第139話 王騎(おうき)

 

大精霊レイヴィアは、王騎と戦闘中だった。

 王騎は魔法戦闘を得意としており、大地に潜り込み姿を消していた。

 王騎の巨躯が、地中深くに潜り、大精霊レイヴィアの視界から消える。

 そして、王騎はその状態で大精霊レイヴィアを攻撃していた。

 

 大精霊レイヴィアは、飛翔し、地上100メートル程の宙空で浮遊ししていた。


 空に待機する大精霊レイヴィアめがけて、王騎は地中深くに潜り、そこから攻撃魔法を連射し続けた。

 

王騎の魔法で、岩の槍が形成され、大精霊レイヴィアめがけて地中から、空中に向かって投擲される。


 

 数千の岩で出来た鋭い槍が、大精霊レイヴィア目掛けて、宙空を走り抜ける。

 レイヴィアは、その岩の槍の全てを自身の周囲に張り巡らせた魔法障壁のみで、防ぎ止める。

 攻撃音が、草原の大地に木霊した。


 岩が、レイヴィアの魔法障壁に衝突する音が響き渡る。 

 岩で出来た、数千本の鋭い槍が、魔法障壁に激突する度に砕け散る。

 レイヴィアの魔法障壁は圧倒的な強度を誇り、王騎の魔法では傷一つ付けられない。

 レイヴィアは、悠然と王騎の攻撃を無効化しつつ、周囲を警戒した。


(随分と弱い敵じゃのう)


 とレイヴィアは思った。


罪劫王ディアナ=モルスという敵の印象から、もっと強力な能力者が、敵対してくると予想していた。 


 だが、予想に反して、敵の王騎の戦闘能力が弱すぎる。


(罪劫王ディアナ=モルスを、買い被り過ぎたか?)


 桜金色(ピンク・ブロンド)の髪の精霊は思う。

 周囲を探査魔法で感知したが、伏兵がいるような気配はない。


 大規模魔法術式もない。

 罠が今の所あるようには思えない。


(どうにも違和感があるのう……)


 とレイヴィアは桜色の瞳に疑念をよぎらせる。

 近代兵器の召喚能力者 八神光輝。


 吸血鬼エリザベート=バートリー。 

 先程の敵だった二名と比べて、六将軍は小粒すぎる。

 弱敵をわざわざ用意する意図が分からない。


(いや、今はそれを考えても答えはでぬ)


 レイヴィアは即座に思考を切り替えた。 

 百戦錬磨の大精霊は、眼前の敵・王騎を討滅するのが先決だと判断した。

 レイヴィアの優美な肢体に魔力が漲る。


レイヴィアは、《地界(アクリアス)》の魔法を行使した。

 無詠唱で発動された《地界(アクリアス)》が発動され、大地が動き出す。


 桜金色(ピンク・ブロンド)の髪の精霊が操る超位魔法で、大地が地震の如く揺れ動く。

 やがて、大地に亀裂が走る。

 レイヴィアは、重力を操作して、王騎の隠れる大地ごと空に浮き上がらせた。


 半径一キロに及ぶ地面が球形に抉れ、空高く舞い上がる。

 王騎は地面ごと空高く引き上げられた。

 空に直径二キロに及ぶ球形の土の塊が浮いた。

 その中にいる王騎は、苦笑しつつ思う。


(これは勝てんな……)


 王騎は土の中に埋もれながら思う。

 主君・始皇帝の命に従い王騎はレイヴィアと戦った。


 だが、勝てる相手ではなかったようだ。


(この力量差では勝負にならん)


 王騎は、諦念の笑みを浮かべる。


(まさか俺ごと地面を空高く浮かばせるとは……)


 王騎は死を覚悟した。

 始皇帝の命令を真っ当して、勝利したかった。


 だが、敗北するなら仕方が無い。

 勝敗は兵家の常だ。


(あとは潔く死ぬだけだ)


 王騎はそう思い定めた。

 数秒後、土の中に閉じ込められた王騎の脳に声が届いた。


『聞こえるか? 秦の国の将軍よ』


 レイヴィアの声だった。


「ああ、聞こえる」


 王騎は端的に答えた。


『取引をせぬか? そなたの持つ情報をワシに渡せば生かしてやるぞ?』


 レイヴィアが問う。


「下らぬ。俺は死は恐れぬ。だが、不忠は恐れる。それを理解できない者とは会話する気も無い」


 王騎は傲然と言い放った。

 レイヴィアは沈黙した。

 やがて、レイヴィアは口を開いた。


『……そうじゃな。ワシが非礼であったわ』


 レイヴィアは静かに告げた。


「分かれば良い。早くお前の為すべきことをしろ」


 王騎が、冷静に言う。

 レイヴィアは頷いた。

 レイヴィアは右手を胸の前にあげた。

 そして、右拳を握りしめた。


 同時に王騎の周りを囲う土が圧縮した。

 王騎は土に潰されて圧死した。


 レイヴィアは、《地界(アクリアス)》を解除した。

 膨大な土砂が、地面に落ちていく。


 レイヴィアは、物体操作魔法で、王騎の遺骸だけを取り出すと、その身体の損傷を治した。


 そして、地面にそっと仰向けに置いた。


 レイヴィアは王騎の遺体の周囲に花を咲かせた。

 桜色の野花が生い茂り、王騎の遺体を飾った。


  

 

 

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