第24話 冥王の使者

体内を巡る神力の使い方が本能で分かる。


ナギは宙空に飛来する矢を視た。


静止している矢の中で、セドナ達に当たる矢だけを選別して、長剣で迎撃する。


疾走しながら、100を超える斬撃を放つ。空間に剣閃が咲き乱れ数百の矢が切断される。


ナギは、そのまま疾風とかして走り死霊騎士デス・ナイトに斬撃を叩き込む。


神力が込められた閃光のような連撃が、死霊騎士デス・ナイトに襲いかかり、10体の死霊騎士が一瞬で両断されて吹き飛ぶ。


ナギは両断された死霊騎士デス・ナイトの上半身を踏み台代わりにして跳躍した。


ジャック・オー・ランタンに向けて、全身を弾丸のようにして突撃する。

時間はほぼ停止したように流れている。


ジャック・オー・ランタンの動きが酷く緩慢に見えた。


そして、ジャック・オー・ランタンを最も効率的に短時間で殺すための方法を理解する。俺は歓喜に唇を歪めた。俺は今冥府の神ケレスの一部と化している。


ジャック・オー・ランタンの眼窩に浮かぶ炎がゆれた。


それは恐怖による揺らめきだと分かった。


俺はジャック・オー・ランタンに斬撃を叩き込んだ。


津軽真刀流奥義:《雷業らいごう


袈裟切り、逆袈裟、振り下ろし、3つの斬撃がほぼ同時にジャック・オー・ランタンの体に直撃する。

ジャック・オー・ランタンの体が、3つに両断されて地面に落ちた。


ジャック・オー・ランタンが絶命すると同時に、死霊騎士(デス・ナイト)は光の粒子となって霧散し消滅した。ジャック・オー・ランタンの三つに分断された死体と、ナギが地面に着地するのは同時だった。


『敵勢力の殲滅を確認。

冥王ケレスニアン使者マギス》を解除します』


メニュー画面の声と同時に、ナギの体が通常時に戻った。バルザック達は、信じがたい光景に気圧され、微動だに出来ない。


セドナだけが動きナギの元に駆け寄った。


「ナギ様!」


セドナはナギに抱きついた。ナギは抱きついてくるセドナに柔らかい微笑をむけた。


「……セドナ、傷は大丈夫か?」


セドナの背中には数本の矢が刺さった筈だ。


「平気です。魔法障壁で矢の威力を弱めましたし、ローブと鎧があるから、皮膚が少し裂かれただけです」


「そうか……。良かった……」


ふいにナギの体から力が抜け、ナギは意識を失った。


ナギが目覚めると後頭部に柔らかい感触があった。セドナの顔が、ナギの顔の至近にある。


「ナギ様……。お目覚めですか? どこか痛い所はございませんか?」


セドナが黄金の瞳に涙を浮かべている。


ナギはセドナに膝枕されていることに気付いた。


「……ああ、大丈夫……」


ナギは、若干照れながら答えた。


「セドナこそ傷の具合は?」


「大丈夫です。全て治癒魔法で治しました。私もナギ達のお身体も……」


セドナは我が子をつつむ母のようにナギの頬を両手で挟んだ。


「……ご無事で……良かっ……た……」


セドナの涙がナギの頬に垂れた。やがて嗚咽し、華奢な体を震わせる。


セドナの銀髪がたれ、ナギの首と胸に銀色の渦を巻いた。ナギは暫くそのままセドナに身を任せた。




◆◇◆◇◆◇◆◇




翌日の朝。


ナギ達はシリス大森林を出て古都ベルンに向かっていた。


馬車が街道をゆっくりと進んでいく。


ジャック・オー・ランタンを退治した後、大量の薬草を採取したので、クエストは大成功と言って良かった。ちなみにジャック・オー・ランタンの死骸はナギが譲り受け、アイテムボックスに収納してある。


ちなみにジャック・オー・ランタンという強敵を倒した立役者であるナギは、今現在、地獄のような筋肉痛に苛まれていた。


「痛い、痛いようぉぉう」


ナギが情けない悲鳴をあげる。馬車が揺れる度に全身に激痛が走る。筋肉が切り裂かれそうだ。


「大丈夫ですか? ナギ様?」


「ナギ~、本気で大丈夫~?」


セドナとルイズが心底心配して尋ねた。


馬車内の床の上に毛布を敷き、ナギはそこに寝かされていた。ほとんど身動きがとれないナギに、セドナとルイズが尽きっきりで世話をする。


(な、なんでこんな筋肉痛が……)


ナギが、苦悶すると、メニュー画面が開いた。


『《冥王ケレスニアン使者マギス》を使用した反動です。多少の痛みはあるでしょうが、単なる筋肉痛ですのでお気になさらず』

(メニュー画面さん、これのどこが多少ですか? 死にそうです。本気で死にそう……。く、苦しい……)


『今よりレベルアップしたら、もっと楽に《冥王ケレスニアン使者マギス》を使用できるようになりますから、ご安心を。

すでにジャック・オー・ランタンと死霊騎士(デス・ナイト)を討伐しましたので、相当レベルアップしました。次回の後遺症は軽微なものになるでしょう』


(いつ治るんだ? この筋肉痛……)


ナギが心中で問うた。


『さあね。まあ、いつかは治るでしょ。さよなら』


(待てやコラ、メニュー画面! 逃げんな!)


 馬車が激しく揺れた。全身に激痛が走りナギは叫んだ。




◆◇◆◇◆◇


 


三日後。古都ベルンに帰還した相葉ナギは、宿屋のベッドに仰向けに横わたっていた。あまりに筋肉痛が激しくて動けない。


(寝たきりのご老人の気持ちが、分かるようになってきた……)


とナギは溜息とともに思った。


しかし、暇だ。何もできない。顔筋も舌までも筋肉痛で麻痺しているから、喋るのも苦しい有様だ。少し状況の整理でもして時間を潰そう。


(メニュー画面さん、聞こえてる?)


俺が問うと視界に長方形のウィンドウが開き、文字と同時に頭に声が響いた。相変わらず綺麗で可愛い女性の声だ。


『聞こえてますよ~』


(安心した。質問です。女神ケレス様からもらった恩寵スキル、《食神(ケレスニアン)の御子》と俺の器との関係性をもう一度、分かりやすく説明して下さい。なるべく小学生でも分かるようにお願いします)


『分かりました。馬鹿でも分かるように説明します』


(おい、今、俺のこと馬鹿と言ったか?)


メニュー画面はナギの突っ込みをスルーして答えた。


『簡単に説明すれば貴方は女神ケレス様から《食神(ケレスニアン)の御子》という恩寵スキルと『神力』という強大な力を与えられました。

だが、その力が強大すぎて現状の貴方には心身を破損する原因にもなりかねません。

 だから、今は女神ケレス様から頂いた力を全力で使うことができないのです』

(そこらへんは理解してる。俺がレベルアップすれば、女神ケレス様から頂いた強大な力を十全に活用できる。そこまでは良い。

 問題はレベルアップの方法だ。モンスターを倒せば、経験値が上がってレベルアップできるのか?)


『はい。すでに貴方はジャック・オー・ランタンと死霊騎士(デス・ナイト)を討伐したので相当レベルが上がりましたよ』


(全然気付かなかった……)


もう少し分かり易く実感できないものだろうか?

とナギは思った。この世界において自己の強さの把握は死活問題だ。









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