第18話  独断

「取り敢えず、情報を共有したい。セドナ、聞いてくれるか?」


「もちろんです。ナギ様の言うことでしたら、神託と思って聞かせて頂きます」


「……いや、そこまで、大げさに思わなくて良い」


ナギは、セドナにレイヴィアと夢で会話したことを話した。


「……そういうわけで、これから俺は多くのモンスターを退治して、レベルアップに励む。同時に、お金を沢山、稼いでいこうと思う。セドナの意見は?」


「ナギ様の決定に従います」

 

と、セドナは真摯な表情で答えた。


「それにしても、女神ケレス様の恩寵ですか……。やはりナギ様は凄いです……」


「そんなに凄いことなのか?」


「はい。女神や、神から直接、恩寵をもらう御方など、滅多にいません。やはり、ナギ様は神の化身とも言うべき御方なのですね」


「それはないよ。俺を過大評価しすぎだ」


ナギは、セドナの大仰な台詞に苦笑した。


「それに俺はセドナと戦って負けるくらいに弱いからな」


「いいえ、それはナギ様が、御身の宿す偉大な力を運用できておられないだけです。モンスターと戦い、戦闘経験をつめば、神力、魔力を効率よく扱えるようになられるでしょう。そうなれば、私など足下にも及びません。きっと世界で最も強き御方になられます」


「強くなれるのは嬉しいけど、世界一は無理だよ」


ナギは照れて頬をかいた。


(どうも、セドナは一々、大仰だな)

 

と、ナギは思った。まあ、子供だしねぇ……。そして、そんな子供に褒められて、尊敬されていることが嬉しい僕も、お子ちゃまだ。

 

ナギは、心中で苦笑し、思考を切り換えた。


(ドンドン、モンスターを倒して、強くなろう)


元々、戦うのは好きだ。武道家の血がうずく。 


そこで、ふとナギは、昨日、冒険者ギルドで、猪鍋を売る約束をしていたことを思い出した。


(約束した以上は護らないとな……)


「よし、セドナ。冒険者ギルドに行って、猪鍋の残りを売ろう。全部売り切れれば、それなりに金が貯まる。それが終わり次第、モンスター討伐だ!」


「はい!」


セドナが張り切って答え、《白夜の魔弓(シルヴァニア)》を消した。


アーティファクト(魔導具)は、自在に出し入れ可能だそうだ。四次元ポケットのように便利な魔法だな、とナギは思った。


宿屋を出て、冒険者ギルドに向かいつつ、ナギは思う。


(はたして、猪鍋はどのくらい売れるかな?)


(猪鍋は人気があったが、所詮は俺が作った素人の料理だ。あとせいぜい、100……いや50人分、売れれば、良い方か……)


(まあ、売れ残れば非常用の食料として保存しておけば良い。冒険者にとっては保存食も重要だろう)


ナギが考えていると、横を歩くセドナが、クイクイとナギの袖を引っ張った。


「あの……ナギ様……」


「どうした、セドナ?」


「凄い人だかりが……」


 俺が、冒険者ギルドの方に視線を向けると、冒険者ギルドの建物の前に黒山の人だかりができていた。

 その連中は俺とセドナを見つけると、歓声を上げて、俺とセドナを冒険者ギルドの建物に引きずり込んだ。


「はやく、猪鍋を売ってくれ!」


「オラ! さっさと作らんかい! 朝から待ってたんだぞ!」


「オイ! いつになったら、喰えるんだよ!」


「俺は十個もらうぞ!」


「おい、テメぇ、順番を守りやがれ! 殺すぞ!」


「さっさと作れや! ゴルぁああ!」


 俺とセドナは揉みくちゃにされながら、調理場に連行された。俺はこのまま殺されるんじゃないかと思いました。怖かったです。


ナギとセドナは、冒険者ギルドの調理場で必死に猪鍋を作っていた。


(こんなに人気があるとはなァ……)


 ナギは予想外のことに、驚きつつ華麗な手際で調理していく。肉を切り分け野菜を切り巨大な調理用の大鍋に放り込む。出来た猪鍋をレストランに運ぶと、すぐに売れた。


 ナギとセドナは調理場とレストランを往復し、あっと言う間に猪鍋は完売した。


 200人以上に売りさばき、売り上げは11万2300クローナになった。(ちなみに、『釣りはいらねェ』という大雑把な冒険者が今回も多かった)


◆◇◆◇


 ナギとセドナは、猪鍋を売り終えた後レストランで昼食をとった。サンドイッチを食べ、食後のコーヒーを静かに飲む。セドナが、コーヒーに砂糖を沢山入れるのを見てナギは微笑した。ふと、ナギはコーヒーの香りを嗅ぎ味を確かめる。


《食神の御子ケレスニアン》の影響だろう。いつの間にか、嗅覚や、味覚のレベルがあがっている。

 コーヒーの豆が良くないのが、すぐに分かった。正直、サンドイッチも、このコーヒーもあまり美味いものではない。

 

(あれ?)


 とナギは思った。

《食神の御子ケレスニアン》が発動しない。

 料理を完全再現するというスキルは、どうしたんだ?

俺の疑問にメニュー画面が開いた。脳内に声が響く。


『 《食神の御子》の料理完全再現スキルは、私の独断と偏見において、発動されます。あしからず』


「判断基準が、独断と偏見かよ」


 と俺は突っ込んだ。だが、まあマズイものや、たいして必要ない料理を覚えるのは無駄だからな。取捨選択。いい判断だ。



「ま、これからもよろしく。頼りにしてるよ」


俺はメニュー画面にむけて、呟いた。


『こちらこそ』


 メニュー画面の声は嬉しそうだった。


 俺はコーヒーを飲み終わると、壁にかけてある時計を見た。壁時計に表してある時間の単位が地球と全く同じなのだ。ふと疑問に思う。


「なあ、セドナ」

「なんでしょうか? ナギ様」

「この世界の一日は何時間なんだ?」

「? 24時間ですが?」

「一年は何日間だ?」

「365日です」


俺はさらに詳しくセドナに尋ねた。そして分かったのだが、この世界は地球と時間の単位が、まったく同じだ。


 地球の自転周期と同じなのだろうか? ここまでピッタリ同じというのは、本来あり得ないと思うのだが……。小説でよくあるパターンはここがもう一つの分岐した地球というパターンだが、いくら推論しても答えが出そうにない。


うん、今は深く推察しないでおこう。


その時、後ろから野太い声が聞こえた。


「おいボウズ」


俺はこの声に聞き覚えがあった。振り返ると、やはりそうだ。最初に猪鍋を喰いたいと言ってきた、身長2メートル近い巨漢だ。


「猪鍋、旨かったぜェ。あんがとよォ」


腹に響く声で巨漢が言う。


「どう致しまして」


俺が言うと、セドナもペコリと頭を下げる。


「どうだボウズ。俺達と一緒に、クエストをしねェか? 報酬は山分けだ」


俺は、数度、瞬きをした後、セドナを見た。銀髪のシルヴァン・エルフが、瞳に賛意の表情をしめした。


「話を聞かせて下さい」

「おう」


巨漢と、その後ろにいる2人の女性が椅子に腰掛けた。


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