第116話 照準

「その通りだ、悪党には悪党の戦い方ってェもんがあるのさ」

 

 八神が、ケタケタと笑う。不快極まりない嘲弄が銀の仮面から漏れる。


「初めまして。相葉ナギ。私はエリザベート・バートリー。短い間だけど覚えておいて」

 

 紫色の髪の美女が、優雅な声で言う。


「おい、エリザベート。これから死ぬ奴に名乗る必要はねェだろう?」

「貴族としての礼儀よ。死にゆくものには礼儀を施すのが嗜みなの」


 エリザベートは紫色の髪を短剣をもつ右手で梳いた。そして、左手で人質にした少女を自分の胸に抱き寄せるとナギに視線を投じる。


「さて、相葉ナギ。悪いけど剣を捨てて貰える? 陳腐な台詞で申し訳ないけど、この女の子を殺すわよ?」

 

 エリザベートの右手に短剣が煌めいた。

 ナギは人質の少女に視線を投じた。 

 見覚えがある。パーティーの会場にいた少女だ。

 気絶しているようで、ピクリとも身体が動いていない。


「いや~、しかし、可愛いお嬢ちゃんだよなァ~。腹を切り裂いて、臓物みたら興奮すんだろぉなァ~」

 

 八神が、凶悪な笑声をたてる。

 ナギは嘆息すると神剣〈斬華〉を地面に突き刺した。


「おっと、そのままその剣から離れろ」

 

 八神が鋭く命じる。

 ナギは神剣〈斬華〉から、二十歩離れた。


「善人だねぇ。くだらねェ奴だ。赤の他人のために死ぬなんてよォ」

 

 八神は心底くだらなそうに言った。


「八神! 油断してはだめよ。相葉ナギは貴方よりも遙かに強いわ」

 

 エリザベートが叱責する。


「心配はいらねぇよ、エリザベート。お前の限定時間遅延能力と俺の近代兵器召喚があれば無敵だ。俺はこれからもっと強くなる。お前もそうだ」

「限定時間遅延能力、近代兵器召喚。それがお前らの能力か?」

 

 ナギが、二人に問う。


「ああ、そうだ。最高の能力だろうが? 俺の力はいずれこの世界で最強になるだろうぜぇ」

 

 八神は、自慢気に言う。己の能力を他人に誇示する優越感が八神の胸を満たす。

 ナギは、すぐに殺す。殺す前に何を言っても問題ないだろう、と八神は考えた。


「……信じがたい能力だ。八神光輝。お前はどんな武器でも召喚できるのか?」

「ああ、そうさ。核でも空母でも、原子力潜水艦でもな」

「八神、喋りすぎよ」

 

 エリザベートがたしなめる。


「いいじゃねぇか、どうせすぐに死ぬんだ」

 

 銀仮面は手に拳銃を召喚した。

 ワルサーp38が銀仮面の右手に現れる。


「凄まじいな、近代兵器召喚とは……」

「ああ、これこそが世界最強の能力だぜェ~」

 

 銀仮面が、笑声を上げる。


「さて、お喋りは終わりだ。いいか相葉ナギ、弾丸から逃れるな。防御をするな。確実に頭を吹き飛ばされて死ね。逆らえば人質の少女は死ぬぜェ~」

 

 八神は拳銃をナギの頭に照準した。



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