第44話 夜想のローブ
俺とセドナは、宿屋に戻った。
そして数分、ぼんやり過ごした。
神様と会って疲れた。対人関係ならぬ、
俺は椅子にもたれ、セドナはベッドで仰向けになっていた。
こうして、ぼんやり過ごす時間は久しぶりかもしれない。
しかし、あまりに多くのことがありすぎて頭がパンクしそうだ。
少し整理をしておこう。
メニュー画面。
『はい、なんですか?』
「頭を整理したい。任せるから俺が把握すべきことをうまい具合に整理してくれ」
『……すげー、他力本願、ダメ人間の典型……』
「うるさい。自分に出来ないことを他人に任せるのは重要だ。武田信玄も徳川家康もナポレオンも、優秀な部下に任せるのが非常にうまかったから強かった、と爺ちゃんが言っていた。優秀なメニュー画面に任せます」
『おだてられても嬉しくありません』
「おだててはいない。メニュー画面さんは、本当に頭が良い。僕の100倍良い」
『しょうがないな~。頭の良い私が状況を整理してあげましょう』
メニュー画面がウキウキした声を出した。チョロイ、すごいチョロイ。メニュー画面が女の子だったら心配になるレベルだ。
『頭の良い、私、メニュー画面さんの情報整理~』
メニュー画面が、状況と情報を整頓した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1,オーディンから、もらったもの
【 恩寵スキル:《
【 《伝説級の神具》666個をもらう。 】
【 不老の肉体:魔神を倒すまでは肉体が老化しない。 】
2,オーディンと誓約した条件。
【 相葉ナギが、地球に帰還する条件:魔神を倒す。 】
【
3,女神ケレス様が、愛刀・〈斬華〉を神剣・〈斬華〉にしてくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん、分かり易い。単純化するとこんな感じだよな。
うん、うん。本当に分かり易い……。困った……。
冷静になってみると、魔神を倒すのが地球に帰還するための条件?
できるのそれ? 無理なんじゃない?
あの場の勢いとノリで、流れ的にそうなったけど俺は一般人だ。
どうしよう……。しかも『魔神』とか、『十二罪劫王』とか、名前がすでに怖い。
なんなの? 『十二罪劫王』って? 『十二罪劫王』って名前だけでスゲェ怖い!
『ノリノリでオーディンに「僕が倒します」的な感じで返事していたじゃないですか』
あれはノリです。訂正します。俺では無理そう。
『どっちみち魔神は人類、そしてエルフや、ドワーフのような亜人までをも皆殺しにするつもりです。人間である貴方には、魔神を殺すか、殺されるか、2つしか道はありません』
まあ、論理的に考えると、そうだけど……。やっぱ、怖い……。そもそも魔神軍って軍隊じゃん。軍隊相手に勝てるか?
『心配しないで下さい。そのためにも私がいるし、《
「おお、そうだった!」
俺は手を打った。《
『さすがにそんな都合のいいものはありませんが、神槍グングニル、神剣レーヴァテインなどは、レベルSSSクラスの神器。強大な力があります』
「やった! どのくらいすごい? 手にとって確かめてみたい」
『今の貴方のレベルだと、手に取っただけで、甚大な体力を消耗します。お勧めできません』
「手に取ることもできないのかよ。意味がないじゃん……」
『最適な時に私がサポートして使用させますからご安心を』
「あんまり信用できない……。じゃあ、《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》は、今、使用できる? どんな恩寵スキルなの?」
『あー、そうですか、女神ケレス様から《食神(ケレスニアン)の御子》を頂いているのに浮気ですか。これだから男は……』
「じゃかましい。ハキハキ答えろ」
『現状の貴方のレベルでは、使用するには負担が大きすぎます』
「どっちもダメかよ! 意味がないじゃん! もらった意味まったくないじゃん!」
チート能力もらっておいて使えないなんて聞いたことがねェよ!
『最適な時に私がサポートして使用させますからご安心を』
「……だから、あんまり信用できない……。なんか怖い……」
『まあ、軍神オーディンの恩寵スキルに、神器ですからね。巨大すぎて扱いが難しいのは当然です。楽して使いこなせるもんじゃありません。楽して強くなる方法がないのと同じです』
「俺は楽がしたい。すぐに強くなりたい。楽して簡単に強くなりたい。努力とか、苦しいのとか嫌です」
『……男が言っちゃいけない台詞を雨アラレのように言いましたね。逆に感心します……』
「だって魔神を倒さなくちゃいけないんだぞ? 長々と修行している時間があるかよ!」
平和な日本なら、武道の稽古に何年時間をかけても良いが、この世界は違う。
何年もかけて強くなるような時間があるわけがない。
モンスターが跋扈していて、魔神が人類を皆殺しにしようとして戦争をふっかけてきているんだ。戦争時に悠長にしてられるか!
