第45話 大祭
◇◆◆◇◆◇◆
【場所:ヘルベティア王国の古都ベルン】
【相葉ナギとセドナ】
◇◆◆◇◆◇◆
翌朝。午前10時32分。
女神アリアドネの大祭が開催され、古都ベルンは祭り一色に染まった。
空に魔法で花火が打ち上げられ陽光に反射して輝く。
着飾った人々が外に繰り出して、昼間から酒を飲み料理に舌鼓をうっている。
「おお、まさに祭りだ!」
相葉ナギは興奮した。日本の祭りと雰囲気がそっくり!
「ナギ様、嬉しそうですね」
セドナがクスリと笑った。
「もちろん、祭りは大好きだよ!」
ナギとセドナは街路を歩き出した。
大通りを進むと、屋台と人で埋め尽くされている。
「さて、何を食べようかな?」
ナギが、ソワソワとあたりを見渡す。
「ナギ様、なるべく安くて美味しいものに致しましょう」
「祭りの時くらい、値段を気にせず、奮発してもいいんじゃない?」
「それはよろしくありません」
セドナが指をたてた。
「お金は有限です。大事に使わないといけません。チョコチョコと散財すると、存外、大金を使ってしまうことがございます」
「うん。分かった……」
俺は感心して頷いた。偉いな、セドナは……。10歳なのに、こんなにしっかりしてるとは……。
「セドナは、いい奥さんになれそうだなぁ……」
「ふひぃっ」
セドナが尖った耳をピンとたてた。夢幻的な美貌が、林檎のように真っ赤に染まっていく。
セドナは俯き、やがて黄金の瞳を上目使いでおれにむけた。
「……あ、あの……、私、いい奥さんになれますでしょうか?」
「うん? もちろんなれるさ。セドナは可愛いし、しっかりしてるからね」
俺が褒めると、セドナは口元をゆるめ指をモニョつかせた。
俺は顎に手を当てた。
(セドナの結婚相手か……)
考えてみると兄である以上、セドナが大人になるまで面倒をみなければと覚悟していた。だが、結婚相手までは想定していなかった。
そうだよな。結婚相手も考えてやらないと。セドナの結婚相手か……。
なにせ俺の妹だ。あと5年もすれば惑星フォルセンティア一の美少女になるだろう。
贅沢は言わないし、高望みはしないが、地球での貨幣に換算して最悪でも年収5000万円程度。美男子で性格がよく文武両道で高潔にして実直、礼儀正しい人格者であって欲しい。
そして、最低条件として俺よりも強くできれば名門の出が良い。
そうだな、貴族、うん。セドナなら王族でも結婚したがる男は多いだろう。
いや、だが、王族に嫁ぐと、政権争いなどに巻き込まれる可能性があるな、危険かな?
となると……。案外、大商人の御曹司なんかがいいかもな……。
『脳内妄想中、失礼します。シスロリ兄さん』
メニュー画面が、綺麗な声を響かせた。
「なんだよ。シスロリって?」
『シスコン & ロリコンの略です』
「斬新な造語の悪口! 最悪! ところで何か用?」
『シスロリさんの脳内妄想が、キモイから邪魔しただけです。貴方と脳内が連結しているから、あんまり妄想を爆発させないで下さい』
「ほっとけ!」
『本当にほっときたくなりますよ。あと、その脳内妄想はセドナ嬢には言わないようにした方が、良いですよ? 結婚相手を物色しているなんて知ったらセドナ嬢が悲しみます』
「? なんでだ? 兄として妹の幸福を願って何が悪い?」
『……自分で考えて下さい。朴念仁……』
メニュー画面が呆れた声を残して消えた。
うわ、罵声よりも傷つく! 新しい攻撃方法を会得しやがった!
相葉ナギとセドナは大通りを外れた。ここも賑わっているが、大通りほどの混雑はない。
セドナが耳をピンと立てた。黄金の瞳が5メートル先の屋台に釘付けになる。
なんと屋台にタコスが売っていた。
その屋台の看板には『元祖タコス。惑星フォルセンティアで一番最初にタコスを作ったのは私のご先祖・リッキー・ゴンザレスです!』と書いてあった。
間違いなく『リッキー・ゴンザレス』は地球人の『来訪者』だ。
ところで、リッキー・ゴンザレスさんよ。タコス以外にもちゃんと地球の文化は伝えただろうな?
「セドナ、あれが食べたいんだろ?」
「え? あの……いえ、ナギ様のお好きなものが、私の好きなものでございます」
セドナが銀髪をふる。でも尖った耳がピンとたっているのを見ると食べたいのが分かる。うん。だんだん、セドナの本心が耳の動きで察知できるようになった。
「いいんだ。遠慮はいらない。我慢もしなくていい。それに確かにあれは旨そうだ」
俺はタコスを2つ買った。デカイ、安い。2つで500クローナだ。
日本の屋台のタコスの3倍はある。
俺とセドナは歩きながらタコスを食べた。
俺の口に白身魚のフライの味が広がった。それにキャベツ、コーン、レモン汁、塩コショウの味が混ざる。
あっさりとした味付け。だが、白身魚のフライの味がひきたつ。
うん。これは良い。あっさりとしていて味付けが薄いタコスって、存外美味しいんだな……。
俺は感心してしまった。
そうか、白身魚のフライの味をしっかりと堪能するには、味付けが薄い方がいいのか……。
これは勉強になる……。
セドナを見ると、モフモフと両手でタコスを持って、食べていた。
凄い早食いしている。よほど気に入ったんだろう。
うん。早食いしているセドナも可愛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます