第23話 覚醒

セドナは《白夜の魔弓(シルヴァニア)》で、至近距離から矢を連射して、死霊騎士(デス・ナイト)の頭部を破壊する。


 バルザックは戦斧で死霊騎士(デス・ナイト)の頭部を吹き飛ばし、エリザは火球魔法を繰り出して死霊騎士(デス・ナイト)の頭部を燃やしていく。


ルイズはバルザックとエリザのバックアップにまわり、死霊騎士(デス・ナイト)の大剣を小盾(バックラー)と細剣(レイピア)で受け流す。


死霊騎士(デス・ナイト)相手に善戦するナギ達を見て、ジャック・オー・ランタンが不快げな呻きをあげた。


ジャック・オー・ランタンの双眸が歪み、死霊騎士(デス・ナイト)に指示を飛ばした。


死霊騎士(デス・ナイト)は、統制の取れた動きで後退し、横一列の横陣をしき大楯で壁を作った。そして、弩(クロスボウ)を取り出して大楯の隙間からナギ達を狙う。


「くそが!」


バルザックが怒号してルイズを背に庇う。同時にエリザもルイズを背にかばった。


「《樹林(シェイク)の揺(バスケット)り籠(フォレスト)》」


セドナが魔法を詠唱した。


シルヴァン・エルフの少女の樹霊魔法(プラント・マジック)が発動した。


ナギ達を覆うように樹木の枝葉が現れ、球形の籠のようにナギ達を囲って護る。


死霊騎士(デス・ナイト)達の弩(クロスボウ)が、連射された。


矢が霰のように飛んで、ナギ達を囲う、《樹林(シェイク)の揺(バスケット)り籠(フォレスト)》に降り注ぐ。


矢が続けざまに、《樹林(シェイク)の揺(バスケット)り籠(フォレスト)》で形成された樹木に命中して突き刺さる。


矢を完全に防いだが、魔法を行使しているセドナが額に汗を浮かべているのをナギは見逃さなかった。


「セドナ、大丈夫か?」


「……申し訳ありません。あと10秒ほどしかこの魔法を行使できません」


魔力の使用量が大きいため、長時間維持することが出来ないのだ。


「ここまでか……」


バルザックは戦斧を構えた。


エリザがルイズの金茶色の髪を撫で、覚悟を促す。


「ナギ、セドナ嬢ちゃん、俺達に付き合ったせいで、すまねェ。詫びは天界でさせてもらうぜ」


「せめて、あのカボチャ野郎に一太刀浴びせてから、死んでやるさね」


エリザが唇を噛み、ルイズが覚悟を決めて頷く。


「《樹林(シェイク)の揺(バスケット)り籠(フォレスト)》が、消えます!」


セドナが宣言した直後、《樹林(シェイク)の揺(バスケット)り籠(フォレスト)》が消滅した。


矢がナギ達めがけて容赦なく襲いかかる。

ナギ達はそれぞれの武器で降り注ぐ矢をはじき返した。

だが、弩クロスボウの矢は魔法によってマシンガンのように矢を投射し続け途切れることがない。バルザックの背中に矢が当たり、エリザとルイズの肩や腕に矢が命中する。


「セドナ!」


ナギはセドナを抱き寄せて矢から彼女を庇った。

ナギの背中と左肩に矢が突き刺さり、セドナの華奢な背中にも矢が命中する。

ナギの体に激痛が走り抜けた。同時に、苦悶するセドナの顔が視界に映る。刹那、ナギの胸に憤怒が弾けた。激烈な怒りが魂を振るわせる。


(力が欲しい。セドナを護れる力が欲しい)


義憤が魂を満たした。


(こいつらを全員殺し尽くす力が欲しい!)


かつてこれ程強さを求めたことはなかった。その時、メニュー画面が開いた。超高速で脳内に文字が浮かび音声が響く。


『非常事態宣言。

《食神の御子》を発動し、貴方の心身が損傷しない限界まで戦闘能力を向上させます。


『なお、戦闘能力の向上は12・7秒間です。それ以上の時間は生命維持に重大な支障がでるため現時点の貴方のレベルでは不可能です。その時間内に敵を倒して下さい』


『《食神ケレスニアンの御子》戦闘用スキル:《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》発動!』


《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》発動と同時に、ナギの体に神力が吹き荒れた。


ナギの視界が、激変する。


世界の時が、突如、止まったかのようだ。


死霊騎士(デス・ナイト)やセドナ達の動きが、ひどく緩慢にスローモーションのように視える。


ジャック・オー・ランタンの動きもだ。


こちらに向けて飛来している矢すらも、停止しているように視える。


(何だ、これは?)


ナギが、時間の流れが遅くなった世界を見ながら思うとメニュー画面が答えた。


『《冥王(ケレスニアン)の使者(マギス)》の効果です』


『女神ケレス様は、生命の誕生を司る大地の女神・〈豊穣神〉であると同時に、死を司る冥界の神でもあります。冥府の支配者たる女神ケレス様の権能の一部が付与され、貴方は生命、物質、時間、空間、エネルギーを問わず、全ての存在を《死》と《無》に帰す〈使者〉としての戦闘力を発現できます』


その刹那、ナギは全てをまるで本能のように理解した。今の自分は全てを『死』と『無』に帰するための使者。冥府の支配者ケレスの戦士だ。


ナギの体に力が漲る。神力が体内で躍動し、身体能力が飛躍的に上がる。


ナギは、ふぅ~、と呼気をはき出した。


武道の息吹。


全身のバイオリズムが、刹那に整う。


そして全てが敵を殺すためだけに特化される。


肉体が、精神が、魂が、ただ敵を殺戮するためだけに先鋭化され、覚醒する。


ナギはセドナをそっと離した。


そして、黒い双眸に殺意だけを込めて、敵にめがけて突貫した。











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