死の宣告は唐突に
「用件を言え」
目の前に突きつけられる白い仮面。
心なしか不機嫌に思えるのは気のせいだろうか。
「ま、まず、お前はなんなんだ?」
「答える必要はない」
「それじゃ納得できない。ちゃんと答えろ」
ひやり、と首筋に冷たさを感じた時には、ボクは地面に転がされていた。
床にぶつかった衝撃が側頭部を襲い、視界に映っているのは呆然と立ち尽くすボクの体。
栓が外れたようにびゅーびゅーと血を撒き散らす、ボクの首無し死体が目の前に……。
「うわあああぁぁぁっ!」
反射的に首元に手を当てる。
生きている。
血が通っており、胴体とも繋がっている。
足元にも頭は転がっておらず、変わった点といえば死ね神が大鎌を手に持っているくらいだ。
「い、いまのっ、はっ……!?」
死ね神によって幻覚を見せられたのか。
それとも、ボクが勝手に幻覚を見たのか。
どちらにせよ、これ以上死ね神の機嫌を損ねれば幻覚は現実になるのだろう。
「お前は慈悲によって生かされている。それを忘れないことだ」
「は、はぃ……すみませ、んでした」
「他に用件はあるか?」
「あ、え、な――」
ない、と言い掛けて慌てて言葉を呑んだ。
ボクが調子に乗っていたのは事実だ。
殺されかけて恐々としているのも事実だ。
しかしここで怯んではいけない。
少しでも前に進むためには情報を集めなければならない。
ボクのためにも、抄のためにも。
「え、っと……ど、どうしてボクを殺そうとするんで、するんだ?」
「答える必要はない」
「で、でも、自殺願望を持っている人ってたくさんいると思うし、ボクである必要なんて」
「二度は言わぬ」
これ以上同じ質問を重ねれば、大鎌がボクの血に濡れることになるのだろう。
「あ、じゃ、じゃあ、理由を探すのに時間制限ってあるのか?」
「制限……」
「……」
「……」
死ねない理由を探すのにいつまでも待ってくれるのならば、それはボクを殺すつもりがないと言っているのと同じだ。
制限がないはずがないと思っていたのだが、死ね神は答えに窮しているような様子を見せていた。
「あの、ちょっと?」
「……」
まさか、期限がないなんてことがあり得るのだろうか。
もしくは、上手くやれば期限なしで説得することもできるのかもしれない。
「……」
「もしかしてだけど、時間制限なしとか――」
「三日後だ」
突然。
本当にいきなり死ね神はそう言い放った。
「ちょ、ちょっと待て! その三日って数字はどっから出てきた!」
「答える必要はない」
「それ絶対思い付きだろ! ふざけんな、三日とかそんなんで見つかるわけないだ――」
朝日が反射し大鎌がぎらりと光る。
これ以上文句を言うと三日も待たずに今すぐ死にそうだ。
期限なんて訊かなければよかった。
訊かなければ少なくとも三日なんて三秒で考えたような締め切りにはならなかったに違いない。
「用件は終わりか」
唐突な余命三日宣言をされて冷静でいられるはずもなく、このまま下手な質問をするとまた自らの首を絞めかねない。
いつでも呼び出せるということを知れただけでもよしとして、死ね神には一旦お引取り願うのが最善だろう。
「い、今はない。また聞きたいことができたら呼ぶ」
返事をすることもなく、死ね神はその姿をコンクリの床へと沈めて消えてしまった。
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