第124話 城塞
ナギ、セドナ、大精霊レイヴィア、勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタ、カイン皇子、パンドラ王女。
彼ら人類の最高戦力は、衛兵の言葉を聞くと即座に窓から飛翔し、王城の屋根の上に飛んだ。
そして、屋根の上から北の空を見る。
「あれは……なんですか?」
セドナが呻くように言った。
ナギたちは北の方角を見た。
魔神のいる北の大地。
そこに雲を突き抜けて聳(そび)える大城塞があった。
黒真珠のように光る禍々しくも美しい城壁が天と地を塞ぐ壁のように屹立している。
あまりのスケールにナギたちは忘我した。
やがて、ナギは黒瞳を巨大な黒い城塞に注ぎ、魔力を感知する。
「この禍々しい魔力……」
「間違いなく魔神軍の作り上げた城塞じゃろうな」
レイヴィアが言葉を引き取る。
「城塞って……。ハハ、雲を突き抜けているよ……」
エヴァンゼリンが、呆れたような表情を浮かべた。
「高さは最低でも二キロくらいか?」
クラウディアが肩を竦めた。
「城塞なのか、山なのか、よう分からんわ……」
パンドラ王女が額に手を当てた。あまりのことに、恐れるよりも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「まずい。あそこは曙光作戦の前線基地を作る予定だった場所だ」
カイン皇子の言葉に全員が振り向いた。
「……そうか。曙光作戦を潰すために魔神軍が仕掛けてきたのか……」
ナギは首をふった。
「魔神軍は余程有能な人材が揃っているらしいな。次から次へとこちらの軍略を一歩上回るように巧妙に作戦を立てて実行してくる」
「ナギよ。感心しておるわけにもいかんぞ」
レイヴィアが、どうするのかと眼で問う。
「分かってますよ。あの黒い城塞を潰します。それしかない」
ナギが宣言すると全員が頷いた。
曙光作戦は前線基地を建造するためのものだ。
その前線基地の建設予定地にあんな大城塞が出来てしまったのだ。
まず、あの黒い大城塞を破壊しなくては曙光作戦は頓挫してしまう。「カイン皇子」
ナギが、カイン皇子に身体ごと向き直る。
「なんでしょうか、ナギ伯爵」
「俺たちが先行して、あの黒い城塞を破壊します。カイン皇子は俺たちが黒い城塞を破壊した後に、曙光作戦を発動して下さい」
ナギの黒い瞳がカイン皇子の碧眼をみすえる。
「分かりました。必ず、実行すると約束します。ナギ伯爵……。どうかよろしくお願い申し上げます」
カイン皇子は胸に手を当ててナギに頭を垂れた。
「しかし、あれは破壊できるのかな?」
エヴァンゼリンが珍しく弱気な発言をした。
それを咎めるものはいなかった。
破壊する目標物は山よりも大きな大城塞である。
「やるしかないさ」
ナギは肩を竦めた。
そして、ふいに《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を発動させると両手を北方にむけた。
照準を黒い大城塞にすえる。
ナギは、全力で電撃を放った。
ナギの両手から野太い光の円柱が走った。
白い稲妻が、直径十メートルの円柱となって、宙空を走る。
ビームのような魔力の稲妻が、北方にむかって飛んだ。
数秒後、黒い城塞の壁にナギの放った稲妻が命中した。
全員が、身を乗り出して注視する。
爆轟が響いた。
遙か遠くで落雷のような音が微かに響いてくる。
だが、それだけだった。
黒い城塞は微塵も動揺せず、不動の山として天地にそびえていた。
「壊しがいがありそうだな」
ナギは不適に微笑すると、静かに黒い城塞を見続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます