再会と弱点と
「え、ああぁっ? はあ?」
ボクの驚愕もお構いなしに、死ね神は重く冷たい声を発した。
「死ねない理由は見つかったか?」
「お、お前、ど、どこから?」
「理由は見つかったかと訊いている」
「え……あ、いや、ま、まだだけど」
「そうか。ではさらばだ」
死ね神は簡潔に答えると、その体をラウンジの床へと沈め始めた。
「ちょ、ちょっと待て! お前、なんで現れたんだよ!?」
「理由を見つけたら呼べ。死にたくなったときにも呼べ。殺してやる」
それだけ一方的に告げ、死ね神は完全に潜ってしまった。
「おい、おいって!」
返事はない。
床を叩いてみても、ペチペチと硬い感触がするだけだ。
「なんなんだよ……」
死ね神が突然現れたことには不意を打たれたが、しかしよく考えればそれは幸運でもあった。
ボクが抱えている問題の原因は死ね神にあり、死ね神が重要なキーであることは間違いない。
死ね神と会話をして新たな情報を得られれば、事態を動かすことができるだろう。
どうにかしてもう一度死ね神を呼び出す必要がある。
死ね神が現れたのはボクが死にたいと呟いた直後だ。
そして先ほども死にたくなったら呼べと言っていた。
つまり、死ね神はボクの声をどこかで聞いているのだ。
「……おい、訊きたいことがある」
ラウンジにボクの声が響く。
虚空に話しかける姿なんてとても人には見せられないが、この状況で恥をかくことを気にしてはいられない。
ラウンジに人が来ないことを祈りながら、ボクは言葉を続けた。
「頼む、どうしても知りたいことがあるんだ。出てきてくれ」
死ね神は現れない。
やはり何かキーワードが必要なのだろうか。
死ね神が相手をせざるをえなくなるような、そんな言葉が……。
「……どうしても死にたくない理由が見つからない。もしかしたらお前と話をすれば見つけるきっかけになるかもしれないんだ」
もちろん理由を見つけたいなどというのは嘘だ。
理由を見つけたら殺すと言っている相手に、理由を探したいから協力してくれなんて言うわけがない。
しかし瞬きを一つすると、ボクの目の前には死ね神が佇んでいた。
疑惑が確証に変わる感覚。
どうやら死ね神はこの話題に弱いらしい。
ボクを納得させるために抄の死後の願望を叶えるほどに。
ボクが適当に死にたくない理由を見つけたいと言っただけで簡単に姿を見せるほどに。
死ね神はこの話に食いつかざるを得ないようだ。
これは、うまく利用することができれば延命に繋がるかもしれない。
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