第117話 出現

「言い残すことはあるか?」

 

 八神は自分に興奮しながら言った。


(安っぽいヤツだ)


 とナギは思った。三流のアクション映画に出てくる小悪党のセリフだ。自分に酔っていやがる。 



「八神(やがみ)光輝(こうき)! さっさと殺しなさい!」

 

エリザベートが叫ぶ。


「うるせぇ! 今は俺のターンだ! 邪魔するんじゃねェ!」 

 

八神は血走った目をエリザベートにむける。


「どうして罪劫王ディアナ=モルスの手下になった? 一体どんな利益があるんだ?」


ナギが、八神に問う。


「もちろん、欲望と快楽だ」

 

八神はゲラゲラと笑った。


「莫大な財宝、麻薬、最高の飯に酒、そして、ディアナ=モルス様は、地球じゃお目にかかれないような美女を何十人でもくれる。美女を嬲り殺すのは最高だぜェ? しかも警察に捕まらねぇ。やりたい放題だ。この異世界は天国だ!」


「悪に墜ちてまで欲望を満たしたいのか?」

 

ナギが嫌悪の光りを瞳に宿す。


「俺に言わせれば正義の味方であるお前らの方が分からねェ。善人で良いことなんか世の中、一つもねぇぞ? 現にお前はここで無残に死ぬ。くだらねェ、死に方だ」

 

八神はナギに向かって嘲弄の笑いをあげる。


「いや、俺はまだ死なない。殺されるつもりはない」

 

ナギがそう言うと、八神とエリザベート・バートリーは緊張して身構えた。


「てめぇ! 人質を見捨てる気か?」

 

八神は後方に跳躍して拳銃を握りしめる。


「この娘がどうなってもいいの?」

 

エリザベート・バートリーと名乗る女が、自分の腕にいる少女の喉元にナイフを突き立てる。


「いや、そのつもりはない。少女は助ける」

 

ナギが、静かに言う。


「いや、正確には少女は助かる……か」

 

ナギが独語した刹那、エリザベート・バートリーの背後に桜金色(ピンク・ブロンド)の髪をした少女ーー大精霊レイヴィアが突如出現した。

 

レイヴィアはエリザベートの背中に氷柱を突き刺した。氷柱はエリザベートの背中から胸までを貫通した。

 

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