第31話 魔導
ナギとセドナは古都ベルンの外れにある空き地に移動していた。
ここで戦闘訓練を行うためだ。
ナギはセドナに先生になってもらい、魔力による身体能力の強化方法を教えてもらうことにした。
「お任せ下さい! 私がしっかりと教えて差し上げます!」
セドナが張り切って胸を反らした。
「よろしくね~」
ナギが苦笑する。
ふとナギはセドナの強さを見たくなった。
訓練前に強さを計っておくのも良いだろう。
(メニュー画面、セドナのステータスを見せてくれ)
『了解しました』
メニュー画面が答えて、ナギの視界に数字が浮かぶ。
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名前:セドナ
種族:シルヴァン・エルフ
神族
年齢:10歳。
性別:女性
レベル:10
物理攻撃力 :970
物理防御力:860
速度:1080
魔法攻撃力 :1040
魔法防御力:1850
魔力容量:3020
習得魔法:樹霊魔法(プラント・マジック)
武器:《白夜の魔弓(シルヴァニア)》
守護神:女神ケレス
守護精霊:大精霊レイヴィア
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「あれ? 種族がシルヴァン・エルフと神族と2つある。それに守護神が女神ケレス様になっているぞ?」
『あなたが《眷臣(けんしん)の盟約(めいやく)》によって、セドナ嬢と契約した効果です。セドナ嬢は貴方と魂と魔力が融合し、シルヴァン・エルフであると同時に神族となりました。よって、セドナ嬢が女神ケレス様の守護に浴せるのも、貴方と魂と魔力を融合させた結果です』
「なるほど、分かり易い」
「あの……ナギ様。……質問してもよろしいですか?」
セドナが、綺麗な細い手をおずおずと上げた。
「うん、良いよ」
「時々、独り言を仰いますが……。その……誰と相談しておられるのですか?」
「ああ、……そうか……」
ナギは羞恥で頬を染めた。
確かに独り言をいう変な奴に見えるよな……。
「いや、実はね……」
ナギは、メニュー画面について詳しく話した。
「ああ、それで……。ではそのメニュー画面さんと会話しているのですね」
「うん。まあ、少し腹立たしいこともある奴だけど、メニュー画面はレベルとか、強さを数値で示してくれてね。結構、便利な所があるん」
「……そんな話はじめて聞きました。さすがはナギ様ですね」
セドナが黄金の瞳に尊敬の念をうつしこんだ。
「いやいや、僕じゃなくて、メニュー画面が偉いんだよ」
『そうです。私が偉いのです』
「じゃかましい」
ナギはメニュー画面を消すと、銀髪の少女に向き合った。
「それじゃ、セドナ。魔力による身体能力の強化方法を教えてくれ」
「はい。……とは言いましても簡単です。まず、魔力を練り込む。そして自分の動きにあわせて魔力を発現させる。それだけです。あとはひたすらそれを繰り返すだけ。子供でも簡単にできます。ようするに水泳と同じで体で覚えることです」
「なるほど、水泳と同じか……」
原理を理解するとナギは早速、修行を開始した。
目を閉じて、魔力を練り込む。
魔力を感じることはもうできる。魂、胸のあたりに発生し、炎のように全身に広がる。
魔力が蒸気のようにナギの体内で揺らめき出す。
ナギは目を開けて、呼気をだした。
3秒吐く、6秒吸う。
呼吸と、全身の神経が整う。
ナギは長剣を鞘から抜いた。そして真っ向から振り下ろす。
魔力と連動させるイメージをもって、そのまま袈裟切り、逆袈裟、唐竹割り、居合抜き、小手斬りを行う。数十回の剣閃の後に、身体の動きと魔力が連動しだした。
ふいに全身の細胞が躍動し、筋力があがる。
ナギの五体に魔力が横溢した。
斬撃が数倍の速度になり、体が軽い。
ふいに風が吹いた。冷たい風だ。
木の葉が、視界に映る。
数は七つ。
ナギは長剣を鞘に収めると、腰を落とした。
そして居合抜きで抜刀する。
「しぃッ!」
呼気とともに、剣閃が舞う。
数十の剣光が宙空を切り裂いた。
長剣が鞘に収まると同時に、七つの木の葉が、49枚に切り裂かれた。
セドナは神業とも言うべき剣技を見て驚愕し、ナギに尊崇の眼差しをむける。
だが、ナギは長剣の柄を左手で持ちながら不満そうに吐息を出した。
やはり、長剣はどうもしっくりこない。粗悪で使いにくい。
相葉家の宝剣・〈斬華(ざんか)〉と比べると雲泥の差だ。切れ味、性能、柄、拵え、全てダメだ。
〈斬華〉が今、手元にあれば……。
「ナギ様?」
セドナが夢幻的な美貌に心配そうな表情を浮かべる。
おっといけない。しかし、セドナは直感や観察力が鋭すぎて時々やりにくい。
「いや、何でもない。ところでセドナ。俺に魔法を教えてくれないか?」
「初歩的な攻撃魔法でしたら、私も少々、御伝授できますが……」
「それでいい」
ナギは微笑した。
「ではご説明させて頂きます」
セドナは小さい胸をはった。
魔法は、【地、水、火、風、雷、木】をはじめとして、陰陽魔法、聖霊魔法、召喚魔法と多岐にわたるそうだ。
セドナは、樹霊魔法(プラント・マジック)が得意で、人によって得意な魔法、不得手な魔法が分かれるらしい。
セドナが行使できる初級攻撃魔法で、電撃、火炎、風、教えてもらうことになった。
「電撃の初級魔法としては、《雷鳴(サガル)の射手(マギタ)》がございます」
「《雷鳴の射手》か……。それは必ず詠唱しなくてはいけないの?」
「いいえ、心中で唱えれば良いのです。これを呪文の詠唱破棄と言います。とは言っても、これは人によりけりで、詠唱破棄した方が、魔力の性能が上がる人もいれば詠唱した方があがる人もいますので、個人によって異なります。
心中で雷のイメージを持つだけの場合もありますし、戦闘中には無意識に体が勝手に動いて、電撃魔法を発動させる人もいます」
「つまり個性か……」
ナギは得心した。
「そして、これが、《雷鳴の射手》です」
セドナが右手を突き出した。彼女の掌から電撃の矢が迸り宙空をかけた。百メートル先にある大木の枝に命中し、太い枝が粉みじんに砕け散る。
「おおっ……」
ナギは感動した。凄い、と素直に思う。
「ナギ様、どうぞ」
ナギはコクンと頷いて、片手を突き出した。
心中で、雷のイメージを持つ。
轟音が弾けた。
ナギの掌から、白く太い電撃の矢が飛び出す。セドナが枝を破壊した大木の幹に電撃が矢が突き刺さる。大木の幹が、木っ端微塵に粉砕され、地響きとともに地面に大木が倒れた。
ナギはその後、
セドナによれば、魔法には詠唱が決まった万人共通の『詠唱魔法』と、個人が創造できる『固有創造魔法(オリジナル・マギア)』が、あるらしい。
固有創造魔法においては、詠唱も性能も効果も自身で創作することになる。
「『魔法は深淵にして広大、宇宙と同義の深さと広さを併せ持つ』という格言があります。私は勉強不足で分からないことだらけですが、もしかしたら、大魔道士アンリエッタ様なら、魔法の深淵に触れているかも知れません……」
セドナの言葉を聞いて、ナギは大魔道士アンリエッタに会ってみたくなった。まあ、むこうは超有名人だから、無理だろうけど……。
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