第97話 フォアグラのサラダ

さて、朝食でも作るか、と俺が提案するとセドナは嬉しそうに、


「はい」


と答えた。


俺とセドナは王城の厨房に向かう。

何があってもなくても毎日食事をしなくてはならない。人間の変わらぬ本質だ。


「何を食べようかな~」

「何に致しましょうか?」

 

俺とセドナはウキウキしながら考える。罪劫王達との死闘が一段落したので、何というかこういう日常的なことがたまらなく楽しい。食事を作るという些細なことなのにワクワクする。平和って良いな、と思う。

 

俺とセドナは暫く何を作るか黙考した。


「セドナは何が食べたい?」

「私に意見はありません。ナギ様のお望みのままに……」

 

俺は肩を竦めた。


「セドナ、二人で作って、二人で食べるんだからセドナも食べたいものを考えなさい」

 

セドナは俺に全ての判断を委ねてしまうところがある。それはよくない。少しづつセドナの意識を改革して主体性をもってもらうようにしないと。

 セドナは少し困ったように首を傾げる。


「じゃあ、どんな感じのものが食べたい?」

「……え~とですね。……朝ですから、食べやすいものが良いです。それと野菜が食べたいです」

 

うん。ちゃんと主体性を発揮したな。俺は微笑すると、


「じゃあ、フレンチトーストとサラダにしよう」

「はい。ナギ様のお望みのままに」

 

セドナが心から嬉しそうな顔をする一方で俺は首を傾げた。あれ? 主体性が薄いかな? 教育って難しい……。


ま、取り敢えず作るか。

俺とセドナは食料庫で食材を取り出すと厨房に戻る。王城の厨房は流石に綺麗で、調理道具の一級品ばかりなので料理するのも気持ちが良い。お金持ちになったらこんな厨房がいつか欲しいな。

 

俺とセドナはボウルに卵、牛乳、砂糖、塩を入れてかき混ぜる。その後、パンを手頃なサイズに切ってボウルに入れて浸す。

 

その後、フライパンにオリーブオイルを入れ、パンを並べて火を付けると蓋をした。

 

五分程すると焼き目がついたのでひっくり返してバターを入れる。そして、更に五分後、焼き目がついたので完成した。

 

俺がフレンチトーストを作っている間、サラダをセドナが作ってくれた。出来上がった料理と食器、それにジュースを俺の宝物庫(アイテム・ボックス)に保存して自室に持ち帰った。


宝物庫(アイテム・ボックス)に入れたものは時間凍結してあるので、温かいものは温かいまま冷たいものは冷たいままなので凄い便利だ。

 部屋に戻るとテーブルに食事を並べる。うん。うまそう。


「美味しそうです~」

 

セドナが幸福そうな表情をつくる。


「セドナは盛り付けが上手いな」

 

と俺はセドナが作ったサラダを褒めた。セドナは「そんなことはございません」、と照れていたが、非常に綺麗な見た目をしている。

 

一流のフレンチレストランの匠の技のように綺麗だ。スマフォがあったらインスタグラムにのせたいくらいだ。


「このサラダの上に乗ってるのはなんだ?」

「フォアグラです」

「フォアグラ? フォアグラがあったの?」

 

俺は驚いた声を上げた。


「はい。食料庫に沢山あったので頂いて乗せました」

 

セドナが胸をはる。耳がウサギのようにピコピコと上下する。褒めて欲しい時のサインだ。


「よく見つけてくれた! 大手柄だ!」

 

俺はパンと両手を打ち付けてセドナを褒めた。セドナが嬉しそうに頬を染める。


「じゃあ、早速頂こう!」

「はい」

 

俺はフレンチトーストを一口囓った。美味い。自分で作っておいて自画自賛するのもなんだか最高の出来だ。今まで作ったフレンチトーストの中では文句なしのベスト。


甘く柔らかいパンの食感と卵と砂糖の感触。少し硬めの砂糖の食感が歯にあたり同時に甘さが口内に広がっていく。

 カリカリとした食感とふんわり柔らかい絶妙のバランス。朝だが胃にもたれず優しい味わいだ。


「美味しいです……」

 

セドナが感嘆して言う。


「ただのパンがこんなに美味しくなるなんて、さすがナギ様です」

 

セドナに心底から尊敬されてなんだか気恥ずかしい。


「ただのフレンチトーストだよ。褒められると照れる」

「いいえ。ナギ様のだからこそ美味しいのです!」

 

セドナが心から言ってくれる。俺は照れながらフレンチトーストを咀嚼し、ジュースを飲んだ。

 さて、セドナのサラダを頂こうか。

 

俺はセドナが作ったサラダを見る。美しい盛り付けだ。芸術品のようだ。高価な円形の皿の上に野菜が配置されている。

 

プチトマト。ナス。キャベツが綺麗に切られて盛り付けてある。中央部にフォアグラが上品にスライスして乗せてある。セドナのセンスの良さだろう。配置が絶妙で見た目に気品がある。

 一流フレンチレストランのシェフなみの腕前だ。


「綺麗だな。セドナのセンスは凄いな」

 

俺が感心するとセドナはモジモジとして、


「そんなことはありません……。ナギ様の薫陶の賜物です」

 

と細長い耳を真っ赤にした。


「俺の薫陶なんてないよ。セドナ、長所は自覚して伸ばしていきなさい。セドナのセンスは最高だ。見てるだけで美味しそうで美しい料理を作れる女の子なんて素敵だよ」

 

俺はお兄さんらしくセドナに告げる。


「は、う。……はわわ~」

 

セドナは両手を頬に当てて林檎のように赤くなった。耳がピコピコと激しく上下する。ウサギみたいで可愛い。撫でたくなる。

 

俺は微笑しながらセドナの作ったサラダを食べた。美味い。フォアグラとトマトの味が混ざり合う。濃厚なフォアグラの味が舌で踊る。


芳醇な匂いとフォアグラの旨味が口内で溶ける。トマトのプチリとした新鮮な食感が混ざりフォアグラの味を引き立てる。食べやすくスライスしたフォアグラを野菜と一緒に食べ、フレンチトーストを囓る。

 

うん。よく合う。フレンチトーストとフォアグラのサラダはこんなに

相性が良いとは思わなかった。セドナもドンドン食べている。


「美味いな」

「はい。とても」

 

セドナが笑顔で答える。

ジュース(酒は一滴も含まれていない)を飲みつつ、俺達は優雅な朝食を楽しんだ。

  


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