第83話 しばし戦士の休息を




 罪劫王バアルを倒し、魔神軍を殲滅してから二十時間後。

ヘルベティア王国の王都アリアドネ。その王城のとある一室。


 ナギとセドナは王城の中にある一際豪奢で広い部屋にいた。ヘルベティア王国の国王イシュトヴァーン王の好意であてがわれた部屋だが、あまりに豪華すぎてナギはかえって落ち着かなかった。


 ホワイトハウスの客室を規模を五倍。豪華絢爛さを十倍にしたような部屋で、調度品の全てに金銀宝石が嵌め込まれている。


「ナギ様、凄いですね。鏡台に備え付けてあった櫛にダイヤモンドが嵌め込んであります」

 

 セドナがダイヤモンド付きの櫛を手に持ちながら苦笑した。さすがにものに動じないセドナも櫛にダイヤモンドというのは少し呆れる。


「天井のシャンデリアはともかく、天井にルビーやサファイヤが埋め込まれているのは意味があるのかな?」

 

 ナギは肩を竦めた。天井が星屑のように光っているが、それらは全部宝玉である。目がチカチカして痛い。


「まっ、国賓待遇らしいから有り難く宿泊させて貰おうか。何せ激戦で疲れてるし……」

「はい」

 

 ナギがベッドに座るとセドナは美しい銀髪を櫛で梳き始めた。櫛で梳く度にセドナの美しい髪が銀の粉をまぶしたように光り輝く。

 ナギは暫し、セドナの夢幻的な美しさに見惚れ、やがてメニュー画面を呼び出した。


「メニュー画面」


『なんでしょうか? ナギ様』


 メニュー画面の美しい女性の声が脳内に響く。


「罪劫王バアルやら、数万の魔物やらを倒したけど、今の僕のレベルは?」

『ステータスを表示します』

 

 メニュー画面が答えるとナギの脳内にステータスが表示された。


【相葉ナギのステータス】


名前:相葉ナギ

種族:神族

年齢:17歳。

性別:男性

レベル:99

物理攻撃力 :58300

物理防御力:34000

速度:78000

魔法攻撃力 :225900

魔法防御力:176500

魔力容量:無限に等しいため計測不可能。


守護神:女神ケレス

大神オーディン

守護精霊:大精霊レイヴィア

恩寵スキル:

《食神(ケレスニアン)の御子》:レベル『SSSクラス』

《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》:レベル『SSSクラス』

《眷臣(けんしん)の盟約(めいやく)》:レベル『S』クラス  

《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》


戦闘時に、《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》を使用した場合のステータス。

物理攻撃力 :668000

物理防御力:859000    

速度:28800

魔法攻撃力 :3350000

魔法防御力:92350000


戦闘時に《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を使用した場合のステータス。

物理攻撃力 :8980000

物理防御力:3445000    

速度:168000000

魔法攻撃力 :89000000

魔法防御力:2350000




『相葉ナギの称号:食神の御子

冥王の使者

         女神の使徒

         愛し子セドナの揺り籠

星の守護者

精霊の担い手 

豊穣の料理人

         軍神の寵児   

英雄の末裔

光をもたらす者

鍵の行使者 』




「おお、凄いなレベル99か」

 

 ナギは嬉しそうな声を出した。


『おめでとうございます』


 メニュー画面が言祝ぐ。


「うん、ありがとう。ちなみにレベル99が上限で、これで打ち止めかな?」

『いいえ、レベルの上限はありませんのでいくらでもレベルアップできます』

「ふむ……」

 

 ナギは自分のステータスを黒瑪瑙の瞳に映して確認していく。


「《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》と《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》では、使用時にやはり違いがあるんだな……」

 

 女神ケレスの恩寵冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)で戦闘をした場合は、防御力が攻撃力を上回って向上する。

 逆に《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》を使用して戦闘した場合は、攻撃力と速度が劇的に上がる。

 つまり、《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》の場合は防御力重視。《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》の場合は速度と攻撃力重視の戦闘タイプになる。


「敵との相性や状況に合わせて使い分けないとな」


『はい。ナギ様はその点、戦闘における状況把握は抜群のセンスがあるからうまく使い分けが出来ると愚考します』


「褒められると照れるな……」

 

 ナギは頬を指でかくと、鏡台で髪を梳いているセドナの背中を見た。


「セドナのステータスも見たい」


『近くにお呼び下さい』


「分かった。……セドナ」


「はい、ナギ様」

 

 鏡台に座るセドナが肩越しに振り返る。


「ちょっと近くに来てくれるかい?」

「はい!」

 

 セドナが勢いよく立ち上がり、ナギの側に行く。そしてナギの隣に座るとナギに抱きついた。


「……セドナ?」

 

