第42話 神剣〈斬華《ざんか》〉




俺が離れにある道場に入ると、ケレス様とセドナが珍しそうに顔を輝かせた。


外国人に観光案内してるみたいだ。


道場は30坪ほどある。


俺は爺ちゃんと毎日ここで稽古していた。


道場の奥。神棚の下に相葉家の宝剣・〈斬華〉が、置かれていた。


刀掛けに置かれた純白の刀。


柄も、鍔も、鞘も全てが白い。


俺は〈斬華ざんか〉を手に取った。刀が手に吸い付くようだ。


「綺麗……」


セドナが、見とれながら呟く。ケレス様は一歩下がって、静かに見ていた。


俺は鯉口を切って、刀身を見る。


刀それ自体が光を放ち、妖気となって煌めいた。


「こんな綺麗な剣……。初めて見ました……」


セドナが溜息交じりの声を出す。俺は嬉しくなって、わずかに頬を染めた。


「これはね、隕石で作られた刀なんだ」


「隕石ですか? 信じられない……。そもそも、どうして〈斬華〉とい

う名前なんですか?」


セドナが、しきりと感心してくれる。嬉しい、楽しい。そしてよくぞ、聞いてくれました!


「実は、今から、300年ほど前に青森県……、当時は『津軽』と呼ばれていた地域に隕石が落っこちてね。その隕石を当時のお殿様、つまり王様が、刀鍛冶に命じて刀にさせたんだ……」


俺は〈斬華〉を愛撫するように握った。


その隕石は、今まで見たこともないほどの良質の鉄で出来ていたそうだ。


出来上がった、この〈斬華〉は、まさに名刀に値するモノに仕上がった。


自身も剣術を嗜んでいたお殿様は、自身の剣術の師匠である相葉 光延(みつのぶ)に、この〈斬華〉を下賜した。


その相葉光延こそ、俺のご先祖様だ。


実はこの刀が出来上がった時、まだ〈斬華〉という名はつけられておらず、無銘だった、この刀をお殿様は、相葉光延に与えると、


「そなたの剣才を見せてみよ」と、大勢の家臣達の前で命じた。


津軽藩の剣術指南役だった相葉光延は、刀を恭しく受け取ると、庭先に出た。


やがて、美しく咲く牡丹ボタンの花の前に立った。


相葉光延は、当時、67歳という老境の年齢。


好奇心に満ちた家来達の前で、相葉光延は無言で、牡丹の花を切った。


牡丹の花は茎ごと地面に落ちた。彼は、すぐさま牡丹の花を拾い、牡丹の茎を元の場所に戻した。


不審に思った家来達がいる前で、牡丹の花から手を離した。


全員が、驚愕した。


なんと牡丹は、元通りになったのだ。


茎が綺麗に繋がり、痕さえもない。


牡丹は切られたことさえ、気付かなかった。斬られる前よりも艶やかに咲いていた。


お殿様が叫んだ。


「『これ神技なり、古にも今生(こんじょう)にも幾百もの達人ありとて、光延が如き者はおらじ。牡丹の花は、斬られたことを忘れたり。殺し、そして生かす剣。これ神剣と申すなり。この刀、此より〈斬華(ざんか)〉と名付くべし』」


俺は『津軽家歴代 家譜記かふき』にある一節を諳んじた。


セドナとケレス様が、お~っ、と感激した声とともに拍手した。


俺は胸を反らしまくる。


決まった。カッコよすぎる。


「良いお話ですね」


ケレス様が、静かな声音を出して、俺の前に来た。そして俺の手にある

〈斬華〉に視線を投じる。


「……これはあげませんよ?」


俺は〈斬華〉を庇って後ずさりした。


「すごく欲しいですが、さすがにそんな要求はしませんよ」


ケレス様が、首をふった。


「それよりも、〈斬華〉を見せて下さい」


ケレス様が、厳かに言う。その威厳に満ちた声に俺は気圧された。急に


ケレス様の体が、清浄な光を放ち出す。


俺が〈斬華〉を両手で差し出す。ケレス様が、翡翠の瞳で〈斬華〉を見た。


「懐かしい……」


ケレス様が、何かを呟いた。それはあまりに小さな声で俺には聞き取れなかった。


「……この相葉家の宝刀・〈斬華〉に私の加護を差し上げましょう」


翡翠の瞳の女神はそう言うと、〈斬華〉の鞘に顔を近づけ、可憐な唇で口づけをした。


刹那、〈斬華〉が白い強烈な光を発した。光が止むと同時に、俺の体に痺れるような官能を伴う力が伝わる。


「これで、この刀は私の加護を受けました。以後、この刀を『神剣・〈斬華〉』と、呼びなさい」


ケレス様の宣言に、俺は背筋を伸ばし、刀を押し頂いて、深く一礼した。


俺が頭を上げると、ケレス様は翡翠の瞳に微笑を揺らした。


「さあ、もう時間です。フォルセンティアへ、お行きなさい」


ケレス様の言葉と同時に、俺とセドナの体が眩い光に包まれた。


同時に、メニュー画面が開いて、銀鈴の声が俺の脳に響く。



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『〈斬華〉が、神剣に昇格しました。

武器レベル:SSSクラスです』


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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【場所:ヘルベティア王国の古都ベルン】

【相葉ナギとセドナ】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆





眩い光とともに俺とセドナは、ヘルベティア王国の古都ベルンに転移して戻った。


視界が自宅の道場から、ベルンの街にかわっている。


数秒、俺とセドナは街路に立ち尽くした。


「……なんだか。もの凄く色々なことがいっぺんにありましたね……」


セドナが胸に小さな手を当てて、ふうっと息を吐いた。多分、疲れているんだろう。俺も疲れた。ケレス様に会いオーディンという軍神に会い、地球の自宅に戻っていきなり転移された。


……精神的に肉体的に疲弊が凄い……。


俺は街路に設置された時計を見た。午後3時27分だった。


「……取り敢えず、なんか甘い物でも食べようか? 俺は疲れた……」


「はい……」


俺とセドナは、ほぼ同時に吐息した。


ああ、凄い疲労感……。神様となんて、そう簡単にホイホイ会うもんじゃないな……。







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