第142話 神槍グングニル

「ゴアアアアアアアアアアアア!」


 炎の巨人が咆吼した。大気が鳴動する。

 身長20メートル。


 業火によって形成された巨躯と、四つの腕をもつ《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》が、死霊兵団にむかって突撃した。


 《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》による熱波で、味方が損耗しないよう、大魔導師アンリエッタは、魔法障壁でナギ達を守った。


 白色の魔法光で形成された円球の魔法障壁が、ナギ達を護って宙空に出現する。


《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》が、アンリエッタたちの前方、20メートルに展開し、その熱波がアンリエッタたちに吹き付ける。


「これ程の超位魔法を展開しつつ、強大な魔力障壁で儂らを護るとはのぉ……」


 大精霊レイヴィアは、感歎の声を漏らした。


「魔法障壁がなければ熱いでしょうね」


 セドナが、なんとなくズレた発言をした。


「熱いどころじゃすまんぞ。熱エネルギーで吹き飛ばされて、全身火傷じゃ」


 レイヴィアが、苦笑しつつセドナの銀髪を撫でる。

 セドナは照れて俯いた。


 レイヴィアは、アンリエッタが展開した《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》を見ながら思う。


(人間でありながら、これ程の魔法を行使するとは……)


 アンリエッタの強大な魔導師の才能に、複雑な思いが湧き起こる。


「さすがは、星の観察者。女神に呪われた一族の末裔よ……」


 レイヴィアは、独語を口中でもらした。


「何か、言いましたか?」


 ナギが、横目で問う。


「何も申してはおらんのじゃ」


 レイヴィアは、肩を竦めて誤魔化した。


《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》が、攻撃を開始した。


 四つの腕をもつ業火の巨人が、秦帝国の死霊兵団に向かって、襲いかかる。


《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》の右側についた二本の腕が、死霊兵団にむかって横薙ぎに振るわれる。


 水平に薙いだ二つの腕が、業火の風を生み出して、死霊兵を焼き尽くす。


 二撃目は、左の二本の腕だった。


 《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》の二つの腕が、拳をつくり、正拳突きのように死霊兵に撃ち放たれる。


 轟音が響き、熱波が踊り狂い、火炎が宙空に咲き乱れた。


 死霊兵が、数千人単位で炎に飲み込まれて消滅していく。


 《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》の攻撃は、炎の竜巻のようだった。


 紅蓮の炎が、絶えず《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》から発生し、四本の腕が動く度に、死霊兵が炎で燃やし尽くされる。


 死霊兵団は、軍列をしいて、《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》に対抗しようとした。


 だが、死霊兵(ゾンビ・ウォリアー)は、隊列ごと紙切れのように吹き飛ばされて、燃やし尽くされる。


 《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》は、無人の野をいくように死霊兵団の軍列を切り裂き、全身し続ける。


 やがて、《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》は死霊兵団の中程に到達した。

 そして、突如動きを停止させた。


 紅蓮の巨人は、やや猫背になり、項垂れた。

 そして、四つの腕をダラリと下げて停止する。


 微動だにしない《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》に目掛けて、死霊兵団が殺到した。 


 遠距離から、槍を投擲し、矢を射かける。 


 だが《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》には、数千の槍も矢も、通用しない。


 槍も矢も全てが、《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》の肉体に接触する直前に、超高温の炎で熔解して消滅する。


 やがて、アンリエッタの赤い瞳に、強い光が弾けた。


「……我が巨人よ。天地を焦がせ」


 アンリエッタが、小さく呟く。     

刹那、《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》が、大爆発を起こした。

 爆轟が、異空間を鳴動させる。


 地獄のような業火が炸裂し、球形に広がっていく。


 死霊兵団は、爆発に巻き込まれて四散し、次々に超高温の炎に焼かれて消滅する。


「凄まじいな。頼もしいぜ」


 ナギは、感心して微笑した。

 頼もしい魔導師の少女の力量に賞賛の思いが胸を打つ。


「……ナギに比べれば児戯に等しい。それにまだ沢山いる」 


アンリエッタは、冷静に自己評価して、杖を前方の死霊兵団にむけた。 確かにアンリエッタの言うとおりだった。


 死霊兵団は、アンリエッタの《灼業(シャリア)の巨人(タイタン)》によって、大きく数を減らした。


 だが、それでもなお50万人ほどは存在している。


「数は力か……。軍学の初歩だが、ここまで徹底されるとウンザリするな」


 槍聖クラウディアが、肩を竦めた。そして、聖槍を片手で振り回した後で構える。


「ボクもウンザリさ。少しばかり、体力を削られたよ」


エヴァンゼリンが強がって言う。実際は、全員、魔力、体力、精神力を消耗している。


 時間が経てば回復するが、その時間を敵が与えてくれるわけがない。

 ナギは、全員の消耗を感じ取ると、呼気を吐き出して、一歩前に前進した。


「メニュー画面、神具を出せ」


『宜しいのですか? ナギ様も、消耗されているでしょう?』


 メニュー画面が、心配そうに尋ねる。


「仕方ないさ。無理をするのが男の本分だ」


 ナギが減らず口で応じる。


『了解しました……』


 メニュー画面が、神具の中から最適な武器を選択する。

 やがて、ナギの左手に純白に輝く槍が現れた。


『神槍グングニルです。《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を発動して下さい。くれぐれも、全力で使用せず、自重して下さい』


 メニュー画面が、言う。


「ああ、体力を損耗し過ぎないようにするよ」


 ナギが答える。ナギの額には汗が浮かんでいた。


「ナギ様、大丈夫ですか?」


セドナが、黄金の瞳に心配そうな色をたたえてナギを見上げる。


「心配いらないさ」


 ナギが、微笑でセドナに答える。

 ナギは左手に握ったグングニルを片手でクルクルとまわした。


 刀槍騎射、全てを包括する津軽神刀流の免許皆伝のナギである。 

 槍の扱いも習熟していた。


 そして、グングニルの能力と使用方法はメニュー画面を経由して、脳内に自然にインプットされていた。


 ナギは、神剣〈斬華〉を鞘にしまうとグングニルを両手で持って構えた。

 腰を低く落とし、鋭い目つきで死霊兵団を睨む。


数秒、呼吸を繰り返し、呼気を整える。

 そして、《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》が、発動されてナギの能力がパワーアップする。


 さらに数秒、ナギは全神経を集中させた。 


 そして、心身が整うとナギはグングニルを鋭く突き出した。


「穿て、グングニル!」


ナギの叫びと同時に、グングニルが発動した。

 神の領域に属する能力が発現した。


 次元が切り裂かれたのだ。

 

 

 


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