第143話 静謐

ナギの持つ、神槍グングニルから、白い強力な魔力光が閃いた。

 同時に、亜空間が陽炎のように揺らめく。

 グングニルから、次元を切り裂く閃光が迸った。

 

それは無音の攻撃だった。

 そして、音もなく空間が裂けた。


 広大な空間が、グングニルの魔力で切り刻まれる。

 それに伴い、死霊兵も切り刻まれた。

 それは静謐極まりない攻撃だった。

 

攻撃音は一切無く、神槍グングニルが光を発しただけだ。


 だが、その効果は戦慄すべきものだった。


 二十万の死霊兵が、切り刻まれ消滅したのだ。


一瞬で二十万の兵力が消滅する。このような攻撃は、あまりに超越的であり、槍聖クラウディアは戦慄さえ覚えた。


「なんという力だ……」


クラウディアが、絶句した。

 セドナは、尊崇の思いを黄金にたたえてナギを見た。


「これが、神の力か……」 


 エヴァンゼリンは瞠目した。


「……超越者の権能……。素晴らしい」 


 大魔導師アンリエッタが、魔導の探求者としての興味に赤い瞳を輝かせる。


「ナギ、消耗が激しいのではないか?」


大精霊レイヴィアが、心配そうに問う。

 セドナが、レイヴィアの言葉に反応して、ナギを見る。


「……大丈夫です、と言いたい所ですけど、少し休みたいですね。10分も休めば大分、回復します。……頼んでいいかな?」


 ナギが、苦笑をもらした。強がりを言わずに、仲間に頼れるのはナギの欠点ではなく、美点であろう。


 セドナをはじめ、仲間の美少女たち全員がナギに好ましそうな笑顔をむけた。

 相葉ナギという超越者に頼られている。


 その実感が、美少女たちの自尊心を満足させたのだ。 

 頼りにされて嬉しくない人間はいない。


「うむ。任された」


 大精霊レイヴィアが、わずかに胸をそらせた。


「私も、精一杯戦います」


 セドナが、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を構える。


「頼りにされたら答えなくてはね」


 エヴァンゼリンが、聖剣を握りしめる。


「10分程度なら、ナギを護りながらでも戦える」


 クラウディアが、微笑しつつ槍をクルリと回して構えた。


「飛翔しつつ、上空からの攻撃に切り替えるとしよう」


 レイヴィアが言うと、全員が首肯した。

 すぐさま、ナギ達は飛翔魔法で飛翔し、宙空高くに舞い上がる。


「これからは攻撃ではなく、防御を主軸にするぞ。敵の能力は未知数じゃから警戒しつつ、死霊兵団の戦力を削る。危なくなれば後退して、ナギの体力回復まで凌ぐのじゃ」


 レイヴィアの戦術は妥当であり、全員がその戦術に賛同して、展開する。


「セドナ!」


 レイヴィアが、セドナの名を呼んだ。


「はい」 


 銀髪金瞳のシルヴァン・エルフの少女が答える。


「そなたはナギを徹底して護れ。飛翔魔法すらもナギの分を、そなたが負担せい」


「分かりました!」


 セドナは、力強く答えた。


 ナギを護り、そしてナギの体力を回復させる。それはセドナにとって最高の任務だった。


「さあ、ナギ様。私がナギ様を護ります。私の身体に寄り添って下さい」


 セドナが、ナギの右側に細い優美な肢体を密着させた。

 そして、セドナはナギの右腕を肩に担いだ。そして、セドナは左腕をナギの腰にまわす。


「どうぞ、私に寄りかかって下さい」


 セドナが、嬉しそうに言う。


「いや、さすがにそれは……」


 ナギが照れて頬を染めた。体力を回復させるために休まねばならない。だが、十歳のセドナに寄りかかるのは甘えすぎのような気がして恥ずかしい。


「ダメです。ナギ様は体力回復が最優先です。飛翔魔法も私がナギ様の分まで発動させます。少しでも体力、魔力を温存して、はやく回復なさいますよう、専念なさって下さい」


 セドナの端麗な顔に生真面目な表情が浮かんだ。一度決めたら、やり遂げる時の頑固な顔である。


 ナギの身体にセドナの優美な肢体が密着し、セドナの柔らかい肉体の感触がナギに伝わる。


(どうにも恥ずかしいな……)


 ナギは照れて目をそらした。


「ナギ、ちゃんとセドナに寄りかかって体力回復に集中するのじゃぞ」


 レイヴィアが、厳命するように言った。同時にレイヴィアの顔にニヤニヤとした笑いが浮かぶ。


「はあ……」 


 ナギは肩を竦めた。同時にレイヴィアの言うとおり、セドナに身を凭れさせる。

 セドナは嬉しそうにナギをギュッと力を入れて抱きしめて、引き寄せた。


(こういうのは男が女にやるものなんだが……)


ナギは、昔見た映画を脳裏に思い浮かべた。


『十歳の美少女に抱きかかえられるとは役得ですね~』


 メニュー画面が、ナギをからかった。


(久しぶりにお前の毒舌を聞いたな、メニュー画面)


ナギはセドナに抱きかかえられたまま心中で答える。


『私も久しぶりにナギ様に毒舌を吐けて嬉しいです』


 メニュー画面が、さらりと言ってのけた。


(最悪だよコイツ)


 ナギは心から思った。


「ナギ様、どうかなさいましたか?」


 セドナが、ナギに肩を貸した姿勢のまま問うた。メニュー画面とナギは念話で会話していたので、セドナには会話内容が分からない。


「なんでもないよ。しかし、やっぱりみんな強いな……」


ナギは仲間たちの戦い振りを見ながら思う。


「はい。皆さん凄くお強いです」  


セドナが安堵とともに言う。

 ナギとセドナを護るようにして、レイヴィア、エヴァンゼリン、クラウディア、アンリエッタが、死霊兵団と戦っていた。


 それは一方的な戦いだった。


 レイヴィアたちは、宙空高く、高度100メートル程の上空に浮遊していた。そして、そこから地上の死霊兵団にむけて攻撃魔法を連撃していたのだ。


 死霊兵団は、レイヴィア、エヴァンゼリン、クラウディア、アンリエッタの攻撃に為す術もなく打ち倒され、その兵力を減らしていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る