 ナギは自分を抱きしめてる銀髪の美少女に視線を投じた。


「なんでしょうか、ナギ様? あっ、もっと近い方がよろしいですか?」

 

 セドナがナギの胸にその端麗きわまりない小さな顔を押しつけた。ナギの胸にセドナの息があたり胸が熱くなる。

「近くに来て」と言ったのはナギである。まあ、確かに近い。お願いした通りだ。しかし、セドナの呼吸が胸にあたってこそばゆい。なんだか変な気持ちになってくる。


「……メニュー画面、セドナのステータス。略式で、戦闘の数字だけが分かれば良い」 


『はいはい』

 

 メニュー画面の声とともに文字と数字が浮かぶ。


名前:セドナ

種族:シルヴァン・エルフ

年齢:10歳

性別:女性

レベル:78

物理攻撃力 :25000

物理防御力:16000

速度:18000

魔法攻撃力 :36800

魔法防御力:89500

魔力容量:678000 




「レベル78か……」


 随分とレベルアップしたな、とナギは思った。まあ、罪劫王を倒して、魔神軍数万を鏖殺したのだ。このぐらいのレベルアップは当然か。


(メニュー画面、ありがとう)


『どう致しまして、また何かありましたらお呼び下さい』

 

 メニュー画面が消えた。


(随分と強くなったな)

 

 ナギは豪華なベッドに腰掛けながら思う。強さを実感できる。これ程楽しいことはない。武道家の端くれとして、己の強さを自覚できるのは至福である。だが、状況が強くなって嬉しいという単純な感慨を許さない。

 あまりに多くのことがありすぎた。

 王都アリアドネを包囲した魔神軍十五万を鏖殺した。罪劫王5人を倒した。それは良い。

 だが罪劫王バアルのあの言葉……。


「お前は女神ケレスに騙されたんだ。『偶然、次元震で死亡した?』 そんな偶然があるものかよ! 

 お前の祖父・相葉円心はこの世界の英雄だった。だから、お前が召喚されたんだ!」

 

 罪劫王バアルの言葉が脳裏に響く。直感でしかないが、あいつの言葉が嘘とは思えない。ならば真実を知る必要がある。

 自分のことだけではない。セドナのこともある……。


「面倒だな……」

 

 ナギは呟いた。ゲームなら、こんなことで悩まない。敵を倒して、レベルアップする。そしてラスボスを倒す。単純明快だ。こんな複雑なことを考える必要もない。だが、現実となるとそうはいかない。

 ナギが憂悶するとセドナがナギの胸から顔を離した。そして、その芸術美の極地のような美しい小さな顔をナギにむける。


「悩み事ですか? ナギ様?」

「うん。よく分かったね。セドナは聡いな」

 

 ナギは心から言った。


「はい。私はナギ様のことなら何でも分かります」

 

 黄金の瞳の少女は力強く断言した。

 ふとナギは笑みをもらした。


「俺のことなら何でも分かるのか。なら、俺はどうするべきだと思う?」

 

 ナギが黒瑪瑙の瞳に苦笑を浮かべる。


「では申し上げます。まずはゆっくりお風呂に入りましょう。そして一日ほどダラダラとのんびり過ごしましょう。ナギ様は疲れておいでです。 今のままでは失礼ながら何を考えても良案はでません。戦争が終わってまだ二十時間しかたっていないのです。ゆっくりと心身の疲れを癒やすことが大事だと思います」

 

 十歳の少女は銀鈴の声音で諭すように言った。

ナギは十センチ先にあるセドナの小さな美貌を見ながら、驚きの色を黒瞳に浮かべた。やがてナギは感心した表情を浮かべる。


「そうだな。セドナの言うとおりだ。……心身の疲れを癒やさないとな……」


「はい。ナギ様の体が凄く硬くなっています。疲労が取れておられません」

 

 セドナがナギの肩、胸、腹の筋肉を触りながら言う。


「……俺に抱きついて、俺の筋肉の強張りを確認していたのか?」


「はい」

 

 黄金の瞳の少女がコクリと頷く。

 大したもんだ……、とナギはセドナの機知に感嘆した。


「取り敢えず、お風呂に入りましょうナギ様。私がお身体を洗いますので」 

「うん、そうだな」


「それとナギ様」

「なんだい?」

 

 ナギが問う。


「罪劫王と魔神軍を倒したナギ様……。もの凄くかっこよかったです。素敵でした」

 

 セドナが陶磁器のような頬を染め、ナギの手を握った。


「たいしたことないよ」


 ナギは照れて頬をかく。


「いいえ! ナギ様は世界一カッコイイです!」

 

 セドナはナギの手を強く握りしめた。


「ありがとう」

 

 ナギはセドナの銀髪を撫でた。セドナは子猫のように目を細めてナギの手の感触を楽しむ。その後ナギとセドナは立ち上がり風呂場に向かった。



 


 


  

   

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