第59話 ダンタリオン

相葉ナギは、ダンジョンの最奥部にいた。


赤紫で壁も床も天井も統一された豪奢な部屋。


まるで、王城の謁見の間のようだ。


きざはしが奥にあり、その上には玉座あった。


そして玉座に異形の怪物が座っていた。


身長は2メートルほどで人間に似ており、赤黒い鎧兜を全身にまとっている。


赤黒い大剣を手にし、2つの頭部を有していた。


(剣鬼・ダンタリオン!)


ナギは〈斬華〉を構えた。


「よくぞ来たな。相葉ナギ」


ダンタリオンが大剣を手にして玉座から立ち上がった。


ナギは、自身の名前を知られていることに驚いた。


ダンタリオンが、一歩前に出る。その瞬間、圧倒的な闘気が吹き上がり、空間がゆれた。


ナギは押し潰されそうな圧迫感を受けた。


ダンタリオンが放出する闘気が、ナギの全身をナイフのように刺す。


(化け物め……)


ナギは晴眼に〈斬華〉を構えた。対峙しているだけで圧殺されそうだ。


「剣士相葉ナギよ。グシオン公爵を倒した手並み見事であった」

ダンタリオンが荘厳な声を出す。


「吾輩は剣士としてそなたに一対一の尋常なる勝負を挑む」


「剣士?」


ダンタリオンの吐く言葉にナギは虚を突かれた。


「吾輩にそなたの剣技を見せてみよ」


ダンタリオンが階を降りて、大剣をかまえた。やや上段の堂に入った剣士の構え。


(そうか。それで俺をここに転移させたのか……)


ナギは状況を理解した。ダンタリオンは剣士として対決するために俺をこの場所に転移させたのだ。


そうすると、ここはダンタリオンと俺だけだ。伏兵はいない。


それが幸運と言って良いかは分からないが……。


ダンタリオンが階の下に降り立った。そのままこちらの歩み寄る。


ナギとダンタリオンの距離が8メートルほどに狭まった。


すでに双方ともに刃圏に入っている。


(逃げる? 無理だ。闘うしかない!)


ナギは刹那に覚悟を決めた。神剣・〈斬華〉を晴眼に構えてダンタリオンに闘気をぶつける。


対峙は3秒ほどだった。


即座に双方が動き出した。


ダンタリオンの巨体が、疾風のような速度で動いた。


ダンタリオンが大剣を袈裟切りに放つ。それをナギは〈斬華〉で受け止めた。


圧倒的な衝撃がナギの全身を襲う。〈斬華〉が女神ケレスによって神剣になっていなければ刀ごと真っ二つにされていただろう。


ナギはダンタリオンの力量を即座に見抜いた。


(メニュー画面! 《冥王ケレスニアン使者マギス》を発動しろ!)


出し惜しみして勝てる相手ではない。


『《冥王ケレスニアン使者マギス》を発動しました!』


メニュー画面が叫ぶように言う。


ナギの神力が膨れあがり、戦闘力が増大する。


「それが、そなたの奥の手か? 見事だ。存分に闘おうぞ!」


ダンタリオンが愉悦に満ちた笑声を上げる。


ナギは神剣・〈斬華〉による斬撃の暴風を叩き込んだ。数十の斬撃が一秒に満たない時間で、ダンタリオンに襲いかかる。


ナギの放つ全ての斬撃をダンタリオンは防ぎ止め、受け流した。


(くそっ!)


ダンタリオンのもつ剣技は、ナギを瞠目させた。この世界にきて初めてあう正統的な剣術使い。しかも、その剣力は圧倒的だ。


「素晴らしいぞ。相葉ナギ。これほどの剣技を持つ者がいたとはな」

ダンタリオンが大剣でナギの斬撃を受けながら言う。


(ダメだ。足りない。剣技では俺が上だ。だが、力と速度が違いすぎる!)


相葉ナギとダンタリオン。双方の剣技を比べた場合、相葉ナギの方が数段上だった。


だが、身体能力が違いすぎる。ダンタリオンの身体能力は相葉ナギの数倍。これではどれほどの剣の技量があっても意味を成さない。


(メニュー画面! 力をくれ! 力が必要だ!)


ナギが心中で叫ぶ。


『これ以上の〈力〉を望むなら、《軍神オーディアンズ使徒マギス》しかありません。しかし、貴方の肉体は、この恩寵を使用した後に動かなくなります』


(構わない! 他に生き延びる道はない!)


『了解しました。《軍神オーディアンズ使徒マギス》を発動します』


ふいにナギの身体から閃光が弾けた。



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