力が失われ、始皇帝は魔剣を取り落とした。

 床に魔剣が落ちる音が響く。


「予が、予が負けるなど……。有り得ぬ……」


 始皇帝は、なおも現実を拒否した。腐った口からうめき声を漏らす。


「いや、お前の負けだ。始皇帝。お前は、このまま消滅する」


 ナギは神剣〈斬華〉を始皇帝から引き抜いた。

 同時に、始皇帝は床に膝をついた。


 ナギの神剣〈斬華〉が、純白の光とともに始皇帝の首を刎ねた。


 始皇帝の首が宙空高く吹き飛んだ。


 神力が始皇帝の魔力と魔神の魔力を双方ともに完全に吹き消し、始皇帝は絶命した。

 



 ナギは神剣〈斬華〉を鞘に納刀した。


 始皇帝の首が床に転がり、首のない始皇帝の巨躯が床に横たわる。


 ナギの後ろで歓声が沸いた。


 セドナ、レイヴィア、エヴァンゼリン、クラウディア、アンリエッタが、安堵の笑みを浮かべてナギの元に駆け寄る。


「ナギ、よくやったのぅ」


 レイヴィアが、ナギの背中をバンと叩いて褒めた。


「凄いな。ナギは……、魔神の血に打ち勝つなんて」


 エヴァンゼリンは、頬を染めながら賞揚する。


「ナギはまさに英雄だな」


 クラウディアは、薄青の瞳に尊敬の念を宿した。


「……魔神攻略の最終兵器」


 アンリエッタが、無表情で言う。

 最後にセドナが、ナギの横に立ち、彼の顔を見上げた。


「ナギ様、お疲れさまでした」


 銀髪金瞳の少女が、微笑とともに言う。ナギも微笑で答え、セドナの頭にポンと手を乗せた。 


「ありがとう」


 ナギは、ただそれだけを口に出した。そして、それだけでナギとセドナは全てを心を溶かし合ったように了解しあった。


ふいにメニュー画面が開いた。


『難敵を討滅し、おめでとうございます』


「ありがとう」


 ナギは素直に礼を言う。


『ナギ様、《食神(ケレスニアン)の御子》を使用して、始皇帝の遺体を食べて、始皇帝の能力を一部分、吸収しますか?』


 メニュー画面が尋ねる。


『ナギ様は、レベルアップしましたので、始皇帝レベルの敵でも、食べて、その能力の一部分を吸収することが可能です。勿論、まだ制約が多いですが……』


 メニュー画面が、説明した。


「始皇帝の遺体を喰えって言うのか?」


 ナギが驚いた声を出した。



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