第20話 出立

 市場をあちこち回り、ナギは次々に料理の材料を買ってアイテムボックスに収納した。


買い物が終わると、古都ベルンを出る。


すでにバルザックとエリザが、城壁の近くに馬車を用意して待っていた。


「さて、コイツが目的地までの地図だ。全員分、買ってきたからもっといてくれ」


バルザックが、全員に地図を渡す。


ナギが地図を見ると古都ベルンと北にある森そして、そこまでの街道が描かれていた。


「俺達がむかう森の名はシリス大森林。馬車で北に二日の距離にある。シリス大森林は深部に入ると恐ろしく強い魔獣、モンスターがうようよいやがる危険地帯だ」


バルザックが一度、言葉を切り、語を継いだ。


「だが、俺達の目的は金になる薬草の採集が目的だ。その薬草は、森の外縁に群生している。だから、森の深部に入ることはねェ。

 出てくるモンスターは、せいぜい、小鬼(ゴブリン)、大鬼(オーク)くらいだろう。まあ、安心してくれや」


「質問がなければ、出発するけどいいさね?」


エリザが問うと、ナギ、セドナ、ルイズが首肯し全員馬車に乗り込んだ。


シリス大森林にむけて、馬車が動き出す。


(大勢でパーティーを組んでクエストか……。これぞファンタジーだな)


ナギの胸が熱くなった。

御者台にいるバルザックが馬を操り、その隣にエリザが座っている。


馬車の中には俺、セドナ、ルイズがいる。


ルイズはセドナを膝の上に乗せ、しきりと頭を撫でたり抱きしめたりしていた。まるでヌイグルミ扱いである。


「セドナちゃん、本当に可愛いねェ~。綺麗だね~。ルイズお姉ちゃんは惚れちゃいそうだよ~」


ルイズがセドナの繊麗な体を両腕で抱きしめる。


「……あ、あの……。ありがとうございます……」


 セドナが照れて、体を縮める。


「ん~、でもちょっと、お洒落が足りないかな? ルイズお姉ちゃんが髪を綺麗にセットしてあげるね」


ルイズが懐から手櫛と髪結い用の紐を取り出しセドナの銀髪をいじり始めた。


セドナは嬉しそうに頬を染めて、ルイズのされるままにしている。


(女の子同士のこういうのは良いね)


 と俺は微笑ましく思った。ルイズは、櫛でセドナの銀髪を梳いて結い上げた。左右の耳の上から後ろ髪を一つにまとめたいわゆるハーフアップだ。セドナの銀髪が綺麗に整い、王族のような気品が醸し出される。


「うん! すごい! お姫様みたいだよ!」


 ルイズは満足そうに破顔し俺もウンウンと頷いた。セドナは照れて俯き手をモジモジと擦り合わせている。うん、可愛い。


「いや~、セドナちゃん、本当に可愛いわ~」


ルイズはセドナを後ろから抱きしめる。


「あ、ありがとうございます」


「本当に食べちゃいたいくらいよ。性的な意味で~」

 

 あれ? 今、変なこと言ってなかったか?


「そ、そんな……」


「あ~、セドナちゃんみたいな娘(こ)をお嫁さんにしたいわ~」

 

 段々、ルイズの鼻息が荒くなってきた。


「……いえ、そんな」


ルイズはセドナの耳を甘噛みし、ハアハアと危ない息を吐き出した。そして、セドナの服を脱がしにかかる。


「あ、あの……」


 ルイズが、セドナの頬を舐めだした!


「大丈夫、大丈夫、ちょっとオジサンに体を任せてみい~? 大丈夫、痛いのは最初だけだから~」


「大丈夫じゃない! 何してるんだお前は!」


 俺は怒鳴りつけながらセドナを抱きしめて痴女から奪い返す。


「何するのよ~! 私のセドナちゃんを返して~!」


「返せるか! この痴女が!」


 俺は奪いかえしたセドナを強く抱きしめてルイズから守る。俺の家族になにしやがるんだ。この変態が!


「痴女とは酷いわね~。ちょっとだけセドナちゃんを全裸に剥いて性的な悪戯しようとしただけじゃない~」


「まさしく痴女だよ! ふざけんな!」


 危ない女だ。ルイズと二人きりにはさせられない。


「だって、こんな可愛い子みたことないんだもの~。私だって女の子にエッチなことしたいと思ったのは初めてだよ~」


「エッチなことするつもりだったんかい!」


 俺が突っ込むと、ルイズは舌をペロリと出して、


「ごめん、ごめん、もうしないからさ~」


 と片目をつぶった。


「でも、このくらいは女の子同士の悪ふざけでよくやるコトだよ? ナギ君もあまり過剰反応しない方がいいと思うけど~?」


「……そうなのかな?」


 ま、そうかも知れない。こういうのは男があまり口出しするもんじゃないかも。


「ご安心下さい。ナギ様、懸念されるようなことはございませんから」


 セドナが優しい声を出して俺を気遣う。俺は肩をすくめてセドナを解放した。セドナとルイズが楽しそうにしゃべり出す。俺は肩をすくめた。少し過保護すぎたかもしれない、と反省する。

馬車の外から涼しげな風がふいて俺の髪を乱した。

 窓の外に視線を投じる。風景がゆっくりと流れ馬車がゴトゴトと揺れ

ている。


 遠くで羊飼いが、羊を誘導しているのが見えた。なんとも長閑な光景だ。


(全員無事に、平穏に、クエストが終了しますように)


 俺は神仏と女神ケレス様に祈った。



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