第60話 軍神の使徒

突如の神力の増大にダンタリオンは後方に飛んで警戒する。


ナギの身体から雷が放出した。いや、ナギの身体そのものが、雷とかした。


『《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》の恩寵により、貴方は雷の神霊と融合しました。雷と同じく、秒速200kmを超える速度を出すことが可能です。また雷の神霊と融合し、全身の細胞が雷と化すため、敵からのダメージを無効化しやすくなります』


メニュー画面の説明と同時にナギは理解、猛然とダンタリオンに襲いかかった。


雷とかしたナギの身体が放電し、秒速200キロの速度でダンタリオンに突撃する。


神剣・〈斬華〉さえも雷の神霊と融合して雷撃の属性を帯びる。


袈裟切りに振り下ろされた〈斬華〉がダンタリオンの胸部を切り裂いた。


「ぬう!」


ダンタリオンが叫ぶ。何が起こったのかさえもダンタリオンには理解できない。突如として、雷光とかした相葉ナギの姿を視認しようとして驚嘆する。ダンタリオンは相葉ナギの肉体の動きを目で捉えることさえできない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


ダンタリオンは絶叫した。ナギの放つ斬撃がダンタリオンを切り刻む。

数百の全方向からの斬撃が、ダンタリオンの腕、足、頭、胴体を斬り飛ばす。ダンタリオンの首が2つともはね飛ばされ、床に転がる。


ダンタリオンが50数個の肉片とかした時、ナギの《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》が消えた。


雷の神霊との融合が消え、ナギは実体を持った肉体に戻り、地面に両膝をつく。


「勝った……」


ナギは安堵して独語した。


身体がもう動かない。全身がだるい。だが、勝った。ダンタリオンは50数個の肉片とかした。


(確実に殺した……)


そうナギが思った直後、ダンタリオンの首の1つが動き出した。ナギは驚愕して震えた。


ナギの目の前でダンタリオンの肉片が動き、集まり、アメーバのように素早く融合していく。そしてダンタリオンの肉体は3秒後に、元の形に復元した。


「……そんな……」


ナギは絶望的な声を出した。


ダンタリオンは元の肉体。身長2メートルの鎧姿の巨人に戻った。何処にも傷がついていない。


「見事だ。相葉ナギ」


ダンタリオンが不気味な声を出した。


「剣技においても、戦闘力においても吾輩の上であったな」


ダンタリオンは素直に相葉ナギを賞賛した。もし、自分にこのアメーバのごとき回復能力がなければ敗北していただろう。


「どうだ。相葉ナギよ。まだ戦えるか?」


ダンタリオンが、床に両膝をつくナギを見下ろす。


ナギは立ち上がろうとした。だが失敗して、膝と左手を地面につける。


「そうか……。残念だ……」


ダンタリオンは、大剣を上段に構えた。数瞬後、その大剣が自分の身体を真っ二つに両断することをナギは確信した。


(ダメだ。終わりだ……)


ナギが絶望した刹那、メニュー画面が開いた。


『大神オーディンの神器。グングニルを発動します』


直後、ナギの左手に光が弾けた。ナギは無意識にその光をダンタリオンに対して伸ばした。


無意識だった。だが、それは津軽真刀流の武技に即していた。


槍を使う時、投げ槍の技術。下からすくい上げるようにして槍を放つ武器。〈掬い投げ〉。その武技を行使した刹那、轟音が炸裂し、ナギの聴覚を麻痺させた。


膨大な光がナギとダンタリオンの間に弾ける。


ダンタリオンの身体が後方に吹き飛んだ。巨大な槍がダンタリオンの胸を貫いている。そのままダンタリオンは2キロ先にある壁に激突した。


地響きのような音が弾け、壁に亀裂が走る。


「……なんだ。これは……」


ダンタリオンが、呻く。何が起きたのかすらダンタリオンには分からない。


自分の胸を貫く巨大な神槍。


ダンタリオンが神槍グングニルを抜こうとした刹那、電撃がダンタリオンの全身を焼いた。


一秒にも満たない時間で、ダンタリオンの肉体が電撃の業火で焼き尽くされる。そして灰すら残さずにダンタリオンの肉体が消滅した。


グングニルが、壁に縫い付けられたまま白い光を発して輝く。


「……え?」


あまりのことにナギは、茫然とした。


次の瞬間、ナギの左腕に激痛が走った。


「ぬう!」


左腕に焦げるような痛みが走り、メニュー画面が開く。


『神槍グングニルを使用した副作用です。三日ほど左腕が使用できません』


「また副作用かよ……」


『死ぬよりかはましでしょ?』


「ああ、仰るとおり、ありがと。メニュー画面……」


あの刹那、ダンタリオンが僅かに隙を見せた時でなければグングニルを命中させることは出来なかっただろう。


メニュー画面の機知に俺は救われた……。


ナギは薄く笑うと同時に気絶した。全ての体力と魔力を使い切ったのだ。





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