第101話 自省

 貴族の令息達の剣がナギに触れることはなかった。ナギは恐るべき速度と練達した武芸の足運びで、攻撃を見切って躱した。そして、拳で令息達を殴りつける。

 一撃で令息達の肋骨をへし折り、関節を決めて腕の骨や関節をへし折る。令息達は痛みに絶叫した。わずか五秒で十数人の令息達が顔面、肋骨、胸骨を骨折して地面にくずおれる。


「に、逃げろ!」

「化物だ!」

 

ナギは逃げる令息達に魔弾を投げつけて吹き飛ばした。背中から魔弾を打ち付けられ、令息達が地面に転げ回る。

 悲鳴と絶叫が練兵場に木霊する。 

わずか二十秒程で、五十余人を打ち倒すとナギは、マルクス・ウィスタリオンの側に歩み寄った。

 マルクスは鼻骨を骨折していた。尻餅をついたまま後退る。ナギのあまりの強さに恐怖し、全身が痙攣したかのように震えていた。


「マルクス・ウィスタリオン」

 

 ナギが静かにマルクスの名を告げた。マルクスはびくりと身体を震わす。


「これ以降は騎士の本分は何たるかを考えて生きていけ。これで反省して性分を変えられないなら、お前はそれまでの男だ」


「お、俺を殺すつもりか!」

 

マルクスが顔全体に恐怖を浮かべながら叫ぶ。


「殺しはしない。俺が求めているのはお前の自省だよ」

 

 ナギは優しげな声音で言った。そして、マルクスの顔に手をかざす。マルクスが恐怖に怯え目を閉じる。刹那白い光がマルクスをおおった。「え?」

 マルクスが目を開け、折れた鼻を触る。ナギに折られた鼻骨が完治していた。


「セドナ、アンリエッタ、こいつらを回復してやってくれ。俺は治癒魔法が不得手だからな」

「はい」

「……お人好し……」

 

 セドナは快諾し、アンリエッタは肩を竦めると令息達の治療を行った。マルクスは項垂れて身動き出来なくなった。絶望的なまでの敗北感で呼吸すら出来ない。マルクスは生まれて初めて、自害したい程の羞恥というものを知った。

   


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