第22話 ジャック・オー・ランタン

 森の奥から耳を聾する轟音が響き、大気を鳴動させる。思わず全員耳をふさぐ。


「一体なに?」


ルイズが、顔をしかめる。


「魔法の音さね! 近いよ!」


 エリザが杖を構えた時、森の奥から4人の男が飛び出してきた。男達は全員フードをかぶり武装していた。おそらく冒険者だろう。4人組の先頭にいる男がナギ達を見るとニヤリと不吉な笑みを浮かべ小さな玉をこちらに投擲した。


玉が破裂して、異様な匂いが漂う。


「しまった! 待ちやがれ、テメぇら!」


 バルザックが怒号するが、4人組の男達は疾風のような速さで森の奥に消えた。


「うぷッ! なんだこの異臭は?」


ナギが、鼻を腕でかばう。酷い匂いで鼻がもげそうになる。


「モンスターをおびき寄せる匂い玉だ! あの野郎ども、俺達にモンスターを押しつけるつもりだ!」


バルザックによると悪辣な冒険者が使う手の一つだそうだ。自分達では適わない強いモンスターと遭遇した場合、他の冒険者に匂い玉をぶつけて、囮にして自分達だけ逃げるのだ。


(……ということは強いモンスターが来るということか!)


ナギは長剣ロングソードを握りしめた。森の奥から不気味な叫声が響きわたる。神経を逆なでする声だ。


「ナギ様! お気を付けて!」


セドナが叫ぶ。彼女の直感が、強敵の出現を確信した。


「くるぞ!」


バルザックが叫ぶと同時に、森の奥からモンスターが出現した。それはカボチャ型の珍妙な姿をしていた。


「ジャック・オー・ランタン?」


ナギが、呆然と呟いた。

モンスターはまさに、ジャック・オー・ランタンの姿をしていた。縦に5メートル、横に7メートルはある巨大なカボチャが中空に浮かんでいる。


カボチャには、目と口にあたる部分が空洞になっている。二つの巨大な目からは、幽鬼のような赤い光が浮かんでいた。


モンスターが叫んだ。猛悪な殺意が大気をゆらした。



 ナギは、眼前にいるモンスターの外見の滑稽さを笑うことは出来なかった。宙空に浮かぶジャック・オー・ランタンから発せられる不気味な魔力が大気を鳴動させている。


「ジャック・オー・ランタンか!」


 バルザックが、吐き捨てるように言った。高レベルのモンスターであり、森の奥深くにしかいない強敵。


「気をつけろ! コイツは、死霊騎士デス・ナイトを召喚するぞ!」


 バルザックが叫ぶと同時に、ジャック・オー・ランタンの双眸が怪しく光った。地面に魔方陣が複数浮かび上がり、死霊騎士(デス・ナイト)が召喚される。


「一気に30体も……」


 ルイズの顔に恐怖の色が浮かんだ。死霊騎士(デス・ナイト)は、正規軍の重装騎士10人に匹敵する戦闘力がある。それが30体。単純計算で300人の騎士に匹敵する戦力だ。死霊騎士は、ナギ達を包囲した。


「まずいな……」


 ナギは舌打ちすると、長剣ロングソードを正眼に構えた。死霊騎士(デス・ナイト)は、鉄製の分厚い鎧甲に身を包んでいた。身長は2メートル前後あり、身長とほぼ同じ大きさの盾と、分厚い大剣で武装していた。


 兜からのぞく顔はゾンビのように青白く腐敗しており、双眸に宿る殺気は尋常ではない。何よりもマズイのは全員が軍隊の兵士のように統率された動きを取っていることだ。統率された兵士の戦力は個々の総和を上回る。


(こいつら、全員の力を合わせたら……。300,いや、500人の兵士に匹敵する……)


 ナギはごくりと唾を飲み込み、セドナを庇うように体の位置を動かした。刹那、ジャック・オー・ランタンが怪鳥のような叫び声をあげた。死霊騎士デス・ナイトが、ナギ達めがけて襲いかかった。


 死霊騎士デス・ナイト達は、熟練した騎士の動きでナギ達を攻撃した。大剣が暴風のように薙いでナギの頭部めがけて斬り込んでくる。


 ナギは長剣ロングソードで、大剣を受け止めた。巨岩に衝突されたような衝撃を受け、体が後方に吹き飛ばされる。


「ちィッ!」


ナギは顔を歪めた。


(こいつら力が強すぎる。受け流さないと)


 ナギは死霊騎士デス・ナイトの第二撃を長剣ロングソードで受け流した。まともに剣をぶつけ合うと力負けしてしまう。


 ナギは即座に死霊騎士デス・ナイトの脚に自分の脚をぶつけると同時に、腰と膝を捻りこんで転倒させた。


 津軽真刀流・武技ぶぎ:《体落とし》。敵の体に接触し転倒させる技だ。


 死霊騎士(デス・ナイト)を転倒させると同時に、長剣ロングソードを逆手にもって死霊騎士(デス・ナイト)の頭部を突き刺す。


「ダメだ! こいつらは頭部を破壊しないと動き出すぞ!」


 バルザックが叫ぶ。ほぼ同時にナギの足下に倒れていた死霊騎士(デス・ナイト)が大剣を水平に薙いだ。


 ナギはバックステップして、大剣を躱した。死霊騎士(デス・ナイト)がむくりと起き上がる。頭部を刺し貫かれても、まったく動きが鈍っていない。


「ナギ、セドナ! 頭を切断するさね!」


 エリザが叫ぶ。ナギとセドナは心中で頷くと、死霊騎士に躍りかかった。ナギは死霊騎士デス・ナイトの腹部めがけて、長剣ロングソードを下から斜めに斬り上げた。死霊騎士が大楯で防ぐ。ナギは隙を作るためバランスを崩したように見せかけて、後退した。


 死霊騎士(デス・ナイト)が大剣で刺突を繰り出してくる。ナギは刺突を躱しざま姿勢を低くし全身をコマのように回転させて、長剣ロングソードを死霊騎士デス・ナイトの右足に叩き込んだ。


 津軽真刀流・武技旋風斬


 体全体を旋回させて、力を集約した斬撃を放つ技だ。


 死霊騎士(デス・ナイト)の右足の膝。鎧の間接部分にナギの長剣ロングソードが斬り込まれ、死霊騎士(デス・ナイト)の右足が膝から両断された。


 同時にナギは剣をほぼ水平に薙いで、死霊騎士(デス・ナイト)の頭部をはね飛ばす。頭部を失った死霊騎士(デス・ナイト)は地面に横転して動きを停止した。









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