第128話 神剣レーヴァテイン
森の中に並んだ千台を超えるタイガー戦車が、ナギとセドナに向けて砲弾を発射した。
千発の砲弾が、上空を浮かぶナギとセドナに向けて飛来する。
ナギは『
巨大な白い神雷が、砲弾の群れに衝突し、戦車の砲弾を吹き飛ばす。 宙空で爆轟が生じ、千発を超える砲弾がナギとセドナに届く前に爆発し、霧散した。
「セドナ、戦車を潰すぞ!」
「はい!」
ナギの命令にセドナが従う。
ナギとセドナは空中から一挙に地上に向けて飛翔する。
ナギは神剣〈斬華〉を握りしめ、セドナは《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を構える。
ナギはタイガー戦車の真上から一挙に神剣〈斬華〉を振り下ろした。 斬撃が雷撃を伴って飛び、タイガー戦車を一瞬で真っ二つに両断する。
セドナも《白夜の魔弓(シルヴァニア)》から矢を放った。
ナギの魔力の供給を受けてセドナの魔力も跳ね上がっている。
セドナの放つ矢は強大な魔力を秘めており、戦車に突き刺さった刹那に、タイガー戦車を爆発させて蒸発させる。
ナギが、神剣〈斬華〉を横薙ぎに振るう。
斬撃が飛び、タイガー戦車二十台を同時に両断し、地面から吹き飛ばして宙空に打ち上げる。
セドナが、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》から矢を速射して、戦車を次々に爆破する。
千台のタイガー戦車はわずか五分で、全て破壊された。
「油断するなよ、セドナ」
ナギが神剣〈斬華〉を晴眼に構える。
「はい」
セドナが《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を油断なく構える。
ナギは四方に警戒網を張り巡らせた。
(タイガー戦車千台か……。これはやはり……)
ナギが胸中に呟いた次の瞬間、上空に飛行機の爆音が響いた。
「予想通りだ。物量作戦でこちらを疲弊させるつもりだな」
ナギが、上空を飛行する飛行機の群れを見た。
戦闘機F-22 ラプター。
アメリカで開発された世界最強の戦闘機である。
1万機を超えるF-22戦闘機が、亜空間の上空を飛行していた。
「デタラメだな」
ナギは肩をすくめた。
「あの……。ナギ様、あれは何ですか?」
セドナが、優美な顔に疑問符を浮かべながら上空を旋回するF-22戦闘機を見る。
「戦闘機という奴だ。鉄で出来た怪物みたいなもんだよ」
ナギが神剣〈斬華〉の峰で肩を叩く。
「速いですね……」
セドナが感心しながら言う。
「ああ、だが、俺たちの敵ではない」
「はい。あの程度でしたらすぐに倒せます」
セドナが、黄金の瞳に自信の光を宿らせる。
事実、ナギとセドナの現在の戦闘能力からすれば、あの程度は脅威にならない。
(だが、体力や魔力は徐々に消耗するな)
ナギは懸念を胸に宿らせた。
それに八神の能力もまだ未知数だ。
無限に兵器を召喚できるのか?
それとも有限か?
召喚できない兵器はあるのか?
戦術核兵器や、細菌兵器は召喚できるのか?
(一番厄介なのは、無限に近代兵器を召喚できる場合だ。その場合、こちらはいずれ体力と魔力が尽きて、消耗の果てに敗北する)
ナギは周囲十キロ四方に感知魔法を放った。
八神を探すためにである。
ナギの感知魔法が、周囲十キロ四方に放たれる。
わずかでも八神の痕跡、もしくは生命体がいればすぐに察知できる。
だが、周囲十キロ四方には八神を初めとして、あらゆる生命体の反応がない。
「ダメか。余程うまく隠れているらしい」
ナギは八神の捜索を一時中断した。
「セドナ、戦闘機を全て破壊するぞ」
「はい!」
セドナが、『白夜の魔弓』に矢をつがえた。
矢は『白夜の魔弓』の魔力で無限に生み出される。
「良いか、これから出来る限り、魔力と体力を温存しながら戦え。必要最小限の魔力で敵を破壊するんだ」
「長期戦になる可能性があるのですね?」
聡明なセドナはすぐに理解した。
ナギはシルヴァン・エルフの少女を見やった。
「その通りだ。やっぱりセドナは賢いな」
「い、いえ……そんな」
十歳の少女は頬を赤らめてモジモジと身体をくねらせた。
ナギに褒められる。それだけでセドナは世界一幸福な少女になれた。
「行くぞ!」
「はい!」
ナギとセドナは同時に飛翔した。
一挙に高度三千メートルまで飛翔して、1万機のF-22戦闘機の群れの中に飛び込む。
1万機のF-22戦闘機が旋回する様はまるで台風だった。
ナギとセドナは、果敢にもその鉄の暴風に突撃する。
ナギとセドナの接近に反応して、世界最強の戦闘機1万機が牙を剥いて襲いかかってきた。
F-22戦闘機が、編隊を組んだ。
1万機が、百機ごとに別れて、空の上で編隊を形成していく。
空の全てが、F-22戦闘機に埋め尽くされる。
F-22戦闘機は整然とした編隊を組むと、ナギとセドナにむけてミサイルを発射した。
ミサイルが音速を超えてナギとセドナに襲いかかる。
だが、ナギは《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》で、雷化しており、音速を超えた速度で移動、知覚できる。
ナギにとってみればミサイルなど脅威になり得ない。
セドナもまたナギに魔力を供給され、《眷臣の盟約》で同一的な戦闘能力を付与されているので、ナギに劣らない速度で動ける。
ナギは神剣〈斬華〉を横薙ぎに振った。
斬撃が神剣〈斬華〉から飛び出し、宙空を走る。
ミサイルが、ナギの放つ飛ぶ斬撃によって破壊されて宙空で次々に爆発する。
セドナも《白夜の魔弓(シルヴァニア)》から、矢を速射した。
十の矢が宙空を閃光のように走り抜け、ミサイルを貫通して次々にミサイルを爆破、無力化していく。
ナギとセドナの周囲で爆発と閃光が渦巻いた。
ナギは《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を発動させた。
そして、軍神オーディンから授かったレーヴァテインを左手に出現させる。
ナギはほぼ本能と言っても良い感覚で、神剣レーヴァテインの性能と使用方法を把握していた。
「燃え尽きろ」
ナギは黒瞳にF-22戦闘機を映しこみながら言った。
神の焔を宿す神剣レーヴァテインが、ナギの魔力に呼応して、その力を発現させる。
神剣レーヴァテインから、神の焔、〈神焔(しんえん)〉が、解き放たれた。
直後、火山の噴火を思わせる轟音が響いた。
ナギの周囲の空間が、業火で埋め尽くされる。
ナギと《眷臣の盟約》で繋がっているセドナには、 神剣レーヴァテインの神焔が無効化されて被害を受けない。
1万機のF-22戦闘機が一瞬で融解し、塵も残らず燃え尽きて、消滅した。
ナギはF-22戦闘機の消滅を確認すると、 神剣レーヴァテインを消した。
(やはり神器は、便利だな)
とナギは思った。
一瞬で、F-22戦闘機1万機を消失させた。
神器に宿る神力を利用しているから、ナギ自身の魔力の消費が抑えられる。
「さて、次は何を繰り出してくる? 八神光輝」
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