第118話 情報
エリザベートは口から鮮血を吐き出した。彼女の衣服が、レイヴィアの氷の魔法で千切れ、吹き飛ぶ。
エリザベートは苦悶し、人質の少女を掴んだ手を緩めた。
その刹那にレイヴィアは、エリザベートの手から人質の少女を奪還して後方に跳躍した。
エリザベートの胸部と背中を貫通した穴が、急激に修復して塞がる。
同時にエリザベートは、自身の身を守るために《時空間魔法》を発動させ、周囲の時間と空間を歪めた。
レイヴィアは、エリザベートに追撃する戦機を失った。
ナギはその刹那に動いた。
即座に雷化し、神剣〈斬華〉を掴み取ると、八神に向けて躍りかかる。
そして、ナギは八神に向けて、神剣〈斬華〉を斬り上げた。
八神は回避しようとしたが間に合わず、神剣〈斬華〉が八神の右腕を肘から切断した。
「ギャアアアア!」
八神は絶叫した。
八神の斬られた右腕が鮮血の尾を引きながら宙を舞う。
ナギはトドメを刺すべく、神剣〈斬華〉で八神の心臓を刺突しようとした。
「させない!」
エリザベートが叫び、《限定時間遅延魔法》が発動する。
限定された空間内部の物質の時間を遅延させる能力。
その魔法が、ナギの肉体の速度を落とす。
八神は悲鳴を上げながら、ナギの攻撃を躱して地面に転がった。
同時にエリザベートは《空間転移魔法》を発動し、自分と八神の肉体を転移させた。
八神光輝とエリザベート・バートリーは、忽然として消えた。
「逃げられたか……」
ナギは、舌打ちした。そして、すぐにレイヴィアに視線を投じる。
「レイヴィア様、女の子は無事ですか?」
「ああ、気絶しているだけのようじゃ。無事じゃよ」
レイヴィアは己の腕の中にいる少女を見ながら言う。人質の少女がいるせいで、ナギもレイヴィアも全力を出せず、結果として八神光輝とエリザベート・バートリーを逃した。
だが、今はそれを言っても仕方ない。
ナギは神剣〈斬華〉を鞘にしまい、剣帯に差した。そして、レイヴィアに歩み寄る。
「厄介な相手じゃったのう」
レイヴィアが、人質の少女を仰向けに寝かせ膝枕をしてやる。同時に治癒魔法をかけて少女の体力の回復を促す。
「ええ、魔神軍は奇策を使う奴らが多くて本当に面倒です」
ナギは肩を竦めた。
罪劫王ディアナ・モルス。この女は侮れない奸智の持ち主だ、とナギは思った。
まず、戦勝記念祝賀会に自分の立体映像を出して、人類の士気を削ぐ。
そして、宣戦布告して自分に意識を集中させて、相葉ナギ、セドナ、エヴァンゼリンたちを攻撃するかのように見せ掛ける。
その後、いきなり五王たちを狙撃させる。
しかも、罪劫王ディアナ・モルスではなく、その部下である八神光輝とエリザベート・バートリーが、襲撃犯となるという悪辣さだ。
(だが、同時に妙なことも多い)
とナギは胸中で呟く。
八神光輝は近代兵器を召喚して攻撃してきた。
その中にはパトリオットミサイルすらあった。
なぜ、五王を殺害する時にパトリオットミサイルを使わなかったのだ?
そうすれば五王を殺害する成功率はおおきくなる。
極端なことを言えば戦術核兵器を使用しても良かったのだ。
なぜ、その戦術を取らず、わざわざ狙撃銃で狙い撃ちしたんだ?
しばし、ナギは考え込んだが結論は出ず、やがて首を軽く振った。
(いや、考えて分からないことを思惟するのは時間の無駄だ。今の状況のみを整理しよう)
しかし、整理するにしても、敵の情報が少なすぎるが……。
「困りましたね。敵の情報があまりに少なすぎます」
ナギが半分愚痴るように言うと、レイヴィアは桜金色の髪(ピンク・ブロンド)の長い髪をかきあげた。
「いや、そうでもないぞ。エリザベート・バートリーという小娘を攻撃した際、僅かだが、あの女の脳から情報を採取した」
「脳から情報を採取? 凄いですね」
ナギは素直に感嘆した。
「大精霊などと名乗るのは伊達ではないのじゃよ」
レイヴィアは微笑し、ナギは敬意を込めて一礼し、
「頼りになります。大精霊様」
と賞賛の言葉を述べた。
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