第126話 突入

 二十日後。

 

 ナギたちは、黒曜宮(マグレア・クロス)の近くまで到着した。 

 既に黒曜宮(マグレア・クロス)は天まで続く壁にしか見えない。

 ナギたちは、食事を取ると、作戦を練った。


「規格外すぎるが、一応ダンジョンと思おう。突入するしかないと思う。意見は?」

 

 ナギが言うと、全員が賛同した。


「それで良いと思うよ。この黒い城塞も多分、ダンジョン。もしくは敵の能力で建造されているんだと思う。なら、建造した敵を倒せば消滅するよ」

 

 エヴァンゼリンが言った。


「儂もそれしかないと思う。問題はどうやって、この黒い城塞の中に突入するかじゃがな」

 

 大精霊レイヴィアが、黒い城塞の壁面を見る。

 入り口がない以上、壁を破壊して進むしかない。

 だが、果たして破壊できるかどうか……。


「多分、大丈夫だと思いますよ」

 

 ナギが答える。

 そして、ナギはメニュー画面を読んだ。


「メニュー画面」

『ハイハイ』

「オーディン様から貰った中で最強の貫通力がある武器をくれ」

『間違いなく、グングニルです。どうぞ』

 

 メニュー画面の声とともに、ナギの手に神槍グングニルが現れた。

 凄まじい魔力が、神槍グングニルから放出され、セドナを初め全員が顔をかばう。


「なんて魔力だ……」

 

 クラウディアの水色の瞳に畏怖が宿る。

 これ程のエネルギーは見たことがない。

 ナギはグングニルを構えると、黒い城塞めがけて投擲した。

 青い魔力光が爆発し、空間を飛ぶ。

 数瞬後、黒曜宮(マグレア・クロス)の壁面にグングニルが激突した。

 爆轟と光が弾け、天地が震えた。

 衝撃波が津波のように襲いかかり、セドナはあわててナギの腰にしがみつき、エヴァンゼリンたちも大地に踏ん張って吹き飛ばされないようにする。

 土塵が空まで吹き上がり、視界が途絶される。


「さすがナギだ……」

「……神の領域……」

 

 エヴァンゼリンと大魔導師アンリエッタが呟いた。

 やがて、爆轟と土塵が収まる。

 全員が黒い城塞を見た。

 壁面に巨大な穴が開いている。

 ナギのグングニルが、破壊したのだ。


「さて、行こうか」

 

 ナギが歩き出した。

 全員が頷いて歩き出す。 

 既に後方支援のヘルベティア王国軍五百騎は遙か後方に待機している。

 ナギたちの戦いのレベルについて行ける訳がなかったからだ。




 黒曜宮(マグレア・クロス)に入ると、そこは暗闇だった。

 大魔導師アンリエッタが魔法で光を灯して辺りを見回す。


「アンリエッタ。何か見えたり、感じたりするか?」

 

 ナギが問う。


「……難しい。こんな魔法の術式は初めて……」

 

 大魔導師アンリエッタが周囲を感知しながら言う。

 全員、既に臨戦態勢を整えており、ナギは神剣〈斬華〉。

 セドナは、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》。

 エヴァンゼリンは聖剣。

 クラウディアは聖槍。

大精霊レイヴィアは魔力をいつでも発動できるように構えている。

 十秒後。

 大魔導師アンリエッタが、右方向に赤瞳を向けた。


「右方向、二時の方角になにかいる!」

 

 刹那、二時の方角から、銃弾が飛んできた。

 ナギが神剣〈斬華〉で、銃弾を斬って消滅させる。

 次の刹那、空間が揺らいだ。

 ナギ達の視界が変わる。

 そこは、巨大な森の中だった。

 太い木々が無数に生えており、大地には草花がある。


「野外?」

 

 クラウディアが言う。


「……違う。これは室内。亜空間」

 

 大魔導師アンリエッタが答える。

 ナギたちはまだ黒曜宮(マグレア・クロス)の中にいた。

 その空間は、黒曜宮(マグレア・クロス)の一室に過ぎなかった。


「歓迎するわ。相葉ナギ一行様。ようこそ黒曜宮(マグレア・クロス)へ」

 

