第115話 人質

(地雷か?)

 

 ナギは上空から地面を見下ろした。

 八神が、上空に浮かぶナギめがけてスティンガーミサイルを打ち放つ。

 ミサイルはナギにむかって飛翔した。

 

 ナギはミサイルを神剣〈斬華〉で切り刻んだ。無数の断片に切り刻まれたスティンガーミサイルは起爆することなく地面に落ちる。

 

 だが、その時、無数の飛翔音をナギの聴覚が捉えた。

 ナギが後方を見ると、40ものミサイルがナギ目掛け飛翔していた。

 ナギは、舌打ちした。

 

 いつの間にか、後方一キロの場所にミサイル発射機が地面に敷設されていたのだ。

 装甲ボックスランチャーと呼ばれるもので、トマホーク巡航ミサイルの発射装置である。

 

 アメリカの原子力ミサイル巡洋艦「ロングビーチ」に搭載されている装甲ボックスランチャーが、十基も地面に並べられている。


(こいつ近代兵器を召喚できるのか?)

 

 ナギは八神の能力を推察し、黒瞳に強い光をよぎらせる。ナギめがけて、四十発のトマホークミサイルが襲いかかる。


「なめるなよ」

 

 ナギは高度百メートルまで飛翔すると魔法障壁を張り巡らせた。

 円形の魔法障壁がナギの肉体を覆い尽くす。

 同時にナギは全方位にむけて電撃を放射した。

 

 空間を埋め尽くすような濃密な電撃が、四十基のトマホーク巡航ミサイルを吹き飛ばし、電撃で灼き焦がす。

 

 八神はそれを視認すると、


(電撃か)

 

 と心中で呟いた。電撃は厄介だ。トマホークミサイルの内部にある起爆のための精密機械は強大な電撃を加えられると起爆しなくなる。


(なら、俺の意志で爆発させるまでだぜェ~)

 

 八神は、トマホーク巡航ミサイル発射機を一気に五十基召喚した。

 八神の周囲に五十基もの発射機が敷設される。そして、召喚とほぼ同時にナギにめがけて、トマホーク巡航ミサイルを撃ち放つ。

 

 一基につき四発のミサイルが内蔵されており、五十基から二百発のトマホークミサイルが、爆轟とともに発射された。


 ナギは地面から、二百発ものトマホークミサイルが飛翔してくるのを黒瞳でとらえた。

宙を埋め尽くして飛来する二百発のミサイルめがけて〈斬華〉を片手に一気に急降下する。

 そして、ミサイルを次々に切り裂く。ナギはミサイルの群れの中に飛び込み、急降下しながらミサイルを次々に切り刻んでいく。


「馬鹿が! 爆死しやがれェ!」

 

 八神は狂喜して叫び、ミサイルを爆発させた。 

 ナギの至近で爆発が生じた。

 二百発のトマホークミサイルが同時爆破したのだ。

 

 ナギの細見の身体が爆発で包まれ、宙空に爆発の閃光が煌めく。

 爆発が止んだ後、八神は宙空に目をこらした。

 ナギの姿はどこにもなかった。


「粉微塵に吹き飛びやがったかァ?」

 

 八神が空に目をこらしながら言う。


「こっちだ。仮面野郎」


 ナギの声が響くと同時に八神は後ろを振り向いた。

 ナギは平然と地面に立っていた。

 爆発を圧倒的な速度で回避していたのだ。

 

 ナギは息を一つ吐くと、八神めがけて電撃を放った。 

 巨大な電撃が宙を走り、銀仮面めがけて伸びる。

 ナギが斬撃ではなく、電撃を選んだのには理由がある。

 八神の能力を確かめるためだ。

 

 突撃しての剣による攻撃はきかなかった。

 二度も速度を減速させられて、八神を打ち漏らした。

 なら電撃ならば八神はどう対応するのか、そう考えたのだ。

 電撃は八神に直撃する寸前にまたも動きが鈍った。

 八神は横に跳躍して鈍くなった電撃をなんなく躱す。


(電撃さえも遅くするのか)

 

 ナギは胸中で冷静に分析した。


「厄介だなァ~、おい。こっちの攻撃が当たりゃしねェ。雷に比べたらミサイルでも速度ではかなわねぇな~」

 

 八神が肩を竦める。


「その通りだ。弾丸もミサイルも俺にはきかん。諦めて死んでくれるか、仮面野郎?」

 

 ナギが挑発する。


「いや、俺は死ぬのはごめんだ。世界中の人間を殺してでも自分だけは助かりてぇ、心からそう思ってるぜ」

 

 銀仮面は低い声で答えた。  


「だから、こういう手段を執らせて貰うぜェ~」  


 八神はそう言うとナギの後方に指を指し示した。

 ナギが肩越しに後ろを見ると、紫の髪をした女が立っていた。

 年齢は二十歳前後。妖艶な顔立ちをした美女で病的なまでに白い顔をしている。豊満な身体に紫色のゴシックドレスをまとっていた。

 そして、その女は一人の少女を人質に取っていた。


「人質か……」

 

 ナギの瞳が憎悪に揺れる。人質の少女には見覚えがある。宮廷のパーティーで話しかけてきた貴族のご令嬢だ。





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