第96話 子供は五人

「あと……その……私は子供が五人欲しいです」

 

セドナが頬を染め、長く尖った耳まで真っ赤になった。両手に頬をあててナギを横目で見る。


「子供か……」

 

子供は好きだ。昔から何故か子供には好かれるタイプだった。しかし、なんだか現実感がない。セドナのような十歳の子供が、「子供が欲しい」と言ってもなんだかオママゴトに聞こえる。可愛いけど。


「? ナギ様、今心の中で何か仰いましたか?」


「心を読んだのか?」


怖い!

 

俺が驚くとセドナが不思議そうに首を傾げた。


「ええと、取り敢えずですね。最初は男の子が良いです。ナギ様のような美しい黒髪に黒瑪瑙の瞳をした世界一の美男子で、世界一強く聡明で偉大なナギ様のような男に育て上げます」

 

ハードルが上がっている! いつから俺は世界一の美男子になった? セドナは目が悪いのか?


「その次は女の子が三人欲しいです。私に似た子だと、とっても嬉しいです」


「まあ、セドナに似た女の子なら、世界一の美少女になるだろうな。まあ、セドナもいるから母親を含めて美少女が四人になるわけか……」


俺は脳裏でセドナに似た三人の美少女を想像した。母親と並ぶと圧巻だ。美し過ぎて見ると目が潰れるかもしれん。


「あ……う……」

 

セドナがモジモジを身体をくねらせ、両手を細い太股の間に入れた。


「セドナ、大丈夫か? 林檎みたいに真っ赤だぞ?」


「ら……らい丈夫れす!」

 

 噛んだ。可愛い。でも大丈夫ではない気がする。


「す、すこひ、待ってくらはい……」

 

セドナはそういうと小さく膨らんだ胸に手を当てて深呼吸をした。今、セドナは薄い上着と短パン姿なので肌の露出が多く、深呼吸するたびに小さな胸と美しい脚線美が振動して悩ましい。


「し、失礼しました。それで、最後に私とナギ様を半分掛け合わせたような男の子が欲しいです。私の銀髪に、ナギ様の黒瑪瑙の瞳が欲しいです」 


「銀髪に黒瞳の少年か。カッコイイな」

 

それはカッコイイなと素直に俺は思った。日本ならばモテモテだろう。ハーフの子供は好かれるからな。


「はい。凄くカッコイイ子になります!」

 

セドナが誇らしげな笑みを浮かべる。


「それとナギ様。私は五人子供を産んでも外見が崩れたりしませんのでご安心下さい」


「? それはどういうこと?」


「出産すると人間の女性は体型が崩れたり急に老化したりしますが、私はシルヴァン・エルフです

ので不老です。死ぬまで二十歳前後の外見と体形を維持できます」


「ああ、そうか。セドナはシルヴァン・エルフだったね」


「はい。ナギ様に褒めて頂いたので外見を維持するように努力します。ナギ様に喜んで頂けるように!」


俺は気負うセドナに苦笑を返した。


「でも、俺はセドナよりも早く老化するよ?」

 

俺が言うとセドナは首をふった。


「私はナギ様の外見に恋したのではありません。魂に恋をしたのです。初めて会った時、醜い怪物の姿をしていた私に優しくして下さいました。

 だからこそ、私はナギ様に仕えよう、永遠に一緒にいようと心に決めたのです。私はナギ様がどんなに年老いても、永遠に奉仕し、愛し続け、お慕い申し上げます」

 

セドナが黄金の瞳が美しく輝いた。俺はごくりと唾を飲み込み、照れて横を向きながら呟いた。


「……あ、ありがとう」

 

セドナは無言で俺の膝に手を置いた。


なんだかドキドキが止まらない。セドナは俺の膝の上に手をおいて、優しい微笑を向けてくれている。ああ、頼もしいな……。

 

いや、ちょっと待てよ。これは男がすることなのでは? 恋愛経験がないからよく分からん。


「ところでナギ様……」

 

セドナが黄金の瞳に羞恥の色を讃えて俺を見た。


「なんだい?」


「その……今夜、子作り致しませんか?」

 

セドナの爆弾発言に俺は仰け反った。心臓が爆発しそうになる。


「こ、子作り?」


「はい」

 

セドナが俺に顔を近づけた。小さく精巧な、女神さえも超える美貌が俺の鼻先に迫る。


「こ、こ、今夜?」


「はい」

 

セドナは恥ずかしそうにしながらも、しっかりと答えた。

 

俺の思考回路がショートした。セドナが俺の手を握りしめた。あまりのことに言葉が出てこない。


「私はしっかりと子作りをします。初めてですが、ちゃんとさせて頂きます。ダメでしょうか?」

 

セドナの長い銀髪がさらりと流れた。銀の滝のような光を輝かせて広がる髪。セドナの全身が神々しい銀色の光に包まれる。


「あ、あああ……あの……」

 

俺は呻き声のような情けない声を出した。まさかセドナが子作りなんて言うとは思っていなかった。

 

俺が固まっていると、セドナが両手で俺の手を包みながら膝をにじり寄せる。


「大丈夫です。私はやり方をちゃんと知っていますから。ナギ様にご迷惑はかけません」

 

セドナが艶麗な顔をした。こんな色っぽいセドナは初めて見た。

 

セドナの膝が俺の膝に触れる。セドナの柔らかい手の感触。そして、甘い匂い。全てが俺の脳を麻痺させる。

「や、やり方って……」


「はい。昔、本で読みました。子供を作るには二人で一緒のベッドで眠り、眠る前に『子供を授かりますように』と出産の女神アリアドネ様にお祈りするのです」

 

俺は心中でふと首を傾げた。


「お祈り?」


「はい。お祈りです。子供は女神アリアドネ様が下さるもの。ですから眠る前にお祈りすれば良いのです。そうすると風に乗せて女神アリアドネ様が空から、私達の赤ちゃんを運んできてくれます」


「…………」


「どうかなさいましたか、ナギ様?」


「セドナ、昔読んだ本って何歳くらいの時の本?」


「あれは確か五歳の時です。レイヴィア様が下さいました」


セドナが心持ち自慢気に言う。


「……祈ると女神様が赤ちゃんをくれるの?」


「その通りです」


セドナが純真無垢な笑顔を咲かせた。美しい曇りのない顔を見て、俺は肩を落とした。


「そうか。そして女神様が赤ちゃんを運んでくれるのか……」


コウノトリが赤ちゃんを運んでくるという絵本を俺も地球で呼んだ記憶があります。


「はい。いつ運んで来てくれるのかは、私達の善行次第です」

 

セドナが俺を握る手に力を込めた。一緒に頑張りましょうと言外に思いを込めてきている。

俺は微笑した。


「どうかなさいましたか、ナギ様?」

 

セドナが銀鈴の声で問う。


「いや、何でもない……。じゃあ、今晩は一緒に祈りながら寝ようか?」


「はい!」 

 

セドナが弾けるような笑顔を浮かべる。俺は異世界で一番美しい少女の笑顔を見ながら、セドナはずっとこのままでいて欲しいと心から思った。

    

 





 






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