第136話 王賁(おうほん)
ナギが黒瞳をセドナに投じた。
セドナは、王賁(おうほん)と激戦の最中にあった。
セドナは白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)を両手に持ち、両刀遣いとして、王賁と戦っていた。
王賁の槍をセドナは二本の白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で巧みにさばいていく。
王賁は槍に巨大な魔力を込めて、セドナに襲いかかっていた。
魔力が込められた槍の一撃は、巨岩を粉砕する程の威力がある。
セドナは、白銀に光り輝く白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で、槍を受け流し、弾き返し、王賁の攻勢を防ぐ。
ナギはセドナの戦い振りを一目見て、助勢する必要がないと判断した。
実際、セドナは王賁よりも遙かに強かった。
王賁は必至に槍でセドナに打ちかかるが、セドナは容易く王賁の槍を受け流していく。
セドナは魔力量、戦闘能力、剣の技量、反射速度、全てにおいて王賁よりも上だった。
桁違いと言っても良い。
決して王賁が弱いわけではなかった。
王賁のステータスは、
レベル:45
物理攻撃力 :7800
物理防御力:6000
速度:6000
魔法攻撃力 :4800
魔法防御力:8400
魔力容量:98000
王賁は、一人で正規の騎士で構成された一個師団を鏖殺できる程の戦闘能力を有している。
だが、セドナのステータスは桁が違う。
レベル:78
物理攻撃力 :25000
物理防御力:16000
速度:18000
魔法攻撃力 :36800
魔法防御力:89500
魔力容量:678000
これがセドナの戦闘力であり、王賁とは隔絶した力を有している。
王賁も無能ではなかった。
歴戦の名将である王賁は、セドナと自分の力量を直感的に把握しており、自分がセドナに勝てないと理解していた。
だが、王賁は動揺せず、逃げもしなかった。
勝てぬ相手でも、始皇帝のために戦い死ぬ。
それが、秦国の名門に生まれた自分の使命だと信じていたからである。
それが、彼の矜恃だった。
王賁は連撃を繰り出した。
槍が、魔力で紅く光る。
槍の速度が上がり、一秒間に二十回という高速の連撃がセドナめがけて撃ち放たれる。
セドナの黄金の瞳が見開かれた。
銀髪金瞳のシルヴァン・エルフの少女は、王賁の連撃を全て見切った。
両手に持った白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で、王賁の槍を受け流し、弾き返す。
セドナと王賁の間にある空間に、無数の火花が弾けた。
セドナが一歩前に出た。
白い美しい装束に身を包んだ銀髪の少女は舞踏のような流麗さで、前に進む。
王賁の槍を体捌きでかわし、白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で受け流しながら、王賁に接近していく。
実は、セドナは、白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で王賁と戦う必要はなかった。
遠距離から、魔法を使って一撃で王賁を討滅することも可能だった。
セドナは、《眷臣(けんしん)の盟約(めいやく)》で、ナギと魂と魔力を連動させており、ナギをつうじて、女神ケレスと軍神オーディンの二柱の神の力を行使出来る。
セドナの魔力から放たれる魔法なら、王賁程度の敵なら易々と討ち滅ぼせる。
だが、セドナはあえて剣で戦うことを選んだ。
それが、王賁という名将にたいする礼儀だと思ったのだ。
人格の高貴さ、気高さは一瞬で見る相手に伝わる。
王賁は敵だが、尊敬に値する何かをもつ相手だとセドナは直感したのだ。
十歳の少女とは思えぬ聡明さであり、これはセドナの優秀性の証明でもあっただろう。
王賁が、渾身の突きを放った。
槍が赤い魔力光を放ちながら、セドナの喉元に繰り出される。
槍の穂先が、セドナの喉にあたる直前、セドナは電光のような速度で動いた。
銀髪金瞳のシルヴァン・エルフの少女は、優美に身を翻す。
半身になって槍の穂先をかわし、同時に左の白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)で、槍の先端部を切り飛ばした。
王賁の槍の先が切断されて宙空高く飛ぶ。
セドナは、全身の力を込めて、王賁の胸に右手の白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)を突き刺した。
「グゥ!」
王賁が呻いた。
王賁の胸を貫いた白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)は正確に王賁の心臓を刺し貫く。
王賁の口から鮮血が飛び出た。
王賁は槍を放した。
セドナは無言で、王賁の胸に突き刺した白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)を引き抜く。
白銀に輝く白夜(シルヴァニアン)刀(ソード)が、王賁の血で赤く染まっている。
王賁は血を吐きながら、一歩、二歩と後ろに下がった。
「見事だ……」
王賁は掌で胸を押さえながら言った。
「娘。名はなんと申す?」
王賁が問う。
「セドナです」
セドナは黄金の瞳を真っ直ぐに王賁にむけた。
「美しい戦い振りだったぞ。セドナよ」
王賁は心から讃辞した。
そして、秦の国の名将は瞳を閉じた。
王賁は膝から地面に崩れた。
そして地面にうつ伏せに倒れて動かなくなった。
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