『おお、相葉ナギらしくもない、論理的な言葉。貴方は、バカじゃない時もあるんですね』
「おい。バカじゃない時って何? 俺は常時バカだと思われてたのか?」
『取り敢えず、オーディンの神具の中で、現段階のレベルで使えるものを渡します』
メニュー画面がそう言うと、アイテムボックスから、ローブが出た。
美しいローブだった。
黒を基調として銀で装飾されている。
黒く光り輝くような色合い。神秘的ですらある。
セドナが、ベッドから跳ね起きて目を輝かせている。多分、俺の目も輝いている。
「……綺麗です」
セドナが、両手で口元をおさえた。
「うん、綺麗だ……」
俺はイソイソとローブを着込んだ。
「ナギ様! カッコイイです!」
セドナが、頬を紅潮させる。
俺も頬を紅潮させた。
うん、すごい……。俺の細身でしなやかな美しい体に合っている。
『ナルシスト発言は無視します』
「無視しないで寂しい」
俺の発言をメニュー画面は黙殺した。
__________________________________________
『オーディンの神具
《夜想のローブ》
レベルSクラス。
効果:斬撃、徒手を含めた物理攻撃、異能、魔法攻撃に対する衝撃の緩和』
____________________________________________
俺は《夜想のローブ》をご機嫌な心地で着て、その場に立った。
「素敵です。ナギ様」
セドナの褒め言葉が嬉しい。
『それではさようなら』
メニュー画面が消えた。
10分ほど俺は《夜想のローブ》を着たままモデルのようにポーズを決めたり、部屋の中を歩いたりして、セドナに褒めて貰った。
2人だけのファッションショーである。
ファッションショーが終わると、俺は椅子の背にもたれて溜息をついた。
憂鬱だ……。ハイの状態から鬱になりました。
「どうかなさいましたか? ナギ様?」
「いや、魔神を倒すとか……、俺にできるかな~って……」
「ナギ様なら出来ます」
セドナは断言した。一秒の迷いもなく言い切った。
俺は苦笑した。
「……どうして、そんな風に言い切れる?」
少々維持が悪い質問かもしれない。いや、意地が悪い……。
「だって、ナギ様ですもの!」
セドナが黄金の瞳を輝かせた。嬉しい。こんなに誰かに認められて尊敬されたの初めてだ……。
「そ、そうかな?」
俺が照れて頬をかいた。
「はい。ナギ様なら出来ます」
「……うん。まあ、ソコソコ強いしね、俺……」
「はい。ナギ様はすごく強いです」
「うん。まあ……ね。強いからね……俺……」
口元がにやける。嬉しくて心が熱くなる。
「はい。ナギ様は強いです。魂が強いのです。魔神のような下郎に負けるわけがありません!」
「そ、そうかなぁ……」
『魂が強い』……か。かっこいいな……。
「ナギ様なら、世界を救えます」
セドナが神を敬うよう信者のような瞳で俺を見据える。
「う、うん。なら、やるだけ、やってみようか?」
「はい。及ばずながら、私もお供します。ナギ様の行かれる所、このセドナが何処までもついていきます」
セドナが、小さな胸に手を当てた。
「……うん。……じゃあ、魔神を倒そうか?」
「はい!」
セドナが、芸術美の極地のような美貌に笑顔を浮かべた。
ふいに俺の胸があつくときめいた。
不思議な鼓動が胸をうつ。……やるしかないか……。
戦争なんだ。殺されるよりも、殺した方が良い。当然だよね。
突如、メニュー画面が開いた。
『ああ、1つ言い忘れていました。相葉ナギ様。
貴方は、《食神(ケレスニアン)の御子》だけでなくオーディンからも、《軍神(オーディアンズ)の使徒(マギス)》という、神の恩寵スキルを貰いましたので神力が貴方の器から、溢れかえっている状態です。
大精霊レイヴィア様が、今、死にそうになるほど、必死で調整していますよ』
「……忘れてた……」
そうだよ。女神ケレス様の《食神(ケレスニアン)の御子》だけでも、レイヴィア様の負担になっているのに、更に、オーディンからも恩寵スキルを貰っちまったよ……。
『浮気の代償は高く付きそうですね』
浮気じゃねぇよ。いや、浮気みたいなもんか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます