第43話 オリボルン(オランダの揚げドーナツ)



俺とセドナは古都ベルンの街路を歩いていた。


街はお祭りの準備で賑わっていた。


街灯や商店には煌びやかな装飾が施され、屋台がアチコチに出ている。

祭り前の活気ある独特の空気が微笑ましい。


「そういえば明日から、お祭りだっけ?」


俺が問うと、セドナが黄金の双眸を輝かせる。


「はい。女神アリアドネ様を祀る、年に一度の大祭です」


「女神アリアドネ様か……」


どんな神様なんだろうか?


それと俺達が今、滞在しているヘルベティア王国の宗教はどうなっているんだ?


一神教かな? 多神教かな?


俺が疑問に思っているとメニュー画面が開いた。


『このヘルベティア王国は、多神教です。類似例を探すと、貴方の祖国、日本。及び、キリスト教が、誕生する前の古代ローマ帝国をイメージすると分かり易いと思われます』


ああ、なるほど。分かり易い。八百万の神に古代ローマ帝国か。すると多くの神様がいて、平和的に共存しているわけか。


確かに街路を歩いてると、教会や神殿らしきものが多く見えるが、建築様式がそれぞれ違うし神殿の前にある神像もそれぞれ違う。


暇があったら、この街の教会や神殿を巡ってみるのも悪くないかも……。


なんて考えていたら、腹が減った。糖分が欲しい。もの凄く甘いモノが欲しい。脳が疲れてる……。


当然だよな。ケレス様はともかく、オーディンとか怖すぎたよ。


今更ながらに震えがくる。


疲れた時には甘いモノが一番だ。


甘いモノ、甘いモノ、と思いながら、あたりを見回すと屋台に『オリボルン』があった。


『オリボルン』とは、オランダの揚げドーナッツだ。


俺はセドナに目配せすると、セドナは、眼で頷いた。


眼だけで意思疎通というのは良いね。うん、兄妹って感じ。


俺は屋台に行って、オリボルンを10個買った。


店員が粉砂糖をタップリかけてくれる。


俺とセドナは街を歩きながら、オリボルンを食べた。歩きながら食べるのが通だ。


野球ボールくらいの大きさの揚げドーナッツーー『オリボルン』を俺とセドナは食べる。


思いの外、パリッとした食感。まぶした粉砂糖とパンの味が素朴で良い。

中にはレーズンが入っている。



単調で素朴な味だが、食べやすく旨い。歩きながら食べるのに丁度良い。

屋台には、蜂蜜酒も売っていたので、俺はそれを買って飲んだ。


セドナも飲みたそうな顔をしていてが、兄としてそれは許可できない。


うん。俺はお兄ちゃんですからね。時には妹に厳しいのです!


俺はセドナに、林檎ジュースを買い与えて厳しい所を見せた。


オリボルンを一個食べ終わり、また俺は紙袋からオリボルンを取り出して囓った。


少し硬めのパリッとしたドーナツの味わい。オリボルンと蜂蜜酒を交互に口に入れる。オランダでも、オリボルンはこうして酒とともに食べることが多い。


うん。うまい。


頭に糖分が行き渡って、脳味噌が回復してきた。


同時に、精神と肉体も回復していく。


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『【食神ケレスニアンの御子】発動。

オリボルンと蜂蜜酒を記録しました。……蜂蜜酒……』


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メニュー画面が、蜂蜜酒を羨ましそうに見る気配がする。


ゴメンな、飲ませてやりたいが、どうしようもない……。




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