第133話 情報

エリザベート・バートリの肉体が、灰となった。そして、風にふかれて霧散する。


レイヴィアは、風に流れるエリザベート・バートリーの遺灰を掌で掴み、握りしめた。


 そして、エリザベート・バートリーの遺灰から、記憶を読み取り情報を収集する。

 やがて、レイヴィアは掌を開けて灰を宙に放った。

 レイヴィアの美貌に、舌打ち未満の表情が浮かぶ。


「レイヴィア様、どうしました?」


ナギが問う。


「……概ね予想通りじゃがのぉ。面倒な事態になりおった」

 

レイヴィアの桜色の瞳に憂悶の光がよぎる。


「面倒とは?」

 

クラウディアが、尋ねた。


「この黒曜宮(マグレア・クロス)の陣容が分かった。黒曜宮(マグレア・クロス)を破壊する方法もな」

 

レイヴィアは、ナギ達に身体ごと向き合った。


「今から説明する。まあ、ワシも全てを把握したわけではないがのぉ」

 

そう言って、レイヴィアは説明を始めた。

 魔神軍の要塞である、この黒曜宮(マグレア・クロス)には、無数の敵がいる。

 罪劫王ディアナ=モルスというリッチーが、召喚した地球の人間たちだ。

 

地球において、犯罪者、英雄、偉人など希有な才能をもつ『能力者』たちが、罪劫王ディアナ=モルスによって召喚され、契約を結んで、罪劫王ディアナ=モルスの配下となっている。


 黒曜宮(マグレア・クロス)を破壊するには、能力者たちを全て討伐しなくてはならない。


 ちなみにこの黒曜宮(マグレア・クロス)も、能力者の能力によって作り上げられたものだ。


「恐らく罪劫王ディアナ=モルスは黒曜宮(マグレア・クロス)の中心部にいるじゃろうの」


レイヴィアは形のいい顎をなでた。


「まあ、そうでしょうね。城塞戦の定石だ。守将が一番奥にいるのは当然でしょう」

 

ナギが、神剣〈斬華〉を握りながら言う。


「レイヴィア様、敵の能力者たちの情報はありますか?」

 

セドナが問う。


「ある程度はのぉ。今、全員に共有するわい」

 

 レイヴィアが、仲間達に念話をおくり、情報を直接、脳に送った。

 ナギたちの脳にレイヴィアからの情報が届く。


「随分と多いですね」

 

 勇者エヴァンゼリンが、肩をすくめる。

 しかも、全員が地球出身の能力者だ。


 地球から異世界にきた人間は『来訪者』と呼ばれ、強大な力を持っている者が多い。


 しかも、全員が、異能を所有しているとなると手強い。


「いっそ、一端、黒曜宮(マグレア・クロス)から出て、黒曜宮(マグレア・クロス)を外側から破壊しましょうか?」

 

 ナギが問う。


「……それは無理」

 

 大魔導師アンリエッタが、ナギの提案を退けた。


「……こういう大規模術式による建造物は、外部からの攻撃に非常に強い。いくらナギでも破壊は難しい……。それに、外側から破壊すると大爆発を起こす場合が多い。黒曜宮(マグレア・クロス)の規模から考えて、王都アリアドネまで吹き飛びかねない……」


「ああ、なるほどね。確かに俺が、罪劫王ディアナ=モルスならそうするな」

「……第一、黒曜宮(マグレア・クロス)を外側から破壊した場合、罪劫王ディアナ=モルスを取り逃がす可能性が高い。一人一人、討滅していくしかない」


「まあ、確かに逃げられてはどうしようもないな」

 

 クラウディアが、頷く。


「害虫の巣に入った気分だね」

 

 勇者エヴァンゼリンが、苦笑した。

 次の刹那、空間が歪みだした。

 全員がすぐさま気付き、緊張が走る。


「空間が全域が、歪みだしておる」

 

 レイヴィアが桜色の瞳を細めた。


「俺たちを強制転移させるつもりか」


 ナギは神剣〈斬華〉の柄を握った。


「次の敵の部屋に、案内してくれるようだね」 

 

 勇者エヴァンゼリンが、臨戦態勢を取る。

 奇怪な音が響いた。空間の歪みが拡大する。 

 次の瞬間、ナギたちの身体が、強制転移させられた。





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