第85話 カツ丼
ナギとセドナは倉庫内から食材を持ち出すと厨房に戻った。
ナギとセドナはまず白米を炊き出した。一時間後、白米が炊き上がるとナギは豚肉を切り分け始めた。
ナギが作っているのはカツ丼である。
洋食ばかりで飽き飽きしていたので、カツ丼を食べれるかと思うと嬉しくて堪らない。鼻歌を唄いながら手早く料理していく。
包丁で豚肉の筋を切る。そして塩とコショウで下味をつける。
薄力粉をつけて、卵をつけ、パン粉をつける。すぐさまフライパンに油を熱して、中火で焼き上げ、薄力粉、卵、パン粉をつける作業を繰り返しつつ揚げ焼きしていく。
ナギはプロの料理人顔負けの手際で豚肉を焼き上げる。
同時にセドナがタマネギを繊維に沿って薄切りにする。
「ナギ様、タマネギ終わりました」
セドナが溌剌とした声で言う。
「うん」
ナギはセドナからタマネギをもらうと、フライパンに豚肉、タマネギ、と材料の全てを入れて、特性のタレを入れる。
タマネギが柔らかくなると卵を入れる。五分後、絶妙のタイミングでフライパンから具材を取り出して、炊きたてのご飯の上にのせた。
完成すると丼に似た食器と箸を借りて部屋に戻った。
豪奢な室内のテーブルの上にカツ丼が置かれた。
セドナは興味津々でカツ丼に見入った。長い耳がウサギのようにピクピクと動いている。
「ナギ様、これは何という料理ですか?」
「これはカツ丼って言うんだ。俺の祖国日本でこれが嫌いな人間はいないっていう位人気のある料理だ」
ナギは胸を反らす。素朴な愛国心がナギの胸を満たす。
「美味しそうです……」
セドナは心から言った。
「さあ、食べよう」
「はい!」
ナギが器用に割り箸を割り、セドナがナギを真似てやや不器用に割り箸を割る。
セドナはカツ丼を少しだけ口に含み、そして噛む。
(美味しい……)
セドナの美貌が驚愕に彩られた。口に含んだ豚肉を噛むと衣から肉汁とタレが溢れる。それが白米と混ざり合う。上質な豚肉と揚げた衣と白米の食感が口内でとろけていく。
(凄い……)
シンプルなのになんと味わい深いのだろう。白米とタレだけでも美味しいのに、衣のある豚肉と混ざると重厚さと繊細さが溶け合う。
(ダメ、止まらない……)
ナギという愛しい男性の眼前である。なるべく上品に少量ずつ食べようとするがどうしても止まらない。ついつい食べるペースが上がっていく。まるで麻薬みたい。何らかの魔法でも使っているでしょうか?
気がつくとセドナは半分ほど平らげていた。それでも止まらない。
不器用に箸を使ってかきこむ。
対面にいるナギも豪快にカツ丼をかきこんでいた。
殆ど飲むように食べる。
(美味い!)
とナギは心中で叫んだ。白米最高! 欧米食なんざクソ食らえ!
と日本人としての郷土愛を胸中で炸裂させる。白米を食べるだけで涙が出そうな程嬉しい。これ程に白米に飢えていたのか、と自分でも驚いていた。もしかしたら、日本人は遺伝子に白米が刻みつけられているのかも知れない。
セドナはカツ丼を二杯食べ、ナギは四杯食った。
食べ終わった後、二人は暫し恍惚とした。美味しい食事を味わった時に感じる多幸感が二人の全身を満たす。
だが、なんとなくまだ足りない。二人とも《食神の御子》の影響で、食べる量が増えてしまっていた。もう少し食べないと腹八分目にすらならない。
ナギとセドナの視線が合う。
ナギとセドナは数秒無言で目で語り合った後、口を開いた。
「……なんかデザートでも作ろうか?」
「はい」
ナギとセドナは同時に苦笑した。
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