第58話 強制転移
突如、第4層に轟音が響いた。
白い大理石の床に幾層もの積層型立体魔法陣が展開し、討伐軍を包み込む。
「……不覚……」
アンリエッタが悔恨の色を浮かべると同時に、大規模転移魔法陣が作動した。
アンリエッタでさえも事前の予期できぬほどの素早く、隠密性に満ちた発動だった。
刹那に討伐軍8000余名が、分散してダンジョンに転送された。
「ナギ様!」
セドナの声がナギの耳朶をうった。その刹那にナギの視界が変転した。
自分が、空間転移されたことに気付くのに、数秒をようした。
ナギだけではない。他の人間達も殆どが気付くことも出来ない間に、ダンジョンの各処に強制転移させられた。
討伐軍8000余名が、100以上に個別に分散され、大軍として数的優勢を失った。
勇者エヴァンゼリン、大魔道士アンリエッタ、槍聖クラウディア、相葉ナギ、セドナ。
彼らは全員が個別に転移され、彼らの加勢を得られなくなった戦士達は、モンスター達に包囲されて、なぶり殺しにされた。
◆◇◆◇
エヴァンゼリンは、転移された先の部屋を素早く視認した。
彼女が強制転移させられたのは、ダンジョンの最下層だった。だが彼女がそれを確認する術はない。
そこは正方形の空間だった。一辺は5キロほどもある。
やがて、空間の各処に黒い光球が浮かび、そこから悪魔とモンスターの大軍が出現した。
総数は一万を超えている。
モンスターの大軍を統率するラーフ伯爵が空中に滞空しながら、エヴァンゼリンを見下ろした。
「お初にお目にかかります。私はラーフと申します」
ラーフは慇懃無礼に頭を垂れた。
「さて、エヴァンゼリン様。問答は抜きと致しましょう。直裁に申し上げる。ここで死んで頂きます」
ラーフはカエルのような下劣な笑声をあげた。
「勿論、ただでは殺しません。貴方を拘束し、私の部下に輪姦させ、ありとあらゆる苦痛を与えて殺します。その姿を撮影し、貴女の陵辱劇と殺戮劇を全世界の人間どもに鑑賞させ、見せしめと致します」
ラーフは喜悦に瞳を歪ませた。
「大魔道士アンリエッタ、槍聖クラウディア、お二人にも同等の恥辱を与えます故、ご安心を。死に勝る屈辱と苦痛の中で私達魔神軍に逆らったことを後悔して下さい」
「安っぽいね」
エヴァンゼリンが、侮蔑に満ちた声を出した。
「ご指摘のとおり、安っぽく、凡庸な作戦でございます。ですが、効果的ですよ? 人間の女をいたぶり屈服させるにはこの方法が一番でございますからね」
「そうかい。だが、1つ礼を言っておくよ」
エヴァンゼリンの台詞にラーフ伯爵が、小首を傾げる。
「お礼とは?」
「お前達が、僕の前に出てきてくれたことさ」
エヴァンゼリンが、聖剣をかまえる。
「本当に感謝している。僕にとって最悪であり、お前達にとって最善だったのは、僕の前に姿を現さずに隠れていることさ。そうすれば少しは長生きできただろうに」
「……この軍勢が見えないのですか?」
ラーフ伯爵が、怒りを滲ませた。
「見えるさ。愚かだね。羽虫が群れをなせば、獅子に勝てるとでも思ったか?」
「虚勢を張るのがお上手ですな」
ラーフ伯爵が憎悪に顔を歪める。
「いいや、心から安堵しているよ。ダンジョンマスターであるダンタリオンの気配も概ね察知できた。お前らを皆殺しにした後で、すぐにダンタリオンを狩りに行く」
灰金色の髪の少女は自身の魔力を膨張させた。碧い魔力が蒸気のように彼女の細身の身体から吹き上がる。
「10分で、皆殺しだ」
エヴァンゼリンは、モンスターの大軍めがけて突撃した。
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