第123話 凶兆

 その時、ドアがノックされた。


「どうぞ」 

 

 ナギが言うとドアが開き、侍女が恭しく頭を垂れた。


「失礼いたします」


 侍女が、恐懼して頭を下げる。


「カイン皇子、並びにパンドラ王女がおいでになられました。相葉ナギ伯爵閣下、及び勇者エヴァンゼリン様方にお会いしたいそうです」


 侍女がそう告げると、ナギたちは顔を見合わせた。

ナギはテーブルの上に広げてあったケーキや食器を宝物庫(アイテム・ボックス)に入れると、


「すぐにお通ししてくれ」

  

 と告げた。

 五分後、金髪碧眼の二十歳の美青年と、青髪碧眼の十歳の少女が部屋に現れた。

 カイン皇子とパンドラ王女である。

 ナギたちが立ち上がり、頭を垂れようとすると、カイン皇子が片手で制した。


「辞儀合い無用。敬語すら使う必要は無い。戦時に些末な礼儀はいらぬ」

 

 カイン皇子は率直に言った。


「突然の対面を要求し、申し訳なく思っている」

 

 カイン皇子はまず謝罪した。そして、侍従が用意した椅子に座る。

 パンドラ王女もカイン皇子の隣の椅子に座り、ナギたちに頭を下げる。


「如何なるご用件でしょうか?」

 


 ナギが代表して問う。


「単刀直入に言おう。『曙光作戦』をなんとしてでも決行したい。そのための助力をお願いしたい」

 

 カイン皇子が決然とした表情で言い、パンドラ王女も頷いた。


「我が父を含めて五大国の君主三人が殺害された。王達の死により、人類に敗北感が植え付けられれば、人類に未来はない。父の無念を晴らすためにも私は、魔神軍と断固として戦う」

 

 カイン皇子が、断言した。


「私もカイン皇子と同じ意見です。曙光作戦が中止されれば人類は敗滅します。ナギ様たちにはどうかご助成を願いたく存じます」

 

 パンドラ王女が言う。

 ナギたちは顔を見合わせた。

 願ってもないことだった。

 カイン皇子もパンドラ王女も戦意を失っていない。


「当然、協力致します。できる限りのことをさせて頂きます」

 

 ナギが微笑とともに言う。


「ありがたい。ナギ伯爵たちの力をお借り出来れば千人力だ」

 

 カイン皇子は、安堵とともに言った。


「……申し遅れましたが、お父上たる皇帝陛下の崩御、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。そして、俺はあなたのお父上を守りきれなかった。どうか、お許し下さい」

 

 ナギが頭を垂れた。


「ナギ殿が謝罪する必要は無い。憎むべきは魔神軍だ。私は奴らを決して許さぬ」 

 

 カイン皇子は拳を握りしめた。

 数秒の沈黙の後、クラウディアが口を開く。


「失礼ながら、『曙光作戦』の具体的な実案はおありですか?」

「それを今、立案中だ。近日中に補給、軍の編成、予算。全てを決める。実は今忙しくてな」 

 

 カイン皇子は苦笑した。

 父親である皇帝の死を紛らわせるためには、仕事に没入するしかなかった。

 カイン皇子のそんな姿にナギたちは、いじらしさと感銘を受けた。


「重ねて申しますが、ボクたちはどんなことでもしますよ。魔神軍と戦うのが勇者たるボクの使命。ここにいる全員も同様に決意を固めています」

 

 エヴァンゼリンがカイン皇子に言う。


「ありがとうございます。エヴァンゼリン殿。ご好意は決して忘れぬ。……では、失礼する。今、曙光作戦と、それに付随する政治業務などで忙しくてな」

 

 カイン皇子とパンドラ王女が立ち上がり、一礼する。

 そして、カイン皇子とパンドラ王女はすぐさま部屋を辞そうとした。 その刹那、激しい振動が起きた。

 地面が揺れ動き、王都アリアドネ全域が揺れ動いた。

王城全体が激しく揺れ動き、多くの人間の悲鳴が響く。


「地震か?」

 

 ナギは、よろけるセドナを抱きしめて支えた。

 室内のシャンデリアが揺れ、テーブルが動き、椅子や調度品が倒れていく。


「いや、何か妙な魔力を北方から感じるぞい」

 

 レイヴィアが、桜色の瞳を北方にむけた。

 やがて、振動が止んだ。

 沈黙が降りた。


(何だ。……この嫌な予感は?)

 

 ナギはセドナを抱きしめながら思う。

 セドナも不安を感じてナギに強く抱きつく。 

 その時、扉が開いた。

 血相を変えた衛兵が、室内に飛び込んでくる。


「ご報告申し上げます! 火急の事態にて、ご無礼をどうかお許し下さい!」

 

 衛兵はそう言うと、カイン皇子の前で片膝をついて拝跪した。 


「何事か?」

 

 カイン皇子が尋ねる。


「き、北の大地に城が! 見たこともないような巨大な城塞が突如として出現致しました!」 

 

 衛兵の顔は恐怖で引き攣っていた。

   

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