第100話 躾け
「小僧!」
マルクスが大剣を手にしてナギに近づく。
「何かな?」
ナギが肩を竦める。
「我ら貴族の誇りを汚した報いをくれてやる。選べ! 土下座して俺の靴を舐めれば両腕をへし折るだけで許してやろう!」
マルクスはナギから視線を切ると、セドナとアンリエッタに視線を投じ卑しい笑みを浮かべた。
「そこの女二人はこの場で裸になって踊れ! そうすれば……」
マルクスが言い終わる前に、ナギの右拳がマルクスの顔面にめり込んだ。爆発的な衝撃が空間に弾けた。マルクスと同時に取り巻き十数人が後方に吹き飛ばされる。
取り巻き達は唖然として硬直した。何が起こったのかすらも理解できない。全身(フルプレート)鋼鎧(メイル)を身につけたマルクスと十数名の仲間が二十メートル以上も吹き飛ばされて地面に転がっている。 取り巻き達は全員、地面に倒れたマルクスを見つめ、やがてゆっくりとナギに視線を戻した。
「お前らは少し人の痛みを知った方が良い」
ナギは吐息を漏らして、首をふった。
「セドナ、アンリエッタ、今からこいつらを少し躾ける。だが、後遺症が残ると可哀想だ。回復魔法で怪我を治してやってくれ」
「分かりました。必ず完治させます」
「……治さなくていい……」
セドナは端麗な顔に微笑を浮かべ、アンリエッタは不服そうに頬を膨らませた。そして、セドナとアンリエッタは後方に下がる。
貴族の子息達は後ずさった。ナギという黒髪黒瞳の少年の発する魔力と闘気に気圧されて震えが止まらない。
「これからお前ら一人一人の骨を折っていく」
ナギが静かに宣言した。怒りのない淡々とした声が威圧感を倍増させる。
「お前らは軽々しく、『骨を折る』だとか、『殴る』だとか言っていたが、それがどれだけの苦痛かを身をもって知れ。理解したら今後、二度と愚かなことをするな」
ナギが、一歩踏み出した。黒を基調として白で装飾されたローブを纏ったナギがわずかに動く。それだけで巨竜が動き出したような恐怖が取り巻き達に襲いかかる。
「うわアアアア!」
「こ、殺せ! こいつを殺せ!」
貴族の子息達はパニックを起こした。三十余人が剣を握りしめてナギに襲いかかった。
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