第113話 狙撃
(罪劫王!)
ナギは即座に神剣〈斬華〉を手に出現させて構える。
セドナも《白夜(シル)の魔弓(ヴァニア)》を手に取って戦闘態勢に入る。
勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタが、武器を手に取り、罪劫王を称するディアナ・モルスを睨む。
『そなたら人間如き非弱な存在が、我ら魔神軍に勝てると思ったか? 愚劣な虫ケラどもめ』
ディアナ・モルスは艶麗な微笑を浮かべた。人類全てに対する侮蔑と嘲弄を含んだ毒のような笑み。
『そなたらの希望を託する相手は、そこにいる五人か』
ディアナ・モルスの幻影が、相葉ナギ、セドナ、エヴァンゼリン、クラウディア、アンリエッタに向けられる。
濃密な殺気が、ナギ達五人に降り注がれる。
『ここで貴様ら五人を抹殺し、人間どもに希望などないことを知らしめてくれる』
ディアナ・モルスの幻影が、殺意を込めて宣言する。
刹那、閃光が爆発した。同時に耳を聾する爆轟が弾け、会場内に悲鳴が木霊する。
(これは?)
ナギは眼を瞑る。閃光が弾ける前に目を閉じたのだ。
だが、おかしい。魔力の流れを感じなかった。
魔法ならば、事前に感じる筈だ。なぜ感じなかった?
エヴァンゼリンとクラウディアは眼を灼かれ、視力を奪われた。
セドナも強すぎる視力と聴力が仇になり戦闘不能になる。
次の瞬間、ナギは会場の二階に不穏な人影を発見した。
そこは五人の王達がいる場所とは対面に位置する場所だった。
(しまった!)
ナギは即座に、《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を発動して雷化した。全身と神剣〈斬華〉が、稲妻そのものとなる。
そして、音速を超える速度で宙空を走った。
狙撃音が連続して起こる。
五発の弾丸が、五人の最高君主達の心臓めがけて飛ぶ。
圧倒的な感知能力をもつナギだからこそ気付いた罠。
ディアナ・モルスの狙いは最初から、最高君主達だったのだ。
相葉ナギ達を狙うと宣言したのは注意を逸らすための陽動だ。
五発の弾丸が、五カ国の王達の心臓目掛けて飛ぶ。正確な軌道で宙空を走る弾丸。
ナギはその五発の弾丸を神剣〈斬華〉で切り裂いた。
銃弾は雷撃に灼かれて粉塵とかして消滅し、五人の君主は死を免れた。
だが、その直後に爆発が生じた。
会場内の数カ所で爆弾が爆発し、五十余名の人間を瞬く間に吹き飛ばして肉塊にかえた。
血飛沫がシャワーのように降り注ぎ、会場はもはや混乱の坩堝とかしていた。
貴族、軍人、貴婦人、侍従、侍女。そして王達。全員が眼を灼かれて、視力を喪失している。
ナギは黒瞳を射るように投じた。
ナギの視線の先。百メートルほどの距離。
そこに一人の男がいた。
身長は百八十センチ程。
顔には銀色の仮面をつけ、手に狙撃銃を持っている。照準は、五王達だった。
ナギは神剣〈斬華〉を握りしめると、仮面の男にめがけて躍りかかった。
容赦をするつもりはなかった。王達への狙撃を阻止しなければならない。
殺すつもりで神剣〈斬華〉を振るう。雷撃に等しいナギの速度は不可避の攻撃となって、仮面の男の首を切り飛ばす筈だった。
だが、ふいにナギの速度が鈍化した。稲妻に等しい速度を出すナギの神速が衰える。
ナギの速度が時速30キロ程度まで鈍化した。
(なに?)
ナギが驚いて目を見開く。
刹那、男の狙撃銃から銃声が3発響いた。
エスガロス王国国王アルミナス。
オルファング王国国王イーバル三世。
グランヴァニア帝国皇帝カスタミア。
彼ら三人の胸に銃弾が命中して貫通した。
3人の王達の心臓が破裂し、胸と背中の銃創から血が噴き出る。
(しまった!)
ナギは狙撃銃の男を追った。だが、速度が鈍化したナギを尻目に狙撃銃の男は会場の窓を破壊して外に逃げた。
「ちいっ!」
ナギは舌打ちした。
会場に目を向ける。
ディアナ・モルスの幻影はいつの間にか消えていた。
会場は混乱の坩堝と化し、ほぼ全員が眼を灼かれて視力を失っている。 ただ一人、大魔導師アンリエッタだけが、その場で眼をしっかりと開けて佇んでいた。
そして、大魔導師アンリエッタは巨大な魔法陣を出して、会場内の人間を結界で保護し、同時に治癒魔法を使って、治癒を開始した。
アンリエッタは、狙撃された三人の王たちに歩み寄る。なんとか治癒しようとするが、すでに三人の王達は絶命していた。
「アンリエッタ! ここは任せる!」
ナギが叫ぶ。アンリエッタは頷いた。
それだけで意志は通じ合った。
ナギが敵を追う。
そして、アンリエッタが会場内の人間達を護り治療する。
ナギは会場を見下ろした。
セドナもエヴァンゼリンもクラウディアも無事だ。
だが、爆発で数十名が死亡し、百余名が負傷した。
死んで細切れになった人間の中にはまだ小さな子供もいる。八歳ほどの少女の頭部が床に転がっているのがナギの
黒瞳に映り込んだ。
ナギは憤怒とともに会場を飛び出した。
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