 エリザベート・バートリーの声が響いた。

エリザベート・バートリーの姿は見えない。

 だが、確実にここにいる。


「悪いけどここで死んで頂戴。私の不老不死と永遠の美貌のためにね」

 

 エリザベートの艶麗な声が響く。 


「拒否する。俺は大往生と決めているからな」

 

 ナギは神剣〈斬華〉を脇構えにした。

 ナギ達は互いを背にして円陣を組んだ。

 勝手が違う敵である。

 どうにもやりにくい。


「誘き出すか……」

 

 ナギは呟いた。


「八神光輝。いるか? 俺が斬った右腕はどうした? トカゲのように生えてきたか? それともまだ、なくしたままか?」

 

 ナギが痛罵する。


「相葉ナギィイイイイイ!」

 

 八神光輝の怒声が響いた。

 続いて、トマホークミサイルが、ナギたち目掛けて飛来してくる。


「単純だね」

 

 エヴァンゼリンは、肩を竦めた。

 全員が同意する。

 こんな安い挑発に乗るとは余程自制心がない人間なのだろう。


「あの馬鹿!」

 

 エリザベートは、八神光輝に悪罵を放った。

 まずは様子見をして、敵の隙を窺う手はずだったのに、あんな見え透いた策にのせられるとは!

 エリザベートは、唇を噛みしめて怒り、


(八神光輝を見捨てるべきか?)

 

 と考えた。

  

 だが、それは出来なかった。

 自分の主人である罪劫王ディアナ=モルスが、八神光輝と組んで助け合え、と命じたのだ。

 自分自身の利益のためにエリザベートは八神光輝を捨てるわけにはいかなかった。

 エリザベートは、魔法を発動させた。


 


 八神光輝の放ったトマホークミサイルが、空間転移で消えた。

迎撃しようとしていたナギ達の反応が遅れる。

 ナギは目を閉じて、気配を探した。

 やがて、トマホークミサイルの気配を至近に感じた。


「逃げろ! 爆発するぞ!」

  

 ナギの指令とともに、全員が飛行して退避する。

 直後、ナギ達がいた地面が大爆発を起こした。

 トマホークミサイルが、エリザベートの空間転移魔法で、空間を移動し、いきなりナギ達の至近距離に出現して爆発したのだ。


(敵を褒めたくはないが、八神光輝とエリザベート・バートリーの能力は相性抜群だな)

 

 これ以上ないほどの組み合わせと言って良いだろう。

 近代兵器をエリザベート・バートリーの空間転移魔法で移動させて距離感を狂わせて攻撃する。

 こんな厄介な戦術はない。

 どうして魔神軍はこうも狡猾なのか。

 映画やゲームの敵役のように無策に仕掛けてくれたら楽だろうに。

 ナギは舌打ちした。

 

 そして、高度二百メートル程で地面を見る。

 隣にいるセドナも左右を見て警戒する。

 ふいに森の奥から十数発の砲弾が飛んできた。


「遅い!」

 

 ナギは神剣〈斬華〉を振った。斬撃が飛んで、砲弾を吹き飛ばして消滅させる。

 セドナも《白夜の魔弓(シルヴァニア)》から矢を速射して砲弾を消滅させる。


「ナギ様、これは?」

「戦車の砲弾だ」

「センシャ……ですか?」

 

 セドナが小首を傾げる。


「あれだよ。俺の世界の兵器だ」

 

 ナギは、地面を指さした。

 森の中。

 樹木の葉の間から、VI号戦車ティーガーE型。

 通称『タイガー戦車』が千台以上並んでいる。    


「独ソ戦じゃあるまいし……」

 

 ナギが苦笑した。


「ドクソセン……ですか?」

「訳が分からないよな……。まあ、知らなくても良い知識だ。とにかくあの戦車というのは敵だ。全部破壊しよう。それと砲弾を撃ってくる注意してくれ」  

「はい!」

 

 セドナが答え終わると同時に、千台の戦車が一斉に砲弾を発射した。 

     

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