第103話 時空間魔法
ふいにドアがノックされ、侍女がパンドラ王女の来訪を告げた。
ナギがパンドラ王女の入室を許可すると、美しい青い髪をした王女が一礼した。
「ナギ様、セドナ様、大魔導師アンリエッタ様。本日はヘルベティア王国を代表して謝罪に参りました」
パンドラ王女は深々と頭を下げた。一〇歳の王女は、マルクス・ウィスタリオンとその取り巻き達との一件を知り、慌てて謝罪に来たのだった。顔を青ざめさせながらも必死で頭を下げて陳謝する王女にナギは笑って答えた。
「気にしないで下さい。たいしたことじゃないですから」
「しかし、それでは……マルクス・ウィスタリオン達には厳罰を与えます故……」
パンドラ王女が碧眼に憂悶の光を滲ませて言う。
「良いですよ。厳罰なんていりません。あれで反省せず、また罪を犯すならばその時は罰するしかないでしょうがね」
ナギは微笑を湛えた。
「……ナギ様は素晴らしい御方ですね……」
パンドラ王女は感歎の吐息をもらした。
「ああ……、なんだか疲れちゃいました……。座ってもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ。それより口調が違いますね、殿下?」
パンドラ王女は椅子に座ると、頬を染めた。
「ええ、もう我が国が滅亡するかもしれないと思いましたから動転して……。ナギ様がキレて我がヘルベティア王国を壊滅させるのではないかと……」
「しませんよ。そんなこと。僕は普通の人間ですから」
「普通ではないと思いますが……」
「……普通ではない」
セドナとアンリエッタがほぼ同時に小さく突っ込んだ。
「良かった~。ああ、凄い肩が疲れてもうた……。身体中が鉛のように重いわ~」
パンドラ王女が椅子に力なくもたれた。余程悲痛な思いだったらしい。
「甘いモノでも食べますか? 僕が作りますよ?」
「つ、作って下はるの?」
パンドラ王女は年相応の無邪気な顔になった。甘いモノは大好きである。
「ええ、じゃあ少し待っていて下さい。セドナ、行こう」
「はい」
ナギとセドナは阿吽の呼吸で部屋を出た。
パンドラ王女とアンリエッタが残り、暫く沈黙が流れた。
「えらい、お久しぶりです。アンリエッタ様」
パンドラ王女が挨拶すると大魔導師アンリエッタは頷いた。
「……ん。久しぶり……」
「なんや、あの二人まるで夫婦やな」
パンドラ王女はドアを見ながら言い、アンリエッタも同意した。
「……五十年連れ添った老夫婦状態……」
「……羨ましいな~」
パンドラ王女は頬に両手を当てた。以心伝心のカップル。十歳の少女に取っては夢のような憧憬の対象だった。
大魔導師アンリエッタは白い髪をいじりながら無言でいた。
「さて、何を作ろうかな」
「何を作りましょうか?」
ナギとセドナは食料庫の中で考えた。膨大な食材があると選択肢が多くかえって何を作るか悩む。
ナギはあちこち歩き回った。やがて、とある食材が目にとまった。小豆があったのだ。。
「よし! 今川焼きを作ろう……。いや、時間が掛かりすぎるか?」
ナギがそう言うとメニュー画面が開いた。
『お久しぶりです。罪劫王との戦いを経てレベルアップしまくったメニュー画面様です』
「自分に『様』をつけるな。あと罪劫王を倒したのは俺達だ」
『無視して話を進めます。私が相葉ナギ様の問題を解決しましょう』
「解決ってどうするつもりだ?」
『ずばり、時空間魔法で調理時間を操作します』
「本当か? 凄い!」
『凄いでしょう。相葉ナギ様の調理の時間のみを隔離空間とし、外界との時間を断絶。1000時間かかる料理でも、外の人から見たら3分になるという優れ物! どんな料理も3分です!』
「おお、それならどんな手間の掛かる料理でも出来る!」
『凄いでしょう?』
「おお、凄いぞ、メニュー画面様! それで、当然それは戦闘でも使えるよな? 時間を停止して敵を倒すとか出来るんだろ?」
『出来ませんよ。調理時間だけです』
「この役立たず!」
相葉ナギが怒鳴るとメニュー画面が消えた。
「……あの、大丈夫ですか? ナギ様?」
「ああ、大丈夫だ。……いや、大丈夫じゃないかもしれん。少し、手を握ってくれないか?」
「は、はい!」
セドナが嬉しそうにナギの手を両手で握る。
ナギは深々と溜息を出した。罪劫王との戦いよりもメニュー画面との会話の方が精神的な疲労が濃かった